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03 ギルド

シロノ、冒険者になります。


 シロノとレムはギルドにやって来た。

 木造2階建てで看板には靴の絵が描かれている。


「ありがと。ここまででいいよ」

「帰りに迷子になんなよ!」

「先輩にもらった地図があるから平気ですー」


 ギルドの中は喫茶店のようだった。

 テーブル席が4つ。

 うち2つは埋まっている。

 10台後半の3人組と、20代後半の2人組だ。

 カウンターには職員らしき人が3人いる。

 左が若い女性。

 真ん中はモノクルをかけたオールバックの男性。

 右はスキンヘッドで半袖のマッチョな中年男性。

 シロノは真ん中の男性の所へ行こうとするが、中年男性がニッカリ笑いながら手招きしてくる。


「新顔だな! 新入りは俺が受け付けてるんだ! ハンサムが良けりゃさっさと実力つけるんだな!」


 部屋中に響く大声で話す中年男性。

 シロノは仕方なく男の前に座った。


「俺はマシブ。今は職員やってるが、数年前まで冒険者やってた。分からないことがあったら俺に聞け!」

「よ、よろしくお願いします……」

「で。用件は冒険者の登録か? 依頼か?」

「登録です」


 マシブは見た目に反してテキパキと事務手続きをこなした。

 名前、前衛か後衛か、得意なことは何かなどを質問しては書類に書いていく。


「得物は?」

「これです……マジュー、だったかな?」

「なんだこりゃ? 鈍器か?」


 シロノはミハエルに聞いた説明をマシブに話した。


「ああ、魔法を撃つ銃で「魔銃」か。ぶっ壊れたりマナ切れ起こした時の備えは?」

「砂かけて全力で逃げます」

「ぶはは! お前さんは長生きするぜ! んじゃ、さっそく裏庭で実力を見せてもらうか!」


 ギルドの裏庭は開けた空き地だった。

 10メートルほど離れたところに丸太が数本立っている。


「人間だと思って頭のあたりをねら」


 ヒュ、カッ。


 丸太が1本倒れた。


「へえ~。「氷の矢」って本当に氷が飛んでくんですね」


 ヒュ、カッ、ヒュ、カッ。


 丸太はどんどん倒れていく。

 子供のようなキラキラした目で引き金を引くシロノを、マシブは慎重に観察する。


(血に酔う性質には見えねえが……殺しが遊び感覚だった奴にちと似てるか?)


 マシブは賞金首に墜ちた冒険者達とシロノを見比べていた。


(釘さしとくか?)


 数回だが、経験上”危ない”と感じた者に気をつけるよう注意したことがある。

 残念ながら全員が賞金首となってしまったが。

 その内の1人が捕まった時に「お前のおかげで目覚めることができた! ありがとよ!」と叫んだ。

 その言葉は全く気にならなかったが、慰めてきた魔法使いの言葉は今でも覚えている。


『するなと言われると逆にやりたくなるのは分かるが、それが許されるのは子供までさ』


 マシブは改めてシロノを見る。

 中性的な顔立ちの美少女。

 「氷の矢」を立て続けに6回も放っているが、疲労の色はない。

 心底楽しそうな様子は少年にも見える。

 

(まるでガキだな)


 マシブは”注意するのは逆効果になりかねん”と判断した。

 

「シロノ。お前さんは筋が良い」

「そうですか? ありがとうございます」

「ああ。シロノは良い狩人になれる。畑を襲う獣を間引き、新鮮な肉を街にもたらす。有望な新人を受け持てたことを俺は誇りに思う!」


 がっはっはと笑いながらマシブはシロノの頭を手荒に撫でた。

 

「お前さんの実力はだいたい分かった。森の浅いところまでなら狩りをしても大丈夫だろう」

「やったあ!」

「ただし。ソロはダメだ。まずはパーティを組め」


 シロノは唇を尖らせた。

 パーティを組むとそれだけ分け前が減ってしまうのだ。


「これには理由がある。シロノの腕なら何匹も獣を狩ることができるだろう。だがその後はどうする。狩った獲物を全部自分で運ぶつもりか?」

「あ……」


 弓も満足に引けない筋力では難しいだろう。

 それにシロノは後衛だ。

 極端なことを言えば、弓を持った僧侶が1人で熊に立ち向かうのと同じことになる。


「最低でも前衛、引きつける奴が必要だ。欲を言えば運び屋と治療魔法の使い手がいれば上出来だ」

「さっき居た3人組と2人組に声をかけろと?」

「3人組の方は日は浅いが勢いはある。目標も遺跡の踏破、危険種の討伐、有名になって成り上がるとか分かりやすいな。2人組は経験は豊富だが慎重過ぎる。無理は絶対しないし安全な仕事だけをこなす」

「2人組に声をかけてみます」

「紹介状を用意してやる。話がうまく進むはずだ」


 シロノはギルドに戻った後、紹介状持って2人組に話しかけた。

 剣を腰に下げた長身の男とローブを着た痩せた男がシロノの方を向く。


「あの、森の浅いとこで狩りをしたいんですけど、パーティを組みませんか」

 紹介状を剣の男はひったくった。

「すいやせん。兄貴はちょっと乱暴ですが悪気はないんっす」

「はあ……」

「あっしはテッタといいやす。しがない僧侶っす。「解毒」と「洗浄」しかできやせんが、料理は得意っす」

「俺はゲスールってんだ。見ての通り一応戦士だ。シロノっつーのか? 狙撃の腕は確かみてえだな」


 ゲスールと名乗った男は握手を求めてきた。

 シロノはそっと握り返す。


「俺らは命が一番だ。無理は禁物。稼ぎは決して良くはねえ。組むならそこんとこ覚悟しとけよ」

「ちょっと待った!」


 隣のテーブルにいた、鎧を着た青年が声を上げあた。


「君らのような落ちぶれた輩に彼女はもったいない。前途ある若者は夢を追うのが冒険者だろう?」

「それはてめえの意見だ。押し付けんな」

「何! 俺はアルト流剣術。あんたは我流だろ。勝ち目はないぞ」


 青年の態度に、シロノはどんどん白けていくのを感じた。

 自分の意思を捻じ曲げようとする者に、シロノは嫌悪を抱くようだった。


「ボクは自分で彼らを選んだの。邪魔しないでほしいな」

「まあ待ちたまえ。彼らが冒険者の間でなんと呼ばれているか知らないだろ? 「雑草」だ。やることなすことセコイ、しょうもない奴らさ」

「君が彼らと組みたくないのは理解したよ。忠告はありがたいと思う。もし気持ちが変わったら、その時は改めてお願いするよ」

「……あくまで意見を変えないつもりか。後悔するぞ」

「しつこい男は嫌われるよ?」


 青年はまだ何か言いたそうだったが渋々席に戻っていく。


「おめえ、なかなか肝が据わってんな」

「あっしは肝が冷えたっす……」

「だが、我が強ええのは欠点にもなる。まず、俺がリーダーだ。俺が撤退と言ったら何がなんでも撤退すること」

「はい」

「次だ。報酬は山分け。仲間はもう1人いて、そいつは「索敵」が使える身軽な男だ。おめえの狙撃と相性は良いはずだ」


 マシブにパーティ申請をして、3人はゲスール達の拠点にいるもう1人の仲間を迎えにいくことになった。


「あ、途中で野菜買ってきてもいいっすか。そろそろ切らしそうなんす」

「ボクはいいですよ?」

「……なんかすまん」

ギルドは最初、酒場にしようと思いましたが「真昼間から酒が飲める職場なんてあるの?」という素朴な疑問から喫茶店にしました。

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