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二百年の引き籠もり、そして伝説へ!  作者: イグナイテッド
第一章
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第三十二話 奇襲再び、そしてエンカウント 続

「みんな、揃ってるな」


 おおーっと、十名程度のミーラン兵が返事を返してくれた。


 西門内側の魔物の群れを突破するため、彼らを集めていた。トクタの厚意で人選は好きに選べとのことだが、さすがに戦力の高い連中を引き抜くと、ここの守りが心もとない。


 そして選んだのがこの者たちである。一般兵とは言え、ミーラン兵の練度はそれなり高く、冒険者ランクではBランクにあたるほどな実力だ。


 古参ではないにしろ、一応はAランクである自分とストナイもいるので、動物種の群れくらいなら余裕を持って抜けれると思う。


 今は首都を出入りする大門の傍にある扉内で待機中、号令があれば一斉に飛び出すだろう。


 扉は城壁での防御のために建てられたもので、当然外側にはない。扉のほかにも上の階へ登る階段があり、内部は三層のトンネルとなっており、すべての門と繋いていた。


 こんな構造では防御力が落ちるのでは? と昔の人ならそう思うだろうか、この城壁はそんな常識を無視して作られていた。


 と言っても、たった一人の女の子がなせた業だけど。ミーランの姫は彼女が持つ神の力で城壁を建て、奇特な構造で造りながら通常の何倍より硬い城壁を僅か半日で生み出した。


 いままで破ったことなかったこの壁は、きっと今回も自分たちが帰ってくるまで持ちこたえてくれるに違いない。


「コーラル、今のうちに行くか?」


 扉の隙間から外の様子をうかがっていたストナイがそう声をかけてきた。


 目に入っている戦況は凝着中、数はあるけどやはり動物種では手馴れの冒険者たちの壁を破るのは難しいようだ。最初は必死に攻め続けた魔物たちもいまは慎重になっていた。


「おれさまたちの作戦はすでに伝えてあるって間違いないな?」


「ああ、俺たちが突っ込めばすぐ援護してくれるだってさ。ま、あんまりに遠くのは無理だけど、ないよりはマシか」


「よし、もう一度手順を確認するぞ。まずは援軍を装って前進し、おれさまが号令したら全員が眷属を呼び出して騎乗する。相手が驚く隙に外にいるやつらからの支援を受けながら、魔物たちを倒しつつ全員で大橋を突っきる。幸い、大橋にいた群れは橋の半分しか埋まっていないため、そこさえたどり着けば作戦の半分は成功したと見ていいだろう」


 すでに話してあった作戦内容を簡単に説明したあと、さらに言葉を続ける。


「なお、注意すべきは空に飛ぶ足の長い鷹たちだ。吐息や風の刃と言った遠距離攻撃はないにしろ、足の方はこちらの魔法障壁を無視して肉体にダメージを与えてしまう特性はもっていて、やつらに接近された時は注意しろ。いいか、途中で仲間がやられても振り向くな! 何としてでも誰か一人を王宮に遅らせるんだ!」


 全員が力強く頷くと、「ほかに何か質問は?」と問い、ないっという沈黙のみが辺りを満ちていた。


 こんな奇襲じみた作戦を思いついたのも実はきっかけがあった。敵は二度もこちらを奇襲を仕掛けてきたから、その意趣返しのつもりで今度は自分たちが奇襲を仕掛けようという魂胆だった。


