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二百年の引き籠もり、そして伝説へ!  作者: イグナイテッド
第一章
38/49

第三十八話 奇襲再び、そしてエンカウント 続Ⅶ

一応補完はしたですが、まだ小さな書き漏れや間違いがあると思い、ちょくちょく修正していきます。

 左手の空気刀の形成を放棄し、散らばる気体から生まれた風の推力を利用して男の背後からその首を掴み、ワーウルフたちから大きく跳び退いた。


 そこである変化が生まれ、なんとワーウルフたちの目が初めてこちらへ向けたのだ。


 さっきも言葉に反応したようだし、これはもしかして脅威度が上がったから、無視できない存在までレベルアップしたのだろうか。


 とにかく、これでようやくまともな戦いができる。


「んぐっ! ……はぁっ、けほっ、こほ…………後退するために必要な行為だとは分かるが、やる前に先にひとこと言ってくれよ!」


 荒れた呼吸を整えながら、大男がそう叫んだ。


「悪い、でもお前が情報を出し遅れてたからこうなったんだぞ」


「ほうほう、つもりは一人で余裕で倒せると言ったお前が、相手の力を恐れたから一旦さがったってことだな?」


 いきなり意地悪な笑顔を浮かべた男が、


「いや、単にお荷物がいるので、あのままやってはとある者をうっかり殺してしまうかもしれないと思い、ここに持ってきただけだが……でも今は何故かとてもその荷物を投げ返したい衝動が湧いてきた」


「すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんもう二度とからかいませんので、それだけはマジ勘弁してください!!!」


 次の瞬間で誠心誠意な気持ちを持って、必死に土下座した。


「で、五つの魔法についていくつまで見せられた?」


「っっ!? なんでお前がそれを知ってるんだ?」


「簡単な推測だ。立派な商品や自慢なものでのは誰かにアピールして、広く知らせたいのが所持者のさがってやつだ。お前がワーウルフたちの情報を持ってるってことは、おおかた悪魔から宣伝されたのだろう?」


 しばし男が感心し、こちらの推論に肯定する。


「……その通りだ。あの悪魔――ギルアームはおれさまの前にワーウルフたちは神話種に近い魔法数を持つ構成動物種と言ってた。だが全部は見せておらず、知ってるのは殺した相手をゾンビにする魔法と身体能力強化の魔法、そしていきなり体格がさらに膨れ上がる魔法かどうかすら分からないものだった」


 ふむと軽く応じ、情報を整理する。


 自らの手で殺した相手をゾンビにする魔法はたぶんゾンビクリエートという魔法、ゾンビを作ると言ってもいきなり無から生まれるわけではなく、ちゃんと殺した相手のみをゾンビとして作り直す。確かゾンビキングが持つスキルだった。


 強化魔法が持ってる意図くらい、姿を見れば分かる。体格がさらに膨れ上がるという魔法に至っては一つだけ該当するスキルがあるが、もし本当ならいくらなんでもチートすぎる。雑魚がいくら挑んだところで勝目がない。


(ま、とりあえずこっちもいろいろ試してみるか、ついでに残った二つの魔法も探るか)


 そう思って、形成放棄でちりばった空気に含む魔力残滓を再利用し、三体のワーウルフに向かって複数のトゲ空間障壁を押し寄せる。感覚の鋭いワーウルフたちはそれに気付いても敢えて受け止めていた。


 しかし、さっきのように魔物の体を貫くことができず、すべてが表皮の部分で完全に止まっていた。


(ふーん、やっぱり外でも高い魔力を持ってる存在には攻撃として使えないか……ま、干渉耐性が高いから当然と言っじゃ当然かな)


 まるで最初からそのことを知っていたように、攻撃が通じないことに対してまったく動揺しなかった。


 トゲたちを解除した瞬間、三体のワーウルフたちが一斉に突っ込んでくる。


 それを迎え撃ちため自分も駆け出す。


 まだ十メートルも離れた場所から真ん中の一体が両方の影爪を突き出し、クネクネと伸びながら掴みかかってくる。


 影爪は実体がないので、切り落とそうとしても意味がない。


 ゆえに鏡月で明後日の方向に弾けさせ、できた隙間からさらに本体へ近づく。


 だが、三メートルも進めてないところで上からもう一体が両足に全体重を載せ、押し潰すにきた。あの質量と落ちる速度からして、強化系魔法を使ったと考えられる。


 あいにく、両サイドには伸びた影爪で道が塞げられ、回避は難しい。


(……ちょうどいい。この条件下でならどうなるが、試させてもらう)


