表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/54

18 開かれる迷宮

 空に巨大な魔法陣が現れた。

 幾つもの円と五芒星が曼荼羅状に浮かんでいる。


「わぁ~。見てよリブ。きれいだね~」

「阿呆! マシブの後ろに隠れろ!」

「おい! 人を盾にするな!」


 白い閃光が放たれ、魔法陣はゆっくりと薄れていった。

 微かに地面が揺れる。


「……何だったんだ今のは。恐ろしく強力な攻撃魔法だったが」

「聖女様の魔法ではないでしょうか? 噂ですが、聖女様が魔法を使う時は、空を覆うほどの魔法陣が現れるそうです」

「街の外だから良かったが、あれでは城すら消し飛ばせるのではないか? その聖女とかいう奴、危険はないんだろうな?」

「教会が正式に認定しました。人格も優れた方なのでしょう」

「だといいんだが……」


 ミラルダの前に、ひらひらと紙片が降ってきた。

 ミラルダは紙片を空中で掴んで読んでみる。

 顔色がさっと青くなった。


「リ、リブさん。『薬代100万ジー』って何ですか?」

「お前が飲んだ薬だな。1本50万。まあ、あれだけの効果だ。安い方だろう。その辺でオークの2、3匹狩ればすぐではないか」 

「剣もないのに無茶ですよ……」


 ミラルダは折れた剣を掲げる。


「ちょっとパーティメンバーに相談してみます……あれ?」


 裏庭を見渡しても、ミラルダの仲間は1人もいなかった。


「リブに腕を折られたあたりから、ギルドの方に走ってったよ?」


 一行はギルドに戻る。

 モノクルをかけた男性職員が声をかけてきた。


「あ、ミラルダさん。良かった。生きてたんですね。先ほど仲間の方から『リーダーが死んだから解散する。拠点も別の町に移す』と言われたのでびっくりしましたよ」


 ミラルダは床に崩れ落ちた。

 マシブがポンポンと肩を叩く。


「おや? どうやら新たな迷宮が開かれたようですね。これからギルドも忙しくなりそうです」


 シロノが不思議そうに首を傾げると、男性職員はモノクルを指差した。


「ちょっとした魔法具なんです。少しのマナで『遠見』が使えるんですよ。皆さんも裏庭にいたなら見たのではないですか? あれで聖女様が迷宮の門番を倒したんです」


 マシブが疑問の声を上げる。


「聖女様が開いたんなら、すぐ攻略しちまうんじゃねえか?」

「あぁ、それもそう……」


 男性職員はじっとモノクルを覗き込んだ。

 しばらく押し黙った後、にっこりと笑う。


「大丈夫そうです。聖女様は『ダンソンはお風呂も入れないから嫌』だそうです。引き止めるパーティを振り切って帰り始めました」

「ダンソン? なんだそりゃ?」

「さぁ……聖女様はイセカイという村の出身だそうですから、迷宮のことをその村ではダンソンと言うのではないでしょうか? まぁ、私の読唇術も完全ではないので、アンゾンや他の言葉かもしれませんが」


 ミラルダはシロノに頭を下げた。


「シロノさん! 一緒に迷宮攻略してください!」

「え? なんでボクに頼むの?」

「その、リブさんだとバッサリ断られそうなので……」

「失礼な。シロノが行くと言えば行くぞ」

「マシブさん。迷宮って面白いですか?」


 シロノはマシブに尋ねた。


「おう! 楽しさは迷宮によるが、外れはないぜ! 洞窟系はあの雰囲気がたまらねえし、何より探索が面白い! 建物系も捨てがたく……」

「そ、その話はまた今度聞かせてください。わかったよミラルダ。面白そうだし、一緒に行こう」

「ありがとうございます!」

「迷宮に行くなら、少し待った方がいいぜ! 種類によって必要な道具が変わってくる。ギルドで専門にしている奴らに声をかけるから、行くのはその後にした方がいいな!」

「それじゃあ、狩りにでも行こ。オークが狩れれば薬代にすればいいし、いなくても少しは足しになるでしょ?」

「ありがとうございます!」


 シロノ、リブ、ミラルダは狩りに向かった。




 一方、迷宮はにわかに慌しくなっていた。

 玉座に座る迷宮の主の元に、全身鎧に身を包んだミノタウロスが駆け込んできた。


「モー(王! お逃げください! 門番が! あ、あれは化物です! いくら王といえど、あれにはひとたまりもありません!」

「モゥ……(騒々しいぞ、ファラリス……猛々しい魔力を感じ、余も『遠見』で始終見ていた。安心しろ。あれはどうやら引き返すようだ)」

「モー? (なっ、そ、それは真でございますか? そうとは知らず、余計なことをいたしました!)」

「モゥ(よい。そなたの立場なら、余でもそう進言していただろう。忠心、大儀であった)」

「モー(は! 勿体なきお言葉、ありがとうございます!)」


 ミノタウロス、ファラリスは直立不動になり、胸を叩いた。

 ファラリスが下がるのを見届けた後、迷宮の主は鈴を鳴らした。

 しばらくして、タオルを1枚だけ体に巻きつけた、筋骨隆々のミノタウロスが走ってきた。


「モォ! (ちょっと王様! 今お風呂入ってたんですから、急に呼ばないでくださいよ!)」

「モ、モゥ(す、すまん、ミノ。というか、少しは恥じらいをな? 嫁の貰い手がなくなるぞ?)」

「モォ! (あっはっは! そしたら王様に貰ってもらおうかしら! なんてね!)」


 ミノタウロス、ミノは腰に手を当てて大笑いした。


「モゥ(はぁ、もうよい。それよりも、早く着替えて騎士ムウを呼んできてほしい)」

「モォ! (は~い! わっかりました~)」


 ミノは走り去っていった。

 程なくして、巨大な斧を持ち、鎧に身を包んだミノタウロスがやってくる。


「ムー(暗黒騎士ムウ、ただいま見参いたしました)」

「モゥ? (余の記憶が正しければ、この前は業火の騎士ではなかったか?)」

「ムー(は! 修行の末、封印された力を解放するに至りました)」

「モゥ(そうか……よく分からぬが、頼もしきことだ。ムウ、迷宮が開かれた。程なく人間が己が欲を満たすためにやってくるだろう)」

「ムー(不届きな賊は、この暗黒騎士ムウが1人残らず葬ってみせましょう)」

「モゥ(待つがよい。さすがにお主1人では、この広い迷宮を守りきることはできぬ。仲間を集い、防衛にあたれ。そなたを指揮官に命ずる)」

「ムー(は! ありがたき幸せ!)」


 ミノタウロス、ムウは膝立ちになり、斧を胸の前に構えた。

 そのまま腕を天井に伸ばし、立ち上がる。

 1回点し、ゆっくりと膝立ちに戻った。


「モゥ? (なんだ、今のは?)」

「ムー(暗黒騎士の敬礼でございます。3日かけて考えました)」

「モゥ(うむ。大儀であった。行ってよし)」

「ムー(は!)」


 ムウは暗黒騎士の敬礼をもう1度行い、去っていった。

 迷宮の主はしばらく目を瞑った後、ぽつりと呟いた。


「モゥ……(最近の若者の考えることは、よく分からぬ……)」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