25 迷宮1
青い空の下、流れる木々を眺めながら、シロノは初めての乗馬を楽しんでいた。
リブの長い金髪が風になびいて、体中をくすぐるのにも慣れてきた。
「おーい」
馬車が見える。
横にいる男が手を振っていた。
シロノはアヌアに声をかける。
「アヌアさーん。無視して進んでー」
「えっ? きっと困ってるんだと思うわよ?」
「山賊かもしれないからー」
シロノ達は馬車の横を走り抜ける。
30分程して、アヌアは馬を止めた。
森の中をしばし歩くと、木々が何十本もなぎ倒され、地肌が剥き出しになった場所に出る。
奥の方に洞窟が見えた。
「あそこが迷宮の入り口よ」
洞窟に入ると、壁に案内板がかかっていた。
その下には石の置かれた羊皮紙がある。
羊皮紙には「アヌアへ、はじめの曲がり角を右に行く」と書いてあった。
洞窟は4人が並んで歩けるほど幅があり、天井も高い。
自然に出来た穴というよりも、人の手により掘られたようだった。
通路を進むと、光が届かなくなり、だんだん暗くなっていく。
アヌアは荷物から松明を取り出し、火をつけた。
土の通路は途中から石造りになる。
程なくして、一行は曲がり角にたどり着いた。
「あれ? 左は壁だよ?」
「変ね。わざわざ書置きするかしら」
アヌアは松明を壁に近づける。
ゆっくり下ろしていき、床を見た。
壁を押してみるが、びくともしない。
「足跡が左に行ってるとかもないわね。寝坊した腹いせかしら?」
「今度から気をつけることだな。距離が開く前にさっさと追いかけるぞ」
シロノ達が右に進むのを「遠見」で監視している者がいた。
ローブを羽織った、筋骨隆々のミノタウロスである。
ローブのミノタウロスは直ちに騎士ムウに報告をする。
「モウッ(ムウ様。侵入者あり。剣士1人、魔法使いらしき女1人、あとは少女と子供の2人です」
「ムー(また賊か。そいつらはどこに向かっているのだ?)」
「モウッ(え、えーっと、炎の罠を設置した)」
「ムー(どこに向かっているのだ?)」
ローブのミノタウロスはもじもじする。
「……モウッ(……罪深き者を断罪する赤き浄化の間です)」
「ムー(うむ。分かっているなら良い。何故初めから言わないのだ)」
「モウ(だってこれ、邪炎騎士物語に出てくる呪文じゃないですか。何より長いですし、こう、言うのを躊躇われるというか)」
「ムー(これは暗号の意味もあるのだ。我らが奴らの言葉を識るように、奴らも我らの言葉を理解しているかもしれぬ。古代ミノタウ語ならまずバレぬ)」
(絶対、ムウ様の趣味だよ……)
ローブのミノタウロスはムウを尊敬しているが、これだけはついていけなかった。
騎士ムウは鈴を鳴らす。
すぐに子供のミノタウロスが走ってきた。
「ベェ~(フタ、ただ今参りました!)」
「ムー(ファラリスに出番だと伝えてくれ。あと、エノキとワミアに入り口の壁を操作するようにと。そうだな。次は天輪の定める相克の間にするか)」
「ベェ~(天輪の定める相克の間ですね! ムウ様、黒十字騎士団の続き、また聞かせてくださいね!)」
元気よく駆けていく子供の後ろ姿を見送りながら、騎士ムウは言う。
「ムー(あいつは中々見所があるな)」
ローブのミノタウロスは、後でちゃんと教えてやらなくては、と妙な使命感を持つのだった。
シロノ達は長い螺旋階段を下りていた。
「なかなか会えないね」
「注意して見てたけれど、隠し通路もなかったし、特に調べるような物もなかったから、きっと先に行ってしまったのでしょうね」
「もし分かれ道があって、どっちに行ったか判断できなかったら引き返そうと思うんだけど、どうかな?」
「……そうね。罠があるかも知れないし、そうしましょうか」
「悪いが、時間制限も付けさせてもらう。30分だ」
「リブさん。短すぎませんか?」
「アヌアには悪いが、調査よりも身の安全だ。今まで常に神経を尖らせてきたが、集中力の限界というものがある。経験上、あと1時間ほどしか持たん」
階段を下りきると、広い空間に出た。
橋の代わりのように、細長い通路が伸びている。
通路は1人ずつしか歩けず、足を踏み外せば数メートル下の床に叩きつけられるだろう。
4人は慎重に、松明を持つアヌア、リブ、シロノ、ミラルダの順に歩く。
通路も半ばという所で、リブはアヌアの腕を掴んだ。
「待て。何か来る」
「え?」
ズゥン。
背後から音が聞こえた。
「ミラルダ! 後ろを見てこい! アヌアはしゃがめ! シロノ、構えろ!」
ボッ。
両側の床が炎に包まれる。
通路の向こうから、鎧に身を包み、大きな盾を持ったミノタウロスが現れた。
ズゥン。
出口が壁に塞がれた。
「モー(王の心を乱す不届きな賊め! 炎に焼かれて死ぬがいい!)」
盾を構えて突進してくるミノタウロス。
「氷の矢」で兜の隙間を狙うも、盾に弾かれる。
飛び出そうとするリブの肩を、シロノが掴む。
「放せシロノ! もう殴り飛ばすしか方法はない!」
「たぶん大丈夫だよ」
「何がだ! おいアヌア! 気持ちは分かるがしがみつくな!」
「いや! いやあああ!」
迫りくるミノタウロス。
しかし、シロノが横に何か投げると、釣られるように自分から燃え盛る炎へ落ちていった。
「モー」
ミノタウロスは炎の中でのたうち回る。
ふわりと、肉の焼ける臭いが漂ってきた。
「なんか、いい匂いだね」
「まぁ、牛だからな……」




