第三十三話 奇襲再び、そしてエンカウント 続Ⅱ
この話で別視角を終わらせたいけど、文字数が増えすぎて無理でした……
ルージュな城壁に嵌っていた照明石の光に照らしながら、西門を守るミーラン兵と冒険者たちはなおも不利な両面作戦を継続している。
と言っても、内側は時間稼ぎのため魔物たちとの戦いは半円ブロックを巡って一進一退、今は特に気にする必要もないが。
「外側の戦況はどうなってるんじょい?」
大門真上の城壁で立っているトクタは傍の冒険者にそう問うた。彼は範囲内の戦場を魔法で観察し、言わば戦況観察員の役割をしていた。
「それが……」
何故単なる戦況報告がそんなに言難いだろうか、とトクタは訝しむ。
「こちらはそれなりの被害を受けいて、一部の者は戦闘不能に落ちいています。ですが……敵側は一人もやられておりません」
「な、なんじゃと!? それは、どういうことじゃ?」
「どうやら敵一人一人の魔力障壁がかなりの頑丈さをもっていて、こちらの攻撃は全然効いてないようで、さらには相手の攻撃魔法まですごい威力を持ち、城壁内も負傷者が出始めたんです。あれではまるで……」
「まさか……ウィルによる軍団か」
苦虫を噛みしめたような顔で思ったことを口に出した。
「あの力から見て、そうとしか思えられません。あれほどの魔力を扱えるの存在など、ウィルとゲファレーナのみです」
同じ結論に至った監査員の冒険者も似たような顔を作り、答えた。
レベルの高い異種族たちが構成する部隊や何らかの薬物で魔力を高めたなどの可能性もあるが、前者はロープ下から見せた姿には異種族特有の身体特徴がないため排除されていた。後者もそういった類いの薬は高コストや持続性の問題などで投入するのは難しいはず。
また、人間に投与した場合は死に至る可能性が大きく、あの狡猾な悪魔がこんな使い捨ての手段で精鋭部隊を築くとは考えられない。
となるとやはりウィルによる部隊という可能性が一番大き。彼らが持つ高い魔法適性があれば、同じ魔法でも今見えたように一方的に相手を押し負かすほどの力を所持している。
が、ウィルという存在は非常に少なく、一千人、一万人の中で一人あるかどうかほどな存在である。それを千人の部隊として実戦投入など、とうてい実現不可能だ。
たくさん集めれば確かに圧倒的な軍勢を生み出せるけど、彼らはどいつも個性がありすぎて、神クラスの化身を持つウィルでなくとも一つにまとめ上げるには夢のまたの夢だと言われるほどだった。
しかし、眼前で起きっている事態はそれらの問題をクリアして、そういう部隊を実際作られたとしか考えられない。それでもトクタはその事実を否定し、さらなる可能性を追求する。
(例えウィルによる部隊として肯定して、果たしてそれは本当にありえるのか? いくらウィルの中でひねくれた者が多くいたと言えど、これほどな数が教団側につくなど、どうしても思えんのじょい)
答えの得ない思考に迷走していたことに気づき、トクタは強く首を振り、注意を戦場に引き戻す。疑問はあとで考えればいい、いまとにかくこの場所を守り抜くのだ。
「あれの用意は……?」
前に出した命令を伝えた兵士に確認すると、
「はっ、いつでも撃てるよう準備させております!」
敬礼と共に返事を返した。
「ふむ、すぐ撃てと伝えろ。これ以上出し惜しみなんぞしてじゃここを守りきれんじょい」
短い応答をしたあと、伝令兵は新しい命令を下の階に届くため全速で走り出した。
しばらくの時間を経て、城壁上方にある窓から筒状なものが現し、地上の敵に狙い定めた。
突如出現した謎の物体に対しても、向こうは相変わらず自分たちの魔力障壁のみで防ぐつもりのようだ。
そして、筒状の何かから魔力が圧縮された弾が容赦なく飛び出し、障壁や砂原に当たると、どんどん爆発する。その威力は絶大、いままで倒せなかったのが嘘なように、つい教団の者にダメージを与えたことができた。
「おおー、さすがはアーカデアが作った魔導兵器、ウィルレベルの障壁でもこうも容易く破れるとは」
目のあたりの光景を見て、トクタは思わ感嘆な声を漏らした。
彼の国と取引し、一部の新技術を提供した代わりにもらえた恩恵の一つがこの小型魔導砲である。爆発範囲は従来の大砲よりも小さいが、携帯性や破壊力などは優れていた。