 足を止め、一瞬で周囲に新しい魔力を散布させ、押し潰してくるワーウルフの進路上ひと際大きくなトゲを作った。


 動物の本能なのか、見えぬ危機にも反応し、空中で体勢を変え、片爪をトゲがある方向へ突き出す。


 ぶつかった瞬間、影爪が貫かれ、ひどく傷られた腕などなんとも思わず、そのまま両足でトゲを挟み掴んだ。


(やはり防御で展開された障壁なら相手にダメージを与えるか、隠れ家の時で試した結果と同じだな。……ま、相手の力の方が上回った場合は潰されるけど)


 そんなことを思いながら、トゲを解除する。


 それでもちょっと遅かったらしく、斜め上にいるワーウルフは一歩さきに挟んだトゲ障壁を使って、横へジャンプした。


 貫かれた腕は当然引き裂かれ、なおもワーウルフは気にせず、無事の片爪を伸ばして襲って来る。


 同時に後ろからも最初の狼が伸びた影爪たちも折り返して迫ってくる。


(両方向からの攻撃か……常識的考えるなら先に来る上の爪を弾けたから後ろの二つをさばくべきだろうが、あいにく俺はまともじゃないでな)


 両方からの近づく影爪たちを無視し、敢えて橋の上にいるワーウルフへ突っ込んだ。


 上から伸ばしてきた爪は大橋に刺さり、もう二つの影爪はそれを避け、なお追ってくる。だが追いつく前に、こちらがすでに本体まで迫っていた。


 予想外の行動に眼前の大狼が驚き、その隙に両腕を切り落とした。それに伴い、後ろから迫ってくる二つの影爪も地に落ちる。


 いくら実体がなくとも、さすがに根っこの部分を切られたらすぐには戻れないようだ。


 すかさずワーウルフがこれ以上はやらせないとでも言うように、片足を蹴り上げてくる。


 強化した左腕でそれを受け止め、吸収した衝撃をそのまま狼の足に返し、弾けさせた。


 再度の驚きがワーウルフに襲い瞬間、鏡月でその胴体を横両断した。


 ステップで後ろへ下がった直後、さっき立っていた場所が砕き、立ちこめった煙から二体目のワーウルフの姿が現れた。


 いつの間にかなくなった影爪が再生され、どうやらその爪で大橋の縁を掴み、橋に刺さった爪と協力して再び全体重を両足に載せてこちらを押しつぶそうとしたらしい。


 もっとも事前でその一撃に気づき、潰される前に避けたが。


 それで諦めるほど二体目のワーウルフが達観しているわけがなく、雄叫びと共に両腕を振りかぶってくる。


「……すげー、あの化け物たちを相手にここまで戦えるとは」


 遠くからその戦いを眺める男は思わずそう呟いた。


「ん? でもワーウルフは確か三体いるはず、残り一体はいったい……?」


 そう考えた途端、突如そばの影からワーウルフの姿が音もなく浮かんできた。


 すぐさま大爪を上から振り落とし、


「しまっ……!」


 男は慌てて大剣を盾代わりに使い、だけど間に合えそうにない。


 その時、


「また俺を無視するとはいい度胸だ」


 ワーウルフの背後からそんな声が響き、男と狼の動きが一瞬止まっていた。


 それを見逃すほど自分はお人好しではなく、ワーウルフの巨大な背中を逆袈裟きりで深く切り裂いた。


 叫び出した悲鳴や返り血で体と服に染めたことをスルーして、少ない空気を左手に圧縮し、その圧縮点を裂かれた傷に入り込んだ。


 すぐ三体目のワーウルフから離れ、圧縮されたからちょうど二秒を溜めた空気を解放し、大狼の上半身が爆ぜていた。


「くっ!」


 近くにいる男は巻き込めれると思い、大剣という盾で防ごうとしたが、それは杞憂でしかない。


 さっき彼の首を掴んだ時にある程度の魔力を注いていて、それを使って半球体の空間障壁を作り、爆風や散った肉塊から守っていた。


「お前、さっきまであそこにいたじゃ……いつの間に――なっ!!」


 男は視線をもう二体のワーウルフに戻すと、そこにはもうひとりの少年の姿がいた。


「あれは、分身……?」


「そんなわけないだろ。もっとはっきり見ろ」


 目をちょっと擦り、男が再びそれを確かめる。


 もうひとりの少年はワーウルフから凄まじい連撃を受け、だけどその攻撃の数々が少年に触れることができず、すり抜けていく。


「まさか……残像か!?」


「そういうことだ」


 いくら強化魔法でもさすがに分身を作るのは無理だ。だが残像くらいなら速度の緩急でなんとか作れて、ゆえに二体目のワーウルフが突っ込んできた時に即座残像を残し、男を襲撃しようとした三体目のワーウルフへ駆けつけた。


「四つ目の魔法が再生で、五つ目がシャドウシフトか……。にしても、あの影爪……長く伸ばさないと攻撃速度が上がるんのだな」


 攻撃されまくった残像を見ながら、ただワーウルフの力について平淡な語調で分析する。


 影と化して移動できるシャドウシフトを持ちながら、最初の二体はわざとそれを使わず、こちらの注意を引きつけ、三体目を目的の男に襲わせていた。


 しかし、それほどの知恵がありながら、なぜ相手が残像だということに気づかないのだろうか?


