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29 愛のために

 肩から鷹が飛び立った。

 ランはリブの鳩尾めがけて棒を鋭く突く。

 リブは先端を殴る。

 棒がすっぽ抜け、ランの胸を強打した。


「馬鹿が! 止まって見えるぞ!」


 舌打ちをするラン。

 慌てて拾おうとするも、棒を踏みつけられ、殴り飛ばされた。


「また親分の一抜けかよ! 皆、超殲滅陣でいく、ぎゃあああ」


 空高く打ち上げられる山賊。

 拳を上げたままのリブへ、3人の山賊が襲いかかる。

 1人は後ろから突きを。

 1人は脇腹に、もう1人は真正面から囮役として抱きつきにいく。


 トン。


 軽いステップで横に跳ぶリブ。

 囮役の山賊は仲間の突きで喉を打たれた。


「あ、ごめん!」

「馬鹿っ、練習じゃないんだから集中しろって」

「そのとおりだ! 仲良く寝てろ!」


 山賊2人は引き寄せられ、ゴチンとお互いに頭をぶつけ合う。


「そら! 看病してやれ!」


 周りの山賊めがけて2人を投げるリブ。

 避ける訳にも叩き落す訳にもいかず、受け止めようとした山賊がさらに2人倒された。

 チャンスをうかがっていたポーが、背後から飛び掛った。


「くらえ! 『頭蓋粉砕打』!」

「愚か者! 不意を突くなら叫ぶな!」


 ポーの必殺の一撃を、リブは頭を傾けるだけで避けてしまう。

 棒を引っ張られ、引き寄せられたポーは腹を殴られた。

 数メートル後ろに吹き飛ばされるが、すぐに起き上がって棒を構えた。


「ほう? 今のを耐えるか。いいだろう。最後の1人だ。ゆっくり相手をしてやる。さっきのでも、他の技でも好きなものを使うがいい」


 リブは腰を落として構えをとる。

 ポーが周りを見回すと、仲間は全員気絶しているのか、地面に横たわって動かない。

 親分の方を見ると、視線が合った。

 すぐに親分は目を閉じる。


(死んだふりかよ!)


 先に親分に「頭蓋粉砕打」を放ってやろうかと考えるが、すぐに目の前の少女に集中することにした。


「おあああ、ああっああお」

「ぐはっ」


 横からの衝撃に、ポーは地面に転がる。

 見ると棒を咥えたダッグがいた。


「師匠!」

「ぺっ……ここは私に任せたまえ。今は逃げ、機会を覗うのだ」

「すげー痛かったんですけど! もっと手加減してくだせーよ!」

「何か文句があるのかね?」

「あ、すいやせん」


 ダッグは棒を咥え直す。


『リブ君。ここは私に免じて引いてはもらえまいか』

『ダッグか。お前が山賊の一味とは驚きだな。シロノが知ったら悲しむぞ?』

『あ、リブ。どうせオークを狩るためとかだから、気にしないでお灸を据えてあげてよ』

『……だそうだ。シロノ、木の上か影から見ているのだろう。援護はいらん。私の勇姿を見ておくがいい』

『うん、頑張ってね』

『任せろ』


 リブはにやりと微笑んだ。

 足元に金色の魔法陣が浮かび上がる。


『……どうしても引いてもらえないのかね』

『むしろ何故そこまで山賊を庇うんだ? そこに転がってる奴の師匠なら、自分で狩ればいいだろう』

『私にも色々あるのだよ。だが、そういうことなら手加減はしない。我流オーク殺法、その身でとくと味わうといい』


 後ろ足で肉球を自分に押す。

 ぞわりと毛が逆立つ。


『いざ!』


 風のように駆けるダッグ。

 ジグザグに移動したかと思うと、リブの周りを走り始めた。

 スピードがどんどん速くなり、残像でダッグが何頭もいるように見える。


『その腕……貰い受ける!』

『その程度か? 私がそんな安い挑発に乗ると思っているなら、心外だな』


 ダッグが立ち止まる。

 何故か4頭いた。


「なに?」

「ぐるるっ(北斗十字突き!)」


 4頭が一斉にリブへ飛び掛る。

 リブは迷うことなく、ある1頭に向き合った。


(おや? 何故私の『囮』がバレて……くっ、『看破』か?!)


「敵意が無い。殺意が無い。私にそれは悪手だな」

「!?」


 ダッグは寸でのところで体を捻り、リブの蹴りを避ける。

 かすっただけなのに、右前足が折れた。


「魔法使い相手に手加減はせん。『封印』」


 ジャラジャラジャラジャラ。


 魔法陣から鎖が何本も飛び出し、ダッグに絡み付いていく。


(あ、ありえない。何だこの魔力密度は)


「驚くのも無理はない。そいつは私の『とっておき』だ。まぁ、変わった召喚獣とでも思えばいい」

「ふむ。これはやられた。だが、私も奥の手の1つや2つあるのだよ」

「百も承知だ。ところで、オーク・キングの最期を覚えているか?」


 リブは石を拾い上げた。

 背後に黄金に輝く魔法陣が展開される。


「参りました」

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