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二百年の引き籠もり、そして伝説へ!  作者: イグナイテッド
第一章
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第四十四話 二つの暗闘、そしてさらなる危機 続Ⅱ

納得が行かない場所をまたちょっと改稿しました。

 先攻した魔物たちが数える間もなく死んでいったので、対峙する戦士タイプの信徒は迂闊に動かない。


 代わりにまだ屋根にいるたくさんの信徒が遠距離魔法を用意し、彼らを守るように十人程度の盾持ちがその前に出て、防御を固めた。


 そんな彼らを見て、やばいと思い、来た道に戻り、左へ曲がった。


 少々呆然となった信徒は何が言いたげだったけど、何も言わずに屋根を飛び移って追う。


 たった一人下にいる信徒も追うおうとしたが、まずは前方の道にまだ魔物たちを殺した罠が残っているかどうかを確認してからにした。


 慎重に盾で何もない空間を当てて、その感触を確かめる。


 一頻り調べたら安心し、そのまま走り出す――途端、彼の体が力なく倒れていった。


「やっぱ、変な手応えだな……」


 死にゆく信徒の耳に、そんな呟きが届いた。


 逃走と見せかけ、店内を通ってさっき囲まれた道に戻ったら、取り残された信徒の一人を見えた。


 躊躇わず音もなくドアから飛び出して、今しがた斬った感触をアスルは思い返す。


 相手のコア――化身と契約時に生まれる晶核を間違いなく斬ったが、あるべきはずの感触がなかった。


(これで、仮定の方の可能性がより大きくなったな)


 できれば、もう片方に当たって欲しいけど、敵の戦力がこの程度では、どの道こちらの期待に応えられないのだろう。


 微かの溜息に含んだのは失望だった。


 やる気ケージが少し減ったのを感じつつ、次の行動を修正する。


 敵が期待通りの強さならその必要もないのだろうが、予想以上の弱さに見限って本来の手がもったいなく思えた。


(せめてもうちょっとやれれば……。ま、一人ずつ死ぬのも、一緒に死ぬのも似たようなもんだし)