 考えても分からない時は人に聞くに限る。


「なあ、なんであのワーウルフは俺の残像を親の仇みたいに攻撃し続けるんだ? 普通は偽物って気づくはずだろ?」


 変なことでも尋ねたのか、男がしばし目を開き、そして答える。


「……おま、そりゃ自分の仲間が目の前にやられたら怒るだろう」


 ああ、なるほど。


 と、納得した。


 やがて、残像が消え、そこで先まで両爪を振り回したワーウルフはようやく遠くにいるこちらこそが本物だと察し、さらなる怒りで顔が赤くなっていく。


 その後ろにも、切断された部分が再生された一体目のワーウルフが立ち上がり、同じく相当お怒りなご様子だった。


「おい! こっちのヤツもなんかまだ生きてるぞ!!」


「やれやれ、半分だけじゃだめか……」


 近くで蠢く三体目のワーウルフの下半身を拾い上げ、もう一度空気の圧縮点を中へ入り込み、離れた。


 再度の爆発で下半身まで散々となり、今度こそ完全に動けなくなっていた。


「所詮は動物種、再生できる怪我には限度があるか……」


「本当に鬼畜だなお前、半死した魔物でも容赦しねーとは」


 前回爆発すると知った男も距離を取って避難したあと、引き攣った顔で近づけながらそう言った。


 別に空間障壁を作る魔力がまだ残っているから、そんなことをしなくてもいいのに。


 と、心の中でささやかな文句を送っていった。


 圧縮点を入れた下半身をもう二体へ投げて、一緒に巻き込みたいが、遺憾ながらこの圧縮点は非常に壊れやすく、また五秒まで溜める前でしか移動できないという難点が持っている。


 視線を変えると、残った二体のワーウルフは男みたいに軽く流してはくれず、その怒りを表すごとく体を膨れ上がる。


 それに伴い、毛皮が赤黒くなり、熱量によって煙が漂い始めた。


(おおー、なんかオルギより高くなってるな)


 目測では三メートルを届きそうな巨体、膨れたのは体のみならず、その筋肉、その膂力もきっと今までとは比べられないほど増していたのだろう。


「実に興味深い、もしかしてまだ何かあるのかな?」


「おいおい、感心してる場合か? ああなったヤツらと正面でやり合うのは無理だぞ。一撃一撃の威力が半端ないほど上がってたんだ。おそらく強化したおれさまの大剣でも握りつぶされてしまう」


血醒けつせいしたから、それくらいできて当然だろ」


「ん? 血醒って、もしかしてワーウルフたち今の状態のことか?」


「ああ、なんだ知らないのか。獣人族の中でも限られた存在でしか使えない彼らにとっての切り札の一つだ。身体能力の全般上げ以外にも、一時的に物理法則を無視した動きや技もできるようになるらしい」