だがそれゆえに、みんながその兵器の魅力に取り憑かれるではないかと心配して、陛下はずっと宝物庫に保管していた。今回の敵に備えて特別王宮から運ばせてきたのだ。
「おかげでこのピンチでもなんとかなったんじょい。陛下には感謝しなけりゃ……」
元々は遠距離の兵器だったが、教団の策にハマったせいでこんな至近距離で使うはめになってしまった。直撃さえしなければ城壁も耐えてくれるだろう。
新兵器の登場により、トクタたちはようやく教団に対抗する手段を得た。
*
次々と地に倒れる信徒たちを目にし、ギルアームは苛立ちを覚えた。
「ちっ、アーカデアの魔導砲程度で倒れるとは、やはりまだ調整が必要か」
魔導砲の衝撃で倒れてはいるが、死んだではない。時間を置けばまた立ち上がるだろう。
「敵の攻撃に対する反応も少し鈍い、教科書通りの動きでは強敵には立ち向かえまい」
この部隊はあくまでテスト、大事なのは今回の戦争で取れたデータを本拠地に持ち帰ること。彼らの生死など興味はないけど、戦ったことのあるサンプルを連れ帰った方が調整もしやすいと思う。
「やれやれ、少し助力としよう。ついてにこの茶番も終わらせてやる……」
悪魔に似合う邪悪な笑顔を浮かびながら、ギルアームは自身から黒い炎を生み出し、今も打倒され続けた信徒たちの上空を覆い、飛んでくる砲弾たちを防ぐ――と言うよりは、その弾丸たちを呑み込んだと言った方が正しい。
「ああ、いい。実にいい、上のヤツらが驚く顔がよく見えるぞ、けはははは!」
相手の顔を見て、喜び終えたギルアームは翼を広げ、空に飛び上がった。
「自慢にしてた魔導砲があっさり防がれた気分はどうだ、レイクシスの弱小種族ども?」
「くそ、ついに動き出したか、ゲファレーナの悪魔め!」
問いに反応してくれたのは城壁の上に立つ初老な冒険者らしき者だった。自分に対しても臆しない態度からして、彼がこの西門を守る軍勢の指揮官と予想できる。
「さて、初対面ではあるが、一応名乗っておこう。ワレは喰炎の上級悪魔、ギルアームである。さっそくで悪いが、貴様たちの命をこのワレがいただく」
「たわけー! 誰がてめぇなぞに命を渡すか! 全員、ヤツを撃ち落とせー!!」
魔力をこもった大声で城壁全体に命令を伝えた。こんな風に伝令するのは便利だが、声が大きすぎたため敵にも聞こえる恐れがあるから、トクタはいままで使ってなかったのだ。
そしてその声を聞いた兵と冒険者たちはすぐ魔導砲や魔法の狙いを変え、ギルアームに向かって様々な攻撃が繰り出した。
トクタも、中階魔法である風の刃を大量に作り出し、翼を羽ばたく悪魔へ飛ばす。
しかし……
彼が操る黒い炎は形を変え、向かってきたすべての攻撃を遮り、変化した口で喰い、触れたものをそのまま呑み込み、結局傷一つさえ負わせなかった。
「くく、けはははは! バカどもめ、ワレに対して魔法なんぞ効かぬわ。ワレは喰炎を操る者、すべての魔力はワレの前ではただの餌にすぎん!」
「バカな! それでは魔法そのものが効かないじゃないか!」
「今頃気付いてももう遅い、さっきの攻撃でワレの魔力はさらに高まった。今度は、貴様らが消える番だ!」
体から漏れ出す黒い炎がより濃厚となり、少しずつ空中で拡大する。
「あ、あああ、うあああああー! まだ死にたくないっ! 今すぐその黒い炎を止めさせろぉぉぉ!!」
自分の死に直感したある冒険者が必死にそう叫びながら、ギルアームに向けて魔導砲を連発した。そしてその者の気持ちが蔓延し、やがて多くな兵と冒険者たちがなりふり構わず攻撃し続ける。
ある者は弓や投槍なども持ち出し、ダメ押しとでも言うように飛ばしていた。が、魔力を喰い以外もちゃんと炎属性があり、呑み込めないものはすべて燃し尽くされていた。
所詮は悪あがき、悪魔はただ悪笑いをしながら、目下にいる者たちが怯える姿を楽しんでいる。そして存分にそれを味わったあと、最後は己の高階魔法をぶつける。これほど愉快なことがあるものか。
「アホども、早く魔法撃ちのやめろ! 効かないって聞こえなかったか!? これ以上ヤツの力を上げてどうすんじゃ!」
再び指揮官である冒険者が声を飛ばしたが、すでに正常な判断力を失った者たちの攻撃はなおも止まない。死を悟ったヤツらの前では言葉が通じないのだ。