 策が大幅に修正した頃、近付いてくる一団の気配を感じた。いや、戻ってきたと言った方が正しいだろう。彼らはさっきこちらを追うように飛んでいった者たちである。


 取り残された仲間がいきなり死んだせいで、騙されたのを気づき、慌てて帰ってきたのだ。


 魔力と戦闘技術も結構あるのに、割と単純な手に引っ掛かった。


 それも含めて、彼らを弱いと思った。


 とは言え、部隊というのは案外そういうものかもしれない。


 練度や技術をたくさん積んでも、修羅場の経験が足りないとよく不意打ちや罠にハマって、あっさり殺されてしまうなんてそう珍しくはない。


 真正面で互いを攻め合うのは強いけど、一方的に攻められる途端、弱くなってくる。それは通常部隊でも精鋭部隊でもそうなんに変わらない。


 ただ精鋭の場合は打たれ強く、相手の奇策を跳ね返ってしまう時もあるだけで、このような騙しのあとからの不意打ちはさぞかし対応に困るだろう。


 チームを組んで動く彼らにとって仕方ないことで、ゆえに今度は正面から攻めてみようと思う。


 数歩程度の助走で壁を蹴り、一気に屋根まで飛び上がった。


 同じ屋根に立った五人は驚きのあまり足を止めた瞬間、こちらはすでに間合を詰めていた。


 一番近くで防御に間に合わない者たちを斬り、盾をかざした信徒たちにはその目の前まで近付いたあと、瞬時に残像を残して相手の背後へ回って、同じく一刀で仕留めた。


 周囲の屋上から次々と近接タイプの敵が飛んできて、不意をつこうとしたが、軽く体を捻って交錯する瞬間で一閃を見舞った。


 最後に残った一人は魔法を発動し、こちらの足を凍らせた。


 拘束が成功するとその信徒は離脱し、同時に周囲の屋根にいる信徒たちも魔法の詠唱も終わり、


「「「紅煉狂瀾ぐれんきょうらん!!」」」


 一斉に高階の爆炎魔法を唱えた。


 空間が爆発したごとく炎が誕生し、かと言ってすぐには消えず逆に増大し、渦巻きつつさらに熱量が上がっていく。


 火属性と風属性を持つ者たちによる複合魔法の一種である。それぞれが違う属性の中階魔法を合わせることで高階魔法に到達する現象を生み出す。


 複数人の魔力を使っているゆえ、消費コストも比較的軽減されるため、世間でもよく使われている魔法行使の高等技術の一つだった。


 成功すれば威力も規模も増した魔法を出せるだから、使わない方がおかしいだろう。


 とは言え、そんな簡単なものでもなく、間違った魔法を混ざると暴発もするし、命を失う可能性だってある。基本は既存のレシピを頼って使うのである。


 予想以上な規模で渦巻く紅蓮の球体に、使い手である信徒たちも驚きながら、嬉しさを醸し出した。


「ふ~ん、正面で戦うだとちょっとは強いだな」


 感心するようだけど、やはり平淡な声が辺りの雰囲気を一瞬で吹き飛ばした。


 信徒たちは慌てて再度構えだ。何せ、発声源はまさに燃え盛る巨大火球から発したのだ。


 ありえないことはずだが、謎の魔法を使って数々の仲間たちを殺した相手から、言い知れぬ確信が彼らの心に満ちている。


 誰かがゴクリと唾を飲み込む音がして、すると――


「んじゃ、お返しな」


 巨大火球の一部を小さな炎弾として四周へ弾きさせ、精確に信徒たちの胸中央にある核を貫いた。低い悲鳴と共に下へ倒れていく。


 たかが音速くらいのスピードで反応できないとは、せっかく改めた評価を改めなければならないようだ。


 そして余った炎を東洋の竜に似たものへと変化させ、自身を回るように飛ぶ。


「バカな……複合魔法を眷属に変えただと!」


 久々に空中から黒い炎を纏う悪魔の声が聞こえた。


 彼の考えは完全に間違いだ。


 まずこの紛い物の竜は眷属ですらなく、ただ魔力操作による形態変化にすぎない。眷属のように独立な意志がなければ、こちらが意識して操らないと今すぐにでも消えるだろう。


 所詮は相手の魔法を故意に強化し、より上の魔力制御で強引に支配下に置かせただけだ。しかしこれは強化魔法を扱う自分にとって数少ないかっこいい派手な技とも言える。こうでもしないと他人見せることすら困難なのだ。


 そんなことを露知らず、悪魔の目には眷属になっていたと映ったのだろう。


 ちなみに、足を封じた氷はとっくにこの炎で溶かした。


 それはともかくして、いい機会なので、このまま左手を動かし、表面に高熱な炎を蠢かせる赤き竜を悪魔に襲わせた。


 かなり高スピードで突っ込むそれをまるで焦る様子もなく、軽く嘲笑いしながら噛み付こうとした赤い竜を黒き炎に受け止めさせた。


 すると、黒い炎はそれを貪るように呑み込んでいった。


「くくく、魔法はワレの前では無意味である」


「やれやれ、せかっく手に入れた魔法が無駄になったか」


 軽く口答えをしたら、どうやら援軍が来たようで、新たの信徒と魔物たちが飛び上がってきた。


 休む暇もないとはまさにこのことだ。


 微かな気怠さを連れて下へ跳び降りる。数体の魔物もそうしたが、見えざる空間糸によってそれらの体が切断された。


 しかしそれは意図的なことみたいで、上に残った者たちは別段動揺もなく、上から追ってくる。


 考えられるのは空でこちらの戦いを見た悪魔が情報を共有したのだろう。おまけに対策も。


(ま、こっちも相手の力について少し知ったことだし、おあいこかな。そう言えばあいつの名前、確かギルアームだったな。それに黒い炎を扱う……ちょっと覚えがある気が…………)


 化身たちのリストはリノと協力で作ったのだが、それぞれ半分で分担したとは言え、いくらかつて人間どもから最高な頭脳だと褒められても、何十年もの時間でようやく作成できた恐ろしいデータ量をすべて覚えるのは至難である。


 結局自分の分もリノに記録を任せ、うろ覚え程度に留まっていた。今でもズルして聞いてみるべきだろうか?


