表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/54

19 王宮では

 シロノ達が住んでいる国の王、クーロウ2世も、聖女の魔法を見ていた。

 クーロウ2世は聖女が教会に認定される1週間前に王位を譲られた、まだ30半ばの若い王だ。

 中肉中背、こざっぱりとしたどこにでもいそうな男である。

 クーロウ2世は、横にいる恰幅のよい男性、宰相の肩を強く揺らす。


「何あれ、聞いてないんだけど? 聖女ってあんな化物なの?」

「クーロウ様。言葉に気を付けてください。どこに教会の耳があることか」

「いやいや、それどころじゃないって。あんなの城に打ち込まれてごらんよ。僕ら即死だよ?」

「そのための、聖女認定です」


 宰相は重々しく告げる。

 クーロウ2世にはさっぱり分からない。


「……どういうこと?」

「前王、あなたのお父上は1度、聖女殿と謁見したことがあります」


 宰相はその時のことを語る。

 ここ数年、目覚しい戦果を上げてきた黒髪の女。

 内々に調べたが、どうも遠い国から流れてきた少数民族の出身らしい。

 放っておくには危険すぎる魔女だったため、前王は先手を打つことにした。

 爵位を与え、臣下にしようと考えたのだ。


「え? 聖女になってるってことは……断ったの? 嘘でしょ? 貴族になれるんだよ?」

「最後まで聞いてください」

「あ、はい」


 交渉は難航した。

 なんとか自国に取り込んで忠誠を誓わせようと、前王は聖女に向かって様々な提案をした。

 その意欲は強く、クーロウ2世の妃にしてもいい、という話まで出たほどだった。


「はぁ!? 初耳なんだけど!」

「ご安心ください。聖女殿には既に心に決めた方がおりました。イケメンという者です」

「イケメン……聞いたことがないなぁ」

「その者は現在、全力で捜索中です。イケメンなる者を召抱えることができれば、自ずと聖女殿も我が国に帰属することでしょう」

「うん? じゃあ、なんでわざわざ聖女認定なんかしたんだい? イケメンさえいれば万事解決じゃないか」

「はぁ……」

「あの、あからさまに溜息つかないで?」

「いいですか、クーロウ様。聖女認定は言わば『保険』なのです」


 聖女にすれば、自然と聖人として振舞うようになるはず。

 そうすれば王国側がよほどの理不尽を働かない限り、聖女が牙を剥くこともなくなる、と前王は考えた。

 王国をあげてパレードを開いたのも、聖女に特別な便宜を図るのも、全ては王国を守るためなのだった。


「父上は色々考えていたんだなぁ……」

「今度はクーロウ様がその役目を担うのですよ」

「うぅ、私に出来るかなぁ」


 宰相は執務用の机に地図を広げる。

 隣国を次々と丸で囲っていった。


「まず、これらの国に使いを出し、先ほどの魔法が軍事演習ではないことを納得させなければいけません」

「……なんで?」

「そもそも聖女認定は我が国からの申請が発端である、と教会から各国に通達がいっております。パレードも行ったため、臣下にはなっていませんが、それは対外的なもの、実質は強く結びついていると勘ぐられていると言っていいでしょう」

「その通達って防げなかったのかい?」


 宰相はそっと指で輪を作った。


「向こうも足元を見てきまして。認定させるのが精一杯でした。去年の不作、パレードの費用確保もあり、国庫に余裕はありません」

「それは聞きたくなかったなぁ……じゃあさ、使いを出すの止めよう。節約できるところは節約しないと」

「それは不味いと思いますが……『あれは軍事演習だ。聖女は無理やり従わされている。助けるために進軍せよ』となるやも知れません」

「……それじゃあ何かい。父上は聖女の脅威は防げたけど、今度は各国に開戦の口実を与えたってこと?」


 クーロウ2世は腕を組んで考えてみる。

 もし聖女認定をしなかったら。

 黒髪の魔女は王国に牙を剥くかもしれないし、他国が交渉に成功した場合は確実に敵になる。

 クーロウ2世の頭に、城が吹き飛ばされる光景が浮かんだ。

 もし父親が黒髪の魔女を臣下にできていたら。

 各国はいつ魔法が飛んでくるか分からない恐怖に晒される。

 同盟を組んで潰しにくるかもしれない。

 クーロウ2世は頭を掻いた。

 父親に愚痴を言いたい気分だったが、現状が一番ましに思えてしまう。

 黒髪の魔女に恩を売りつつ、他国に流れにくくしただけでも上々なのかもしれない。


「はぁ、使いに持たせる手紙を書かないといけないか……けっこう多いなぁ」

「それだけではありません。先ほど倒されたモンスターは、恐らく報酬を出さねばならない大物だったはず。どの予算を削るか考えねばなりません」

「そ、それは宰相の仕事だろ?」

「これも勉強です。逃がしませんよ」


 宰相はクーロウ2世の肩をがっしりと掴んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