表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/54

14 魔女との対峙

 テッタは血塗れのダッグに「洗浄」をかけた。

 洗い立てのようにツヤツヤ、ピカピカになった。


「ありがとう。私は返り血を浴びただけだったのだね」

「そっす。オーク・キングがいきなり出血したっす。ダッグの旦那の魔法っすか? あんなの使えるなら最初からやってほしかったっす」

「いや。あれは私ではない。リブ君だろう」


 リブをおんぶしたシロノが2人の所に歩いてきた。

 2人ともおでこが真っ赤だ。


「2人とも何してたっすか?」

「テッタ君、それは後にしよう。まず、オークだ」

「ダッグの旦那はブレないっすねぇ」


 オーク・キングの下に向かうダッグを、シロノが止める。


「……ダッグ。オーク・キングは諦めろ」


 シロノにしては、やけに偉そうな口調だった。


「シロノさん? ……もしかして、リブちゃんと魂でも入れ替わったっすか?」

「あ、まだリブが本調子じゃないから、代わりに喋ってるんだ」

「は、はぁ……」

「シロノ君。いや、リブ君。納得のいく説明をしてほしい」

「……お前はオーク・キングが『マナ喰らい』だと気づいたんじゃないのか?」

「薄々は。確信を得たのは先ほどだが」

「……なら、あんな得体の知れないモノを食うのはよせ……マナ喰らいは謎が多い……死肉でもマナを吸い続けるかもしれん」

「だ、だが、大丈夫かもしれないだろう? もう一生あのようなオーク・キングに出会うことはないかもしれない」


 ダッグは伏せをして、上目遣いにリブを見た。


「……まあ、そこまで言うなら好きにするがいい、って、ダメだよリブ。落ち着いてダッグ。死んじゃったら、もう明日からオーク食べられないんだよ? もっとおいしいオークがいるかもしれないのに」

「私は……なんて愚かだったのだ……」


 ダッグは天を仰いだ。


「それじゃあ、どうするっすか? 毒みたいな物なら、肉屋に持ってくのも不味いっすよね」

「……あれは放っておいて、オークだけ持って帰ればいいんじゃないか?」

「もったいない気もしやすが、仕方ないっすね。昨日の分もありやすし、欲をかくとろくな目に合わないっす」


 オークの下へ走るダッグ。

 首を捻り、じっとシロノが撃った箇所を観察する。


「なんということだ」

「どうしたっすか?」

「出血が少ない。これでは肉の味が悪くなる」

「……ふん。だいたい想像がつくが、終わったことだ……テッタ、短刀を持ってるか? ……首の辺りを切っておけ」

「護身用に1本持ってるっす。あっしは解体はよく分からないっす」


 テッタが懐から出した短刀を、ダッグは即座に奪い、オークの首に突き刺した。

 短刀は涎まみれになって返ってくる。

 ダッグはオークの額に肉球を押し付け「浮遊」をかけた。

 今度は後ろ足で自分にも肉球を押し付け、オークの上に乗る。


「悪いがテッタ君。私はマナ切れで体が動かない。軽くしたので一緒に運んでほしい」

「さっき走ってたし、今すごい機敏に動いてたっすよね?」


 テッタは短刀を拭きながら文句を言う。

 ダッグは伏せをして上目遣いになった。


「……分かったっす。その代わりオークの調理方法を教えてほしいっす」

「お安い御用だ」


 一行は街へ戻る。

 オークは60万ジーで売れた。

 テッタとダッグは肉だけもらい、お金は辞退した。

 「こんなに大金持ったら金銭感覚が狂いそうで怖いっす」とのこと。

 テッタは野菜を受け取りに大通りへ戻っていった。

 ダッグもどこかへ帰っていく。


「リブ、調子はどう?」

「脈は安定している。喋るくらいはいいが、歩くのはまだ不安があるな」

「そっか。ボク、疲れた時に効く薬をくれる人を知ってるんだ。年下扱いしなきゃ怒るけど、優しいからきっとリブにも薬をくれるよ」 


 シロノはリブを背負ったまま、マリンの家に向かう。

 行き止まりに辿りつき、シロノは壁がすり抜けられることを説明した。


「その話からすると、薬は期待できそうだな」

「寝たら体がすっごく軽くなったよ」


 2人は壁を通り、マリンの家に入った。

 壁を抜けた先は台所で、マリンが待ち構えていた。


「いらっしゃいシロノ。昨日の今日で訪ねてくれるとは思わなかったわ。でも、ちょっと訳ありみたいね?」


 マリンは体を傾けてリブの方を見る。

 すぐに目が細まり、髪が浮き上がり始めた。


「あなた、何者? 守護のアミュレットも無しに、どうして私の『看破』が防げるの?」

「おいシロノ。こんなに好戦的な奴だとは聞いてないぞ」

「あれ? 落ち着いてマリン。この子はリブっていって」

「リブ? 魔神の名前を名乗るなんて、大した自信ね」


『シロノ。こいつが使う魔法を知ってるか?』

『えっと‘転移’だけ』

『詠唱なしか?』

『うん』

『熟練の魔女か。同時に襲いかかっても転移させられるのが落ちか。せいぜい20歳くらいのガキかと思ったら、とんだ若作りのようだな』


 マリンが迫力のある笑顔に変わる。


「今、失礼なこと考えなかったかしら」


『ほら! 怒るって言ったじゃない! マリンは本当は30歳以上だけど、永遠の12歳って言い張るくらい気にしてるんだから』

『これは念話だぞ! 鋭いにも程があるわ! ……待てよ。薬か』


 リブはにやりと微笑んだ。

 マリンの髪が一気に広がる。


「おい、マリンとかいったか。その姿、薬で保ってるんじゃないか?」

「……それが?」

「今でも伝わっているか知らんが、かつて若作……若返りの薬と言えば『コアテリカ』だった。ここはお互い手を引かないか? 完全な『コアテリカ』のレシピを、私は知っている」

「……今もその薬が主流よ。改良の余地があるから、私も研究中。でも、完全な『コアテリカ』は誰も作り出せていないわ。あなたが知ってるとは思えない」

「レシピに書かれた意味不明な素材、エルスティン。それさえ分かれば完成する。ヒントはここまでだ」


 リブは手を広げた。

 青い魔法陣が浮かび上がる。


「我はリブ。マリンが手を引かない限りエルスティンを秘匿する」


 魔法陣はリブの手に吸い込まれていった。

 しばらくリブとマリンの睨み合いが続く。

 ふいに、マリンの髪がパサリと下がった。


「少なくても、リブっていうのは本名みたいね。いいわ。『契約』まで使って本名を明かしたことに免じて、ここは手を引いてあげる」

「はぁ……良かったよ。いきなり険悪になったから焦っちゃった」


 シロノは魔銃を鞘に戻した。


「ちょっと。いつの間に武器を持ってたの? 私、気づかなかったわ」

「リブの手に視線がいった時」

「……ちなみに、私が手を引かなかいって言ってたら?」

「撃ったけど?」

「リブ。シロノの手綱はちゃんと握ってね。この子は私よりあなたに懐いているみたいだから」

「当然だな。私はシロノの主だぞ」


 マリンはきょとんとした後、柔らかく微笑んだ。


「そう。良かったわねシロノ。リブ、シロノを大事にしてあげてね」

「どこかの馬鹿と一緒にするな。生み出しておいて放り出すなど、私の時代では考えられんことだ」


 リブはぎゅっとシロノを抱きしめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