 いやいや、これ以上難易度を下がてどうする。ここは行き当たりばったりで行こう。


 と、新たな行動方針を定めたところでまたしても二頭狼たちに道を塞がれた。


 気配にようると、向こうはちょうど包囲網を半分ほど完成したようで、前方の二体は後続が来るまでの足止めみたいだ。


 いい加減、低レベルの魔物では足止めすらならないことを覚えて欲しいものだ。


 二体の魔物に近づく途端、足元から魔法陣が浮かんだ。


 目の前の雑魚に注意を向かせ、罠へ誘い込んだのか。悪魔もなかなかの負けず嫌いだ。


 だが、


 それを発動する前に体を加速し、狼たちをまとめて切り捨て、二つの死体を飛び越えた。直後、後ろから爆発が引き起こした。


 結構物騒な罠を仕掛けているな、と自分がやったことを棚に上げてそう思った。


 しかし、これでピンチから脱したではなく、その先にあるのは――数千以上の信徒と魔物による包囲網だった。


 感じた気配の位置と一致しないことに気づき、幻惑魔法の仕業だとすぐ理解した。


「けははは、今度こそは逃がさぬぞ、仮面の男よ!」


 よっぽど立体映像に騙されたことに腹立ったのか、今回の包囲はさらに厳密で、すべての道先を信徒と魔物で押さえさせていた。


 こちらとの距離も離れていて、屋根の兵力たちは不規則で散布し、完全に空間障壁を警戒しているようだ。


 もっとも、空間障壁による攻撃は強化版気配探知と合わせた指定系魔法なので、位置を散開した程度では被害の軽減も避けることも難しいと思うが。


「放て!」


 短い合図を聞き、全方位にいる信徒たちが遅延詠唱で用意していた魔法の名を叫ぶようにを口を動かす。


 完全に詰んでいた――――


 ――――向こう側だけれど。


 まさにこの状況こそが自分の狙いだった。人は誰しも勝利を掴みそうな時に油断しやすく、こういった劣勢演出は相手を騙す手段には案外向いている。


 そして誰より早く、魔法を具現化させた。


 詠唱もなく音もなく、まるで天災のごとく、辺り一帯で漂い魔力を含む空気が突如真っ上の空に瞬時に圧縮され、一秒のあと――大量な認識せざる斬撃が解き放たれる。


 魔法名を叫び終え、それを具現化させようとしたところで一瞬の真空状態が生まれた。そのせいで集中が途切れた彼らは魔法の発動に失敗し、何も分からないまま体が切断されていった。


 遅れて血の花が舞い、地面や壁に染まった。自身と悪魔以外、ギルアームの予想とは真逆な結果だけが生き残った。


 魔法名も技名もない。ただ空気を圧縮したあと、解放する瞬間刃の形に変えただけである。言わば風の刃の強化版みたいなものだ。


 もっとも、物理と魔法ダメージを両方併せ持つ上に、威力と規模と射程も桁違いだが。


 大量な空気を使ったから、圧縮強化する時間もそれほど必要としない。迂闊に溜め時間を延ばすと、解放させる時辺りが大惨事になってしまう。


 基本魔力の散布範囲と圧縮する対象を調整することで、溜め時間を二秒以下に抑える。魔力消費面もコントロール面もこれくらいでちょうどいい。


 過去の教訓があったから、今ではそこそこ自重できていると思う。


 おっと、そんなどうでもいい回想よりまだボスが残っていたのだった。


「これで、ようやくあんたと戦えるな、悪魔」


 目を空に向け、愕然としたギルアームにそう語った。


 いままで観察に徹したのは彼自身の魔法特性が原因だと簡単に推察できる。でなければ、悪魔もまた魔法を撃ったのだろう。


「くっ……思い、上がるなっ! <黒煉炎海こくれんえんかい>!!」


「ち、こいつも魔法を遅延発動させてたか……」


 一緒に撃てなくとも、相手は保険くらい用意していたようだ。


 彼の慎重さを見誤ったと認めざる負えず、そんな後悔に似た言葉のみを残し、市場ブロックの一角と共にアスルの体は辺りの闇よりも黒く炎の海に呑み込まれていった。

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