第五話 出発、そして冒険の始まり 続Ⅱ
アントナルの城下町は石をメインとした街、活気があるとは言い難いほどの人たちが歩いている。
新生アーカデアは確かに新世界のために色々支援してきたが、同時にたくさんの理不尽を他国に強いたのもまた事実。その一つが技術の独占、他国の技術を一方的に流れ入れるのは寛容であるが、逆は厳しく、例え自領土内も同じである。
今この国に来る人のほとんどが首都しか行かず、一時の滞在もより首都に近い町があるゆえ。以前はもっと活気があったこのアントナルも日に日に閑散になっていき、きっと近い将来になくなるであろう。
そういった事に気にせず、リムはまだあちこちに開いている店や露店を回ている。もちろん、彼女に約束したご褒美を贈るためだ。
「うは~、ご主人、見てみて、こんなにお店がたくさんある、です!」
「そうだな、好きなものを買っていいぞ。折角大金が手に入れたのだ、ちょっとくらいの贅沢をしても罰は当たらないだろ」
興奮するリムの様子を見て、思わず微笑んだ。
「ありがとう、です!」
リムは向日葵のような笑顔を浮かびながら、またどこかの店に見に行った。その姿を見ているだけで心が癒され、さっきの豚領主なんてもう記憶から飛び出した。
「本当によかったですね。こうしてご主人様とリムと一緒にちゃんと外の世界を見れて」
ちょっと涙目になったリノにその涙を手で優しく拭いた。
「何を言ってるだ。まだまだこれからだろうか、ここから先もきっともっと面白いことや楽しいことが待っているだ。泣くのはまだ早いぞ、リノ」
「うふふ、そうですよね。今までできないことをこれからすればいいのですから!」
リノの眩しい笑顔にちょっと見惚れ、誤魔化すのために慌てて話題を変える。
「でも、まさか二人の旅だったはずが、三人になるとはな」
「そうですね。リムを生んでからもう十五年が経ちました……」
珍しく感傷しているリノに、ジド目で呆れしつつ窘めた。
「……おい、勝手にリムの出自を変えるな。お前が生んだ子じゃないだろうか」
「てへへ♪」
リノはついてと言わんばかりに舌も出して、可愛く見せた。たしかに可愛いのだが、イタズラ発言のせいで台無しになった。
リムはリノと同じ、アスルが作り出した人工知能AIである。
やはりと言うべきか、運命と言うべきか、一緒に隠れ家で生活を共に過ごすにつれて、彼女も自我が生まれた。リムを作ることを提案したのはリノだった。彼女曰く、自身の戦闘力が皆無なため、一人の場合に不測な事態と遭遇した時に、それを覆す力が必要なのだと、アスルに戦闘専門のAIを作ることを勧めた。
そして、三十四年をかけてリムを造り、ここまで育てたが、一つリノとはまた違っている困ったとことがある。
ちなみに、二人の体とリムのコアの素材はとある事件で知り合った友達に提供したもので、今はどこにいるのかは定かではない。かなりレアな素材であることは確か、二人の能力を遺憾無く発揮できるのだから。
離れている露店からリムが走ってきて、両手には何かを持っているようだ。
「ご主人~、これを見て、すごく可愛いの、でs――きゃ~」
いきなり何もない場所に躓いて、手にある何かは飛び出し、リムは倒れるように抱きついてきた。彼女は普段では何も問題はないのだが、何故かアスル関連に限っていつもドジを踏むので、実に残念だ。
「大丈夫か? 走らなくてもちゃんと見てやるから、ちょっとは落ち着け」
空に飛んだ何かを片手で素早く受け止め、興奮気味なリムを落ち着かせる。
「です」
「まぁ! リムたら大胆ですね。こんなに堂々とご主人様に抱きつくなんて」
「あぅ、あぅ、そんなつもりはないの、です」
またしてもからかってリノに、リムは慌てて胸から離れた。ちょっと顔が赤くなった気がしたが、気のせいだろうか。
「お前は煽るなよ」
相変わらずのイタズラ好きに呆れつつ、手に掴んだものを確かめると、それは一対の雪色の髪飾りである。
「へぇ~、悪くないできだな」
「です!」
「これを欲しいのか?」
「も、もし良かったら」
「了解だ」
ちょっともじもじしているリムに応えたあと、露店の主人に金を支払い、戻ってきた。
「ほら、もうつけてもいいぞ」
「です!」
リムは満面な笑顔を浮かび、髪に結んであるブルーリボンを解き、新しい髪飾りにあしらっていた黒リボンをそこに括った。
「ご主人、ちゃんと似合ってる、です?」
白灰色の髪と雪色な髪飾りがよく互いを引き立てて、雪蓮の花の意匠を施した水晶細工がいくつ連れられ、リムの可愛さを更に引き出す。まさに彼女のために作られたと思えるほど似合いっている。
「ああ、最高に似合ってるよ」
「あぅ~」
リムは顔を伏し、恥じらっている。今度こそ顔が赤いことは気のせいではないだろう。
「む~、ちょっと妬いてしまいます。次は私の番ですね、ご主人様!」
「……考えておくよ」
別にリノを仲間はずれにする気はないが、彼女のイタズラ発言にはどうしても何かよからぬ企みを感じるので、とりあえず今回はリムだけに贈ることにした。
「もうっ、ご主人様のいけず!」
拗ねているリノをよそに、町を出る門に向かって歩き出した。
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