 信じられない顔で男は確かめるように問いてくる。


「でも、おれさまが戦った時はパワーしか増えていないぞ?」


「手加減されたじゃないか?」


「……まさか」


 そして再度まさかよな……、と小声で囁いていた。


「まあ、再生能力は中途半端だったし、血醒もそうとは限らないだろ」


「あ、ああ、お前の言う通りだ。きっとそうに違いない!」


 ここまで気にしているとは思わなかったが、とりあえず残った二体もささっと始末するか。


 本来なら最初に放とうとした技で一気に仕留めるつもりだったけど、男がくれたワーウルフたちに関する情報に興味を持ったので、少々ゆっくりと相手をしていた。


 一応所持している魔法はゾンビリエート以外は見させていたし、本当に情報通り五つの魔法しかないのなら、もうこれ以上時間をかける必要はないのだろう。


 ずっと動かないこちらのことを見て、つに我慢の限界なのか、二体のワーウルフ目にも止まらないスピードで突っ込んできた。


 ボーとした隣の男を押し飛ばしたのち、両側からそれぞれの影爪が薙ぎ払ってくる。


 いくら空間障壁でもこの攻撃を受け止めたら簡単に破れると思い、逆に二体のワーウルフの間へ突っ込んだ。


 無論、ワーウルフたちもこの行動に予想し、それぞれのもう片爪を突き出す準備をしていた。


 一見して逃げ場がないが、相手が次の攻撃を仕掛ける前に鏡月を一閃し、二体のワーウルフはすぐさま突き出そうとした影爪を体に戻した。


 盾代わりとなった爪に当たっても傷つくことができず、ただなにかを抉った音が小さく響いただけだった。


 だがそれも概ね予想通りで、強引に自分の斬撃を防がせて、そのまま間を抜けた。


 さっき戦った時にこちらの斬撃の威力を印象つけたからこそ、ワーウルフたちは防御に優先した。


 そして相手がこちらに振り向く間、再び左手に空気を圧縮強化し、解放した烈風で擬似刀を作り出す。


 さすがに注意を逸らしたらどうなるかを知っていて、もう始末すべく男を一旦無視して、二体のワーウルフのターゲットは完全にこちらへ定めていた。


 刹那、一体のワーウルフが両爪を構えながらまた高速で迫り、もう一体はシャドウシフトを使い、影に溶け込んで一瞬でこちらの背後に回した。


 ――先に仕掛けてくるのは背後の方だった。


 両爪を合わせ、巨大な拳となって凄まじい一撃を叩き落としてくる。強化もされたであろうその一撃を受けたらただでは済まないだろうか、慌てずタイミングを合わせ、バック宙でその強烈な拳の上に屈めのせた。


 直後、下にある大橋の表面部分が大きな轟音と伴い、砕け散った。


 ちょうど前方のワーウルフも間合まで近づいて、片方の影爪を振りかぶってくる。それを恐れず相手の懐へ飛び込み、爪の進路上に部分的な空間障壁を作り、一瞬の間だけその攻撃を止まらせた。


 稼いた一瞬を鏡月で一閃させ、ワーウルフは再び片爪を盾に使うつもりようだが、強化した斬撃はさっきとは違い、影爪ごとその身を切り裂いた。


 続けて風の刃を振り、だけど鏡月が残した斬痕とクロスする途端、刃の半分が砕けた。それでも瞬く間もなく生み出したその二つの斬痕からすごい勢いで血が噴き出し、ワーウルフが痛みのあまり悲鳴を上げ、動きが止まっていた。


 それで気を遣うわけがなく、足でワーウルフの体を蹴り飛ばし、その反動を使って背後にいるワーウルフとも距離を取った。


 足手まといの男の位置も確認したから、蹴り飛ばしたワーウルフの体に残した半分の刃に圧縮強化を使う。


 すでに一度圧縮強化されたその刃は再度圧縮され、即解放にも関わらず、その威力がワーウルフの全身を一瞬で爆砕した。


 これが最初に使うつもりだった二次圧縮強化という魔法である。スキル欄には載せていないが、単純に圧縮強化を同一対象に対して複数回をかけるだけのこと。


 しかし一度圧縮強化した対象に対して、再度圧縮強化に消費する魔力は二倍ではなく、三倍、あるいはそれ以上になってしまう。場合によっては単純な掛け算では済まさないほど非常識な魔力消費が強いられ、一気に魔力を空にしてしまう可能性だってある。


 逆にそれさえコントロールできれば、五秒まで溜めたものを再度圧縮し、十秒まで伸ばすことも可能だ。


 理論上では威力をそうやって無限増大させれるが、総計二秒も溜めていない二次圧縮強化した空気爆弾が三メートルの巨体をいとも簡単に破壊してしまうほどな威力を目にしたら、三回目以降の圧縮強化を試そうとする気なんて到底なれない。


 自分の魔法に殺されるのはまっぴらごめんだ。


「残りは一体だけか……」


 最後のワーウルフに視線を向け、そんな感想にも捉えられない言葉を呟いた。


 二体の仲間がやられ、もはやその顔には怒りがなく、あるのは漏れ出すほど凄まじい殺気のみ。


 自分の顔についた血を、風を握る左手の甲で拭い、振り落とす時にこぼれしたような刃の形を整え、小太刀に変化させていた。


 少々変わった戦闘スタイルになっていたけど、別に二刀流をやりたい訳ではないので、擬似刀の長さなどどうでもいい。刺されば最後、必ず相手を殺せる。


 てっきりまた突っ込んでくると思っていたが、ワーウルフはそうせず、代わりに大きく跳び上がっていた。


 両爪を口前方に構え、まるで何かを照準しているような――いや、あれは間違いなく照準の動きだった。


 誰に? こちらに決まっている! 何のために? 六つ目の魔法を撃つに決まっている!