「くくく、貴様とこの兵はよく聞こえておらんようだが……?」
「くそ、アイツらめ! これくらいのことで正気を失うとは」
城壁に拳を叩きながら、トクタがそう吐き捨てた。
「さあ、お別れだ。祈りというものは済んだのか?」
「まだじゃ……! まだ、とっておきの魔法を出しとらんわい!」
「ほう、では見せてもらうおうか、そのとっておきという魔法を……」
ほとんどの魔法に対して絶対的な食することができる己に、万が一でも負けるはずのない自信を持つギルアームはわざとらしく相手を挑発した。
「その自信、叩きのめしてやるわい!」
お好きにどうぞとでも言う風に、ギルアームがジェスチャーをした。
ムカつくではあるが、相手が止める気がないのなら、トクタにとっても好機。その間に自分の唯一直接な攻撃ではない魔法を唱える。
「風を操るミーランの戦霊ビフクトよ、その力を示し、大いなる風嵐を持って我が敵を吹き飛ばさん、嵐迫!」
その声に呼応し、辺りの風が渦巻き始めた。
やがて、周囲にある砂や塵まで取り込まれた強烈な風が一気にギルアームへ向かって吹き荒らした。
苦悶な声を漏らしながら、悪魔は濁った風の中に姿を消した。
数秒のあと、
まだギルアームがどうなったすら確認できていないにも関わらず、まるで貧血でも起こしたように、突然トクタが膝をついた。
「くああっ、うはあっ、せはあ……いくら殺傷力の低い魔法でも、完全詠唱による威力上昇はかなりの魔力を消耗するんじょい」
なんとか口に出せる言葉と伴い、空で吹き荒らす風も止んだ。
完全詠唱は使い勝手のいい簡略詠唱より魔法の力を引き出せるが、代償としてその魔力消費はバカにならないゆえにあんまりに使われていない。
だけどその強力さは本物で、多くの魔力さえ払えば、嵐迫みたいな高階魔法も神階魔法に近いな威力まで引き上げられる。
「できればギルアームを倒したいが、魔法が効かない相手では遠くへ吹き飛ばすのが精一杯だわい」
まだちょっと荒い呼吸を整えながら、トクタはそんなことを口にした。
魔法ではどうしようもない以上、物理攻撃が一番を考えたのだが、弓矢や投槍すらダメージが通らないことを見たあと、もう自然現象を引き起こして一旦撃退しか方法がないと思った。
とは言え、完全詠唱の代償は思っていた以上に消耗が激しく、魔法を長く維持できなかった。
城壁では一部の者は悪魔が消えたことで浮かれて始めたけど、トクタは依然と晴れない空を注目している。まだ悪魔がそこにいるのではないかと、彼の心の鼓動が収まらない。
そして、その考えが正しいとでも言うように、砂塵が漂い夜空から邪悪な声が広がる。
「けはははは、強風でどうにかできると思ったか? 残念、大気中でも魔力は含まれるんだ!」
「んなっ……これでも、だめか……本当にもう、諦めるしか……」
悔しみに満ちた声を発したトクタと同じ、西門の者たちも絶望な顔を浮かべ、やけになっていた。援軍がくるまで耐えるなんてもはや不可能だ。
それらの反応を最高なご褒美として聞きながら、ギルアームは容赦なく用意した魔法を城壁にぶつかせる。
「終わりだ、雑魚ども。喰らい尽くせ、喰炎!」
曇りの中からたくさんの黒い炎弾が飛び出し、城壁のあちこちを爆撃した。張っていた障壁もあっさり魔力が喰われ、消えてなくなっていた。
防御する手段が持ち得ない彼らは黒い炎に焼かれ、魔力が食い尽くされるまで悲鳴を上げ続けた。
百年以来、首都一番安全な後方と呼ばれる西門はたっだ一人の悪魔によって、地獄と化していた。
「くくく、なかなかいい破壊ぷりだ。そう思わぬか?」
魔法を放った数分後、ギルアームは防御障壁がなくなった城壁に降りた。魔法で上に登ってきた隣の信徒にそう問うた。
「素晴らしい力と思います……しかし、わかりませんね。どうして我々はわざわざ門がある場所に攻めるのでしょうか? 疎かになってた城壁から侵入した方がいいのでは?」
連れてきたほかの信徒と違って、明らかに感情が豊かである。彼はこの部隊で唯一ギルアームと対話できる犬族の者で、ギルアームがほかの幹部と通信するための連絡係りも担っている。
彼のみが会話できるのはもちろん理由はあるが、いまはとにかくその質問に答えよう。
