01 聖女の出汁とホムンクルス
初めまして。白の黒のです。
笑える話を書きたいですが難しいのかな~と思ったり。
せめて明るい雰囲気にはしたいと思っています。
「魔法の探求のためとはいえ、バレたら変質者だな」
宮廷魔法使いの手にはお湯の入った桶。
先日「聖女」に認定された最強の魔女の使った残り湯だ。
「強力無比な攻撃魔法、詠唱破棄、多重詠唱。あんな小娘にできるわけがない。何か秘密が隠されているに違いない」
聖女。
珍しい黒髪黒目の20歳前後の女性。
本人曰く「イセカイ」という聞きなれない地方からやって来たらしい。
数年前から頭角を現し始め、空を覆いつくす程の巨大な魔法陣から放たれる魔法を武器に、幾つもの戦場で勝利を収めてきた。
自然災害とまで言われる危険なモンスターすら彼女は1人で討伐している。
民衆は無邪気に聖女を褒め称えているが、王、宰相などは密かに渋い顔をしている。
大軍を魔法1つで蹴散らす存在、しかもどこの出身かも定かではない。
自分達に牙を剥かない保証がない上、対抗する手段もない。
聖女の認定は教会だけではなく、為政者の政治的狙いもあると宮廷魔法使いは睨んでいる。
「さて、こんな物で何か掴めるといいが」
自分に宛がわれた研究室に入り、しっかりと鍵をする。
本来なら血か体の一部が望ましいが、初対面でいきなり「くれ」と言って貰えるわけもない。
あいにく髪の毛は見当たらなかった。
相手も警戒しているのかもしれない。
検査を1通り行う。しかしどれも魔女なら出て当然の結果しか示さない。
なかば諦めかけていた所で、ホムンクルスの培養タンクが目に入った。
「やるだけやってみるか」
培養液に残り湯を混ぜてホムンクルスを造ってみる。
出来上がったのは聖女を幼くして髪の毛と肌を白くしたようなホムンクルスだった。
見た目だけなら残り湯にしては上出来といったところだ。
「問題は魔力の方だな。上手くいけば兵士として量産できるが……」
ホムンクルスの手を水晶玉に乗せる。
水晶玉はうっすらと淡く光った。
これは魔力が人並み以下ということを示している。
「失敗、か」
宮廷魔法使いの知識では、少なくても一般的な魔女並みはあるはずだった。
宮廷魔法使いはホムンクルスの頭を掴み、魔法を唱えた。
最低限必要な知識を刷り込む魔法だ。
青い閃光が部屋を満たした後、ホムンクルスの瞼がフルフルと震える。
「……あ、おはようございます」
「お前の名前はシロノ。主人は自分自身だ。冒険者でもやって好きに生きろ」
「うわー。用済みってことですか。まあ了解しました」
ホムンクルス、シロノはペタペタと部屋の隅に行き、体を拭いてあらかじめ用意されていた服に着替えた。
「ん」
「なんだその手は」
「手切れ金と口止め料ください。このまま野垂れ死ぬのはごめんです」
「分かった。ただし誰にも言わない。他人の振りをする。会いにも来ないという契約を交わせ」
「1ヵ月分の宿代と装備代くらいは欲しいです」
「2ヶ月分の宿代だけだ。装備はそこから出せ」
「……いいでしょう」
羊皮紙に契約内容を記し、お互いに署名する。
「最後に質問なんですけど、何故ボクを生かすんですか?」
「ここで死なれたら処理しないとならん。これでも色々忙しいんだ」
「なるほど。じゃあ、お邪魔しました」
シロノは部屋から出ていった。
宮廷魔法使いはぐっと伸びをする。
「はあ、とんだ無駄骨だったな……これ経費で落ちんかな」
コン、コン。
「誰だ? どうぞー」
入ってきたのは同僚の魔法使いだった。
「おい! 今のカワイコちゃんは誰だ! 紹介してくれ!」
「え? いや、えーと」
宮廷魔法使いはしどろもどろになりながら、なんとか誤魔化そうとする。
「弟子入り志願だと? 何で帰しちまったんだ!」
「だから、魔力が低かったからだって」
「あんなに可愛いのにもったいない!」
「お前は顔が良けりゃそれでいいのか!」
コン、コン。
「どうぞ!」
今度は別の同僚が入ってきた。
「おい、シロノって子はお前が連れてきたのか?」
「え? ま、まあな! それがどうした?」
「門番に入った時の記録がねえって止められてたぞ」
「あ……」
研究室があるのは曲がりなりにも国家の中枢。
研究成果の漏洩などを防ぐためにも出入りする者は門の所でチェックされている。
さっと血の気の失せた宮廷魔法使いを見て、同僚の目が細くなる。
「お前……見込みがありそうと無理やり連れてこられ、素質が無いと分かるや否や追い出されたって言ってたのは本当みたいだな!」
(あながち嘘じゃないが、人聞きが悪すぎる!)
こんなことならホムンクルスなんて造るんじゃなかった。
2人を言いくるめるのにかなり苦労し、門番にはこってりと絞られる宮廷魔法使いだった。