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第46話 怪物のパーティ結成

 勇者黒髪の基本政略は、怪物達をモストリアへ『帰宅』させることで騒乱を鎮める、という一点のみだ。その為には魔人の兵も怪物の群れも率いて行動をしてきたが、それが本来守るべき人間世界からの反発を招き始めても、異形の部隊を解散することは無い。手元に替わりの兵力などないし、なにより彼らが居なければ、人間世界に居座る怪物達への説得力を持ちえないからである。だから黒髪は、バンシー軍人の群れを解体したのちも、同じ部隊を率いて次なる群れへ向かっていく。


 モストリアから流れ出た群れ為す怪物たちは、怪物社会における落伍者であった、と言う事も出来る。だから、曲がりなりにも経歴を備えたバンシー軍人は脅威になり得たが、そうでない輩たちは、モストリアを落とし、バンシー軍人を倒したという勇者黒髪が近づいてくる、というだけでめっきり弱腰になった。独眼マッチョの怪物が率いる群れはバンシー軍人のそれに次ぐ規模であったが、迫りくる勇者に対しておどろき、とまどうばかりで、まっとうな対策など何一つ立てる事が出来なかった。脱走する輩も増える始末で、頭を抱えていたところ、協力を申し出ていた勢力があった。グロッソ洞窟から遠征してきたトカゲ軍人とその一行である。


 トカゲ軍人は自らパーティを編成し、勇者暗殺のために、帝国領内に来ていたのだ。彼は独眼マッチョを慰めて曰く、


「我輩は勇者黒髪と戦った経験がある。まあ、任せなさい」



 帝国領へ出発する前、バンシー軍人の群れが解体した、という報告がグロッソ洞窟に届いた頃、トカゲ軍人を魔王に推戴したい魔少女は彼に進言して曰く、


「怪物世界で名声を稼ぐには、人間相手に戦い勝利しなければならず……その最大のチャンスは今、帝国領にあります。理由は、勇者黒髪も、モストリア出身の怪物の群れも、人間諸国の連合軍も集結しつつある、ということ。運命が集約される場所です」

「叙情的だな。そこで勇者黒髪を殺害する、ということか」


 魔少女肯いて、


「征服者としてモストリアの権能を得た黒髪は、怪物に『帰宅』を命じているということ。これを覆し、帝国領を怪物世界の植民地にすることが出来れば、それを成功に導いたキャラクターは魔王として認知される事疑いのないところ。必要な軍資金はリモスが出します」

「あの粘液体が相変わらず勤労精神を発揮しているということは我輩にとって嬉しい限り。知っているかね、奴の望みは金鉱でいつまでも働き続ける事だという。健気なものだ」

「彼が閣下に従う理由もその点にあります」


 グロッソ洞窟の首脳らは相変わらずリモスの家に集まり作戦を練っている。ここに、その人間に近い風貌から都市へ入る事もある魔女が帰ってきた。すっかり健康を取り戻した後の老嬢は、都市エローエに入り情報を収集する事をトカゲ軍人より命じられていた。この時は、都市で東洋人とその関係者の手で出版されていた『反逆者とんがりの死』という、とんがりが討ち死に時の仔細を記した書物を洞窟に持ち帰った。


「我輩思うに」


 書物を受け取ったトカゲ軍人これを分析して曰く、


「翼軍人の死に際がここに書かれている通りだとすれば、二つの点で人間側が優れている。一つは多勢を持って攻める事に躊躇が無い事、あとは、明確に殺しに掛かってきている事だ。翼軍人にはこの二つともが欠けていた。個別の戦闘能力云々以前に、これでは敗北は必然である。」


 金鉱から帰宅してその話を聞いていたリモスは何の疑いも無く述べる。


「この手法をまねれば、人間との戦いも有利に進める事ができるのではないでしょうか。つまり多勢を持って、勇者黒髪を攻める、という事です」

「戦場で手練れの者たちを殺すのは難しい。それが一番有効だろうが……」


 金色の目をギョロつかせながらトカゲ軍人答えて曰く、


「我輩の他に誰がその任務を帯びるか、だ。粘液体よ、かつてお前が都市をとんがりに与えた時の作戦は、勇者個人には通用しないだろう。今の彼は拠点を置かずに、常に移動しているし、モストリアに帰還した後は、それこそ魔王のような厳重な警備体制を敷くはずだから、それも難しい。勇者の遠征軍とて、現在の魔王を殺す事は出来なかったのだからな」

「勇者を殺す好機は彼が戦場に出ている今しかない、ということね」


 トカゲ軍人、魔少女を向いて頷き


「その通り。そして屈強なメンバーで挑まなければならない」


 グロッソ洞窟の実力者は、当然トカゲ軍人であるが、戦闘の実力となるとその下は大差が開く。それでも、煽動好きの異形の怪物、魔女から幾らかの魔術を教わっている魔少女、次いでかつて魔王を名乗った事もあるモグラの怪物が上位に並ぶ。リモスは当然、はるか格下である。


「ゴブリン軍人が生きていれば、我輩の次席は務める事ができただろうが、奴は軍人としては落第だった」


 不意にトカゲ軍人、過去を懐かしんで曰く、


「あの翼軍人は、家柄も我輩より上で、モストリアでの評判も高い輩であった。我輩も彼の戦場での腕前であれば、大いに認めていた。それが多勢相手にとは言え戦場で命を落とした。さらに今や勇者黒髪のような人物もいる。人間を油断してはならん」


 口には出さないが、モストリアで勇者の奇襲を受け負傷したことを、トカゲ軍人は忘れていない。彼にとっても、勇者は討つべき相手であった。


 こうして、トカゲ軍人は人間のようにパーティを組んで、人間世界の要人襲撃を実行に移す。メンバーも、トカゲ軍人、魔少女、異形、もぐらのメンバーと決まった。これは言わば、怪物による暗殺専門部隊である。最初の標的は、山を越えた先の帝国で怪物相手に善戦を続けているという戦士の部隊を率いる長、と決まった。


 魔少女に心服している異形とモグラは顔を見合わせて曰く、


「それにしても僅か四体で大丈夫だろうか」


と不安がったが、


「剣を振うのは閣下。私たちはその剣が最適な状況で振われるようにするために行動するのよ」


 と魔少女が話して簡単に納得した。


 トカゲ軍人は独眼マッチョの怪物を説得し、勇者を奇襲により暗殺する舞台を整える。だが、軍事協力を申し込むだけで、暗殺の計画は独眼マッチョにも漏らさない。素性をできるだけ隠して戦場に入り、トカゲ軍人の予想では、独眼マッチョの怪物は勇者率いる軍に敗北をし、拠点に勇者が入城する筈である。そこを襲撃するつもりでいた。トカゲ軍人の目立たなくするために、異形の怪物の弁舌は大いに活躍し、モグラの怪物の情報収集は冴えわたった。魔少女は、勇者黒髪を油断させるための演出としての人間だ。


 中々に周到な計画ができたわい、とトカゲ軍人は心中成功を確信していた。だが、結局暗殺は失敗してしまう。実行に移す前に、第三者の邪魔が入ったからである。自分が飛びかかる前に暗殺騒動が起こった事を知ったトカゲ軍人は、いらだちを封じ込めながら、ともかく計画の中止を仲間に告げ、騒動の現場に向かった。

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