「この国には神持ちの姫がおることは知ってる?」
「はい、それが……?」
「その姫はとんでもないヤツってな。この城壁を半日で作っただけでなく、門以外の場所を守るために凄まじい数のゴーレムを砂原に仕掛けておるんだ。その戦闘力の高さは上級精霊なみ、何万人で攻めても返り討ちされるだろうと讃えられてたほどだ」
「なるほど、それを避けるために門を攻めたということですね。では何故門の辺りはその仕掛けが起動しないのでしょうか?」
「三つの門は人の出入りに使われて、自動迎撃機能を持つゴーレムが無差別に人を攻撃させる訳にはいくまい」
「そういうことですか」
そんなやりとりをしているうちに、ようやく千人の信徒たち城壁に登り終わった。
まだ首都内には入れないが、内側で時間を稼いていたはずの冒険者たちは城壁のできことを目の当たりにし、戦う気力を失ってあっという間に魔物たちに殺されていた。
「くっ、う……」
弱々しい声を耳にして、ギルアームはそこへ目を向ける。
視線の先にはさっき立ち向かってきた敵指揮官の姿があって、どうやら殺しそこねたようだ。
「よう、死に損ねた気分はどうだ?」
「この声、悪魔か……」
弱っているとは言え、まだちゃんとした意識があるみたい。
「ご名答、これから貴様らの王様を殺すに行くけど、一緒についてくるか? けはははは!」
「くっ、どこまで外道なんじゃ、てめぇは……」
「おいおい、自分とこの王様の死を目にするのはレアな体験だろうか、死ぬ前に見てみたいとは思わぬのか?」
「思うわけねぇわい、このたわけかー!」
立ちのぼる怒りを、トクタは感情なままに悪魔にぶつけた。しかし、ギルアームはむしろその反応に喜んで、もっと相手をいじめたくなっていた。
どんな風に遊ぶかと考えているギルアームに、トクタは再び口を開く。
「ふん、例え負けたとしても、てめぇらの侵攻もここまでじょい。転移で内部に入った魔物はともかく、外から来たてめぇらじゃ大結界を超えないわい」
「いきなり冷静な顔で何を言い出すと思えばそんなことか、その程度のこと……こうすればよかろう。ふっ!」
己の黒い炎を大結界に張り付き、ものの数秒でそこに小さいな穴が空いた。
「バカな……っ! レイクシスを長年守ってきた大結界に穴を空くなどっ!」
「なんだ。これしきのことでそこまでショックを受けるのか? くくく、次の遊びを思いついたぞ」
まだ本格的に首都内へ侵攻する準備は整っていないため、試しに開いた穴から喰炎を回収した。すると、大結界の穴もすぐ塞がれた。
「確か……十数人くらい王宮に向かったか?」
「はい」
ギルアームの問いに、隣の信徒は答えた。
「ヤツらは今どうした?」
「ちょっと前で魔物たちの群れを抜けたようです。現在はあの三体と戦闘中、近くの魔物たちはそれに包囲しつつある。仕留めるには時間の問題かと」
「……けはははは、あの群れを抜けたとは予想外だった。が、そうなることもワレの予想のうちだ。おい、ソイツらと対話したい、できるか?」
「もちろんです」
満足に頷き、ギルアームは隣の信徒にその用意をさせていた。
「悪魔! てめぇ……一体なにをしようとしやがる!?」
「なに、すぐわかることだ」
一部の仲間を救援要請に向かわせたことを知らないとでも思っていたのか、どちらにしろギルアームは這いつくばる敵指揮官に含みのある口調で答えた。
そう時間をかからず、宙に浮いている水膜に映りだした相手とついに対面する。
*
ストナイがやられ、謎の動物種魔物と戦い始めてしばらく、城壁の方からいきなり凄まじい轟音が轟き、振り返ると、ルージュの壁は黒い炎に包まれていた。
いやの予感しかしないが、それでもコーラルは湧き上がる気持ちを押しつぶし、自分がなすべきことをなそうとする。
しかし、疲弊していた体はこれ以上の戦いに悲鳴を上げている。
馬を乗っていた時の自分より巨大な魔物と対峙している中、相手の上空に水色の円膜が現れ、
『よくぞ魔物の群れを突破した、おめでとう、とでも言っておこうか。このほどな武勇をなした貴様らはきっとレイクシスの勇者と讃えられるだろう』
いきなり、黒い化け物にそう褒められた。
次回、金曜日でコーラルたちの部分が終わり、またアスルさんに戻ります。