(偽の情報を敵に教えて迷わせるとは、悪魔らしいと言えば悪魔らしい。ま、それを期待してた俺もなんとも言えないがな)


 案の定、ゆっくりと開いたその口に凄まじい魔力が収束されていく。白き淀みのあるそれが解き放ったら、辺りが破壊尽くされるのは目に見えている。最悪、王宮と繋ぐ大橋の部分が崩壊されかねない。


「おい、逃げろ! あれを絶対に受け止めるな! あの魔法はガーゴイルキングやコウモリキングがよく使うソニックバースト、例え耐えたとしても耳がやられしまうおぞましい魔法なんだ!!」


 遠く離れた男が大きな声でそう警告してきた。


 言われなく避けるつもりだった。あれは広域な音波攻撃、防ぐことも許されない強力な魔法であることを一応ギルドの魔物図鑑で知っている。もし大橋が崩壊されたら他の小橋で迂回し、西門へ向かうしかない。


 そう考え、ギリギリまで動かず、撃ち出す瞬間を狙って一気に範囲外へ離脱する。


 ――ドーンンン、ズドンンン、ドカンンンーーー……!!


 集中力をかけ乱すような爆発音が突然、遠くで立て続き引き起こした。


 その直後、何かが湖に落ちた音が次々と伝わってくる。


(まさか……大橋と繋ぐ小橋たちが潰されてるのか!?)


 頬に一筋の汗が垂しながら、固まった思考を再回転させる。


 読みが間違いなければ、敵はすでに周りの小橋たちの破壊工作を始めている。だとしたら、このままワーウルフの攻撃を回避し、大橋まで崩壊させられたら西門へ向かう道が途絶えてしまうかもしれない。


(撃たれる前に斬るか? いや、だめだ。十数メートル離れた空にいるワーウルフに近づくより先に、魔法が放たれる可能性が大き、足場のない空中でそれを受け止めるのは危険すぎる)


 止めることも避けることも防ぐこともできないのなら、もう残された手段は立ち向かうしかがない。


 静かにそう決意し、鏡月に大量な魔力を流しながら袈裟きりを構える。今まで少ない魔力でき止めていた唯一の能力を解き放つ。


 深呼吸したあと、ついにワーウルフの口から大範囲な衝撃波が放たれてきた。


「ふんっ!」


 ソニックバーストから発せられた騒音に埋れるそうな声と共に刀を振り、ぶつかった衝撃波は辺りへ分散されていく。


「っ…………」


 鏡月と衝撃がぶつかり合い中ただひたすら無言で耐え凌ぎ、凄まじい勢いで飛び散る衝撃波が大橋に届かずとも、押し潰そうとしたその圧力によって足元にできたクレーターがどんどん深まり、辺りは余波だけで少なくない場所が砕けてゆく。


 数秒とは思えないほど長く感じた時間が過ぎ、ついに白き淀んでいた魔力が消え去った。


 斬る対象がなくなり、ようやく鏡月を振り切れた。しかしそれで終わりではなく、すぐさま鏡月をワーウルフへ向けて数閃し、空気振動を強化して作り出した剣気を飛ばした。


 大技を放ったばかりなのに、硬直もなしでワーウルフは何もない空間を両足で蹴り、二段、三段……四段ジャンプで剣気たちを避けながら迫ってくる。


 次の剣気群を飛ばした頃、ワーウルフが全力で空間を蹴ることで自身を衝撃と化し、突撃してくる。ほとんどの斬撃が弾かれたが、いくつがワーウルフの肉体を浅く抉った。


 それでもなお止まらず、試しにその前方でトゲ空間障壁を展開してみたけど、触れられた瞬間ガラスのように脆く砕け散った。


 かと言って、純粋な速度と質量から生まれた衝撃ではさっきみたいに鏡月の力でどうにかする訳にもいかず、正面で衝突すれば大怪我は免れないのだろう。


 いよいよ殺意の塊とぶつかる――寸前、


 自分の姿をワーウルフの正面からかき消えさせ、巨大な衝撃の下から入れた猛烈な蹴りがその腹に命中し、そのまま蹴り上げた。


(正面が無理なら横から攻めるまでだ)


 純粋な力比べなら、長年強化魔法を扱った自分より勝る存在なんてそうはいない。衝撃を纏った体術くらい、当然習得していた。


 痙攣しながら夜空へ上昇する巨体に、投げられた一本の小太刀がそれを追い、命中した数瞬のあと、爆音と共に三体目のワーウルフが肉塊と血飛沫となって、大橋に降り注いた。


 次回は土曜日(来週の)です。

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