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27 迷宮3

 ミーノスは玉座を持ち上げ、部屋の隅に移動した。

 シロノ達も壁際に移動する。

 玉座の間の中央で、騎士ムウとミラルダが対峙する。


「モゥ(暗黒騎士ムウよ。斧はどうしたのだ?)」

「ムー(ファラリスを背負うために、置いてまいりました。ご安心を。徒手空拳でも遅れは取りません。今宵、我が拳は血に飢えておりますゆえ)」

「モゥ(敵を前に侮るな。今、ミノに取りに行かせる)」


 鈴を鳴らす。

 メイド服を着たミノが走ってきた。

 ミノはすぐに斧を持ってくる。


「モォ! (頑張ってね! ムウ兄!)」


 ミノは斧を物凄い勢いで投げた。

 騎士ムウは腕を伸ばす。

 掴み損ね、ドゴ、と腹に当たる。

 鎧は少しへこみが出来たが、騎士ムウは涼しい顔で斧を拾い上げた。

 ミラルダも剣を抜いた。


「双方、始め!」


 ミラルダは後ろに跳んで距離を取った。

 ムウは斧を頭上に掲げる。

 斧が、淡く光り始めた。


「ムー(星が瞬き、月が輝く。夜の女神はただ微笑む)」

「……?」

「ミラルダ! 魔法だ! 潰すか避けるかさっさとしろ!」

「は、はい!」


 ミラルダは慌てて距離を詰める。


「ムー(死、それは静寂なり『鎮魂』!)」

「くっ」


 ミラルダはとっさに横へ跳んだ。

 振り下ろされた斧が、石畳を砕く。


「ねぇリブ。あれって魔法なの?」

「妙だな。ただの上段斬りだ。不発か?」


 ミノも野次を飛ばす。


「モォ! (ムウ兄! あたしが掃除するんだから、部屋を壊さないでよ!)」

「ムー(す、すまん。別の技にする)」

「モォ! (次壊したらおやつ抜きだかんね!)」


 ムウは斧を横に構える。

 また斧が光を帯び始める。

 ミラルダは壁際まで後ずさった。


(横薙ぎなら壁を蹴って頭を狙う! 魔法なら避ける!)


「ムー(死の女神ツヤミトルは言う。そは安らぎなり。あまたの魂よ、永遠なれ!)」


 ムウはミラルダ目がけて突進、横に斬りつけた。

 跳んで避けたミラルダの剣が頭を襲う。

 ムウは首をひねって肩で受けた。


「ムー(地獄の蓋が開かれる。幽玄の風が吹き荒れる。貫け! 昇牛角!)」


 すくい上げるような斬り上げ。

 ミラルダは余裕を持って避けた。

 がら空きの脇腹に一撃を加える。

 さすがに堪えたのか、ムウは血を吐いた。

 しかし、再び斧を構える。


「ねぇリブ……あのミノタウロス、攻撃するまでやたら遅くない?」

「うーむ。呪文を唱えているようなのだが……全て不発だ。最初はただの上段斬り。次はただの横薙ぎ。そして今の斬り上げ。どれもただの斬撃だ。油断を誘って遠距離から仕留める布石か何かか?」

「アヌアは何言ってるか分かる?」

「ごめんね。知らない単語ばかりで分からないわ」


 シロノ達が首をひねる一方、ミーノスが念話で指示を出す。


『暗黒騎士ムウよ。開放した力とやらを使ってみよ』

『くっ、申し訳ありませぬ。既に使っております』

『なに? それは真か』

『は! 斧が聖なる光に包まれるのが証拠でございます』

『それは”灯り”であろう。詠唱破棄までに至ったのは褒めてつかわす。だが、いや、いい。ここは退け。考えがまとまった』

『王、お待ちください! 私はまだやれます!』

『ミノにおやつ抜きにさせるぞ」

『あ、それだけはご勘弁を』


 ムウは斧を下ろした。

 いぶかしむミラルダに、ミーノスは試合終了を告げる。

 ミーノスはアヌアに話しかける。


「その剣士に免じて、そなたの提案を受け入れよう」

「あ、ありがとうございます!」

「聖女だけを警戒するのは愚であると考えた。鎧の件も前向きに考えよう。その代わり、冒険者どもは騎士達の実戦経験を積む相手として利用させてもらう」

「戦争にならないよう、何が禁忌なのか、お互いに教えあう機会も作ってほしいんですが」

「……それも必要か。そのような提案が淀みなく出てくるところを見ると、幾つもの迷宮が滅んだというのも、あながち嘘ではないようであるな」


 ミーノスは何点か話し合った後、細かい調整は後日行うことになった。

 アヌアは仲間の元に案内されることになり、シロノ達は街に帰ることにした。

 帰り際、ムウが首飾りを渡してきた。


「友好の証である。息災にな」


 森を抜けて、繋いでおいた馬に乗る。

 リブは気になっていたことを聞いた。


「シロノ。ミノタウロスが自滅した時に、何を投げたんだ?」

「ああ、赤いパンツだよ」

「なに! 私にくれたやつじゃないだろうな!?」

「大丈夫。余ってたやつだから。あんなに効くなら、また買いにいかないといけないね」

「ならいいが……おい馬! ミラルダの後を追いかけろ!」


 馬は動かなかった。


「あ、その馬はちょっと癖があるみたいです。俺がこっちの馬に乗ればついてくるはずですよ」


 ミラルダは馬を乗り換えた。

 今度は走り出した。

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