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16 第二の魔銃

 目が覚める。

 リブの顔が目の前にあった。

 起きている時は凛々しく見えるが、今は穏やかな顔をしている。


(おお、すごく可愛い)


 シロノはしばらく眺めた。

 不思議と飽きがこない。


(そう言えば、キスってどんな感じなんだろ?)


 昨夜、リブは結婚をする時に行う、神に誓う神聖な儀式で、唇をくっつけ合うという説明をした。

 リブの小さな唇を見ていると、好奇心が疼きだす。

 シロノがうずうずしていると、リブの瞼が震え、ゆっくりと開いていった。


「おはよ」

「んあ? ……お、おお! おはよう!」


 リブはがばっと起き上がると、そそくさとドアに歩いていった。


「ちょっとマリンの所に行ってくる」

「うん。いってらっしゃい」


 パタンとドアが閉まるが、髪が挟まっていた。

 いたっ、という声が聞こえる。


「ええい!」


 リブはドアを開け、今度こそ去っていった。


「なんか慌ててたけど、どうしたんだろ?」


 朝食を摂り、シロノは街を歩く。

 1人の騎士が近づいてきた。


「やあ、子猫ちゃん。その服、よく似合ってるよ」


 くぐもった女性の声。

 以前に会った女騎士のようだった。


「どうも。前に会った人ですよね?」

「そうだよ。覚えてくれてて嬉しいね。そういえば、自己紹介がまだだったかな? あたいはクー。第二騎士団所属さ」

「ボクはシロノ。この前は色々ありがとうございました」

「あたいとシロノの仲だろう。もっと砕けた口調でいいよ」


 クーは親指をグッと立てる。


「クーさんとクー、どっちがいい?」

「クーのほうがいいね」


 しばし雑談をした後、シロノはキスについて質問した。


「甘く切ない恋の味さ、と言いたいんだけど、あたいの初めてはエールの味さ。隊長が酔うとキス魔でねぇ。ひどい時はほとんど頭突きだよ」


 クーはキスの仕方を熱く語りだす(自分からする時はゆっくり、目を閉じるのは最後など)。


「食事の後は止めた方がいいね。魔法使いは『洗浄』を使うらしいけど、あたいには無理だね」

「へ~。今度テッタに教えてもらおうかな」

「あたいは口をよくゆすいだ後に、香草を噛むね。お勧めだよ」


 ひとしきり話をした後、クーは警備に戻っていった。


(キスにも色々あるんだね。先輩はどうだろ?)


 シロノはミハエル・アッシュ魔法具店を訪れた。

 店内に客はおらず、ミハエルが暇そうにしていた。


「なんだ、シロノか」

「なんだはひどいですよ。ボクはお客さんです」

「おっ、何か必要になったのか?」


 シロノは考え込む。

 特に思い浮かばなかった。


「はぁ……じゃあ何しに来たんだよ。暇だからいいけど」

「あ、そうそう。先輩、キスってどんなですか?」

「ほぉ」


 ミハエルはカウンターから身を乗り出し、シロノの顎を掴んだ。


「今、教えてやろうか?」

「ぶちぬきますよ?」


 ミハエルは喉に当たる硬い感触にひやりとした。


「冗談だって。けど、なんでそんなこと聞くんだよ」

「単純に知りたくて。先輩の初めてはどんな感じでした?」

「柔らかいだけだったなぁ。お互い子供だったし、あれは数に数えたくないんだけど」

「どうしてです?」

「相手も男だったんだよ。公園でキスしてるカップルを見て、何してるんだろう、やってみよっか、で、すぐにキス。実際にやったらあんまり面白くなくて、すぐ遊びに戻った」

「ふぅん……面白かったキスはどんなですか?」

「え! そ、そんなことより、せっかく来たんだから、何か買っていってくれよ」


 これはあれかな、買ったら続きを教えてくれる商売かな、とシロノは思った。

 しばし考え、シロノはマナ喰らいについて尋ねた。


「昨日、オーク・キングとやりあったんですけど、それが『マナ喰らい』だったんです。なんとか倒せましたけど、魔銃が使い物にならなかったんです。どうにかなりませんか?」

「『マナ喰らい』? なんとなく分かるけど、知らないなぁ」

「触ったら敵味方関係なくマナを吸い取るみたいです。普通の人は1発でも食らうと死んじゃうらしいですよ」

「おいおい……まるで淫魔の牙じゃないか。よくそんな化物倒せたな」

「離れた所から石を投げました」

「あー、物理は普通に効くのか。ボウガンでも買えばいいんじゃないか?」

「先輩、商売のチャンスを自ら棒に振るんですか?」

「うっ」


 ミハエルは目を瞑る。

 辛抱強く待っていると、答えが出たようだ。


「なら、毒矢だな」

「毒が回った獲物って、肉屋に売れますか?」

「……駄目か。うーん、毒瓶を内臓させて、抽出した毒液を固形にして飛ばすってのなら作れそうなんだけどなぁ」

「毒なんて危ない物、持ち歩けませんよ」

「無害でも、大量に摂取すれば毒になる物はそこらじゅうにあるぞ? 例えば塩とか砂糖。コップ一杯も飲めば死ねるらしい」

「え、そうなんですか? (マリン、痩せ薬があれば砂糖飲み放題とか言ってたけど、大丈夫かな)」

「なんだ。そうすりゃいいのか。砂糖は高いから、塩でやろう」


 ミハエルはうんうん、と1人で納得する。


「固形だから、刺さって痛い。矢は血中に溶けて、放っておいても獲物は死ぬ。おお、これ凄いんじゃないか?」

「先輩の発想が怖いです」


 ミハエルは店の奥に引っ込んだ。

 すぐに戻ってくる。


「出来た!」

「え、早すぎません?」

「部品がうまく噛み合って、組み立てるだけで良かったんだ。魔法式は元から書いたのがあったし、ついてたな」

「は、はぁ」

「名前も考えた。ゲイ・オルクだ」

「あ、安直な……オルクはオークだとして、ゲイはなんですか?」

「塩売りの爺さんの名前」

「そんなんでいいんですか?」

「こういうのはシンプルな方が管理が楽なんだよ。シャナンド・ソウとか付けてみろ。意味分からないから、忘れたら一々魔法式を読んだり、記録を読み返さないといけなくなる。その点、塩オークならピンとくるしな」

「なるほど」


 シロノはゲイ・オルクを手に取った。

 大きさも重さも、もう1丁の魔銃とたいして変わらない。


「これ買います」

「本当か?! じゅ、10万ジーでもいいか?」


 シロノはポンと10万ジーをカウンターに置いた。


「……12万」

「なんですか、その微妙な上げ方。駄目ですよ。本当は10万でも割高なんでしょ?」

「くっ……ありがとう、ございました……」


 ミハエルはガクリとうな垂れた。

 シロノが追い討ちをかける。


「あと、魔銃の名前は『氷の矢』と『塩の矢』にしますから」

「いや、それはちょっと」

「もうボクのだし、いいですよね?」

「はい……」


(ちくしょう……次は絶対認めさせてやる!)


 ミハエルは固く誓うのだった。

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