 そのため魔物たちの注意を引き寄せないように扉の中で隠れていた。


「さあ、いくぞお前ら!」


 声に呼応するように、全員が扉から出ていく。


 思った通り、冒険者たちと対峙している魔物たちはこちらに気付いてもあんまりに関心していない。目の前の敵を優先しているだろう。


 実際一部ではまた冒険者たちに攻撃を仕掛け、防ぎられた。空の鷹たちも近づくたびに魔法に撃ち落とされ、あるいは撃退されていた。


 積極的に攻めないのはトクタからの命令に従い、時間を稼いているのだ。奇襲してきた別働隊さえなんとかできれば、内部の群れも一掃できる。


 だけど別働隊には相手の幹部クラスがいて、おそよSランクの敵にここの戦力だけで倒せる見込みは低い、勝率を上げるためにも絶対に援軍を連れてくるだ。


「なんとか指定地点にこれたな」


「魔物たちも俺らに反応してないみたいだし……次の行動に移すか」


 ストナイの言葉に頷き、彼はすぐに近くにいる指揮官と思しき冒険者へ合図を送った。向こうもそれに反応し、魔物たちに感づかないように小さく頷いた。


「全員、眷属を召喚しろ!」


 二人のやりとりを見たあと、号令を発した。


 そして共に詠唱し、己の眷属が召喚された。自分のは炎でできた馬、ストナイは氷の狼、ミーランの兵士たちは砂か土かで構成されたロバだった。


 みんながちゃんと騎乗したことを確認して、すぐさま駆け出した。


「よし、おめーら。アイツらを援護しろ!」


 後ろからそんな声が伝わり、続けてたくさんの魔法が飛んできて、周りの魔物たちを蹂躙する。あっけにとられた魔物たちは突然のできことに反応できず、しばらく逃げ回った。


 しかし、その状態も長くはない。


 群れの中を突き進むに連れて、守ってくれる魔法の雨も減っていく。かなり後ろにいた魔物は影響を受けていないため、こちらに向けて攻撃してきた。


 クマの腕を持つ異形な猿二体がいきなり跳び上がり、その暴力を象徴した太い腕を振り下ろす。


「なめんな、雑魚ども! はぁぁぁぁぁーっ!」


 背中の大剣を抜き、片手で横薙ぎした。猿たちが両断された空間には、炎をのびた斬線があった。身体強化と炎属性付与による一撃である。


 すると、今度は馬より低めの二頭狼たちが噛み付こうとする。再び大剣に炎を注ぎ、狼たちを次々と切り捨てる。


 後ろにいるメンバーたちもそれぞれの槍や剣で似たようなことをこなしながら、大橋を駆け抜ける。唯一、ストナイは空から近づく鷹たちを警戒し、襲ってくるなら中階魔法の氷の矢で迎え撃ち、みんなが橋の敵に集中できるようサポートしている。


 しばらくそれぞれの魔法を繰り出し、密度の高い群れの中を進んでいた。


 ここまで概ね順調である。しかし慢心する余裕はなく、こちら側もそれなり傷を負ってしまった。


「くっ、この数の中で突き進むのもそろそろ限界だぜ、コーラル」


「分かってる! だがあと少し、あと少しでこのうんざりな群れから抜けられるんだ。もうちょっと踏ん張ってくれ」


「へ、仕方ないな。空のやつらはすべて俺に任せて、お前も地上のやつらのみを専念しろ」


 つまりこれはストナイからひそかに、さっさと俺たちをここから連れ出せという意思表示だった。


「ああ、任せろ。一気に抜けてやる!」


 友に応え、昨日レベルが上がった時に化身から教えられた新しい魔法を詠唱する。


「赤きいくさ戦騎せんきカルティアート、我の声に応え、汝の真の姿を現したまえ、赤騎顕現しゃくきけんげん!」


 直後、さらなる炎がコーラルの馬を包み、再び姿を現す時には真紅な鎧をまとっていた。だがこの魔法はまだ終わりではない。


 さらに詠唱を重ねる。


「赤騎カルティアートよ、我は加護を求み、汝と共に戦う力を欲する!」


 そしてコーラルの体が炎に包み、次に姿を見せた時は同じ真紅な鎧をつけて、手に持つ大剣も真紅な刀身となっていた。先ほどの燃え盛る炎はなくなったが、その刀身から今まで以上な熱量が漏れ出てきた。


「これはっ! 眷属の真名顕現とその付与加護魔法か! コーラル、いつの間にそんなすげー上級魔法を習得した?」


「昨日だ。アイツから与えられたショックから立ち直ったおかげか、化身との繋がりが深まって、レベルアップと一緒に使えるようになったんだ」


 答えながら、試しに襲ってくる二頭狼を切った。さっきとは比べ物にならないくらいほどな鋭さでその体を両断した。


 この世界におけるレベルアップはなにも魔物を倒すしか上げられない訳ではない。何かのきっかけでより化身とのバイブが強めたことでレベルが上がった現象も少なくない。


 世間ではレベルのことを化身との融合率とか、同化率とかと呼ばれる人もいる。それはレベルが上がるということはゲファレーナに落ちる確率も上がるということである。ゆえにレベルが高い者ほど常に欲望に負けないように己の精神を強く保つ必要がある。


 と言っても自分のレベルはまだ53程度で、そうなる心配はないだろうが。


(よし、これならいけるっ!)


 大剣の威力を確認したコーラルは、この魔法でなら残りの路程も抜けると確信した。


「このまま突っきるぞ! おれさまに続けぃー!」


「「「「「おおー!」」」」」


「うおおおおーっ!!」


 馬の腹を蹴り、加速しながら大剣を振り回し、近づく敵を尽く切り裂き、進む道はあっという間に大量な血と屍ができていた。


 怒涛な攻撃に魔物たちは止められず、炎の馬が進む道はまるで譲られたように見えた。まさに一騎当千、立ち塞がるものは散り、一部の魔物はそれに恐怖を感じて近づくことすら恐れていた。


 頼もしいリーダーが作ってくれたルートからその戦神な如く姿を必死に追い、後続のメンバーたちはほとんど戦う必要がなくなった。


 空中を警戒していたはずストナイさえも、奇襲しようとする鷹たちは炎の馬が吐き出す火球によって焼かれ、今では近づこうとすらしなかった。


「すげー」


 ストナイは思わずそんな声を漏らした。無論、それは彼一人の感想ではなく、ほかの面々も心では同じ風に感嘆していた。


 やがて、


 真紅な戦神に追随して、彼らはついに何千もある魔物の群れを突破した。


「はぁっ、はぁ……ギリギリ、だったか……あはぁ、はぁっ……」


 群れから抜けたすぐ、真紅な鎧が消え、コーラルと彼の馬も元の姿に戻っていた。まだ習得したばかりな魔法のため、消費する魔力がひどいので、ここまで来れたのはむしろかなりもった方だった。


「おつかれコーラル、少し休んでろよ。ここから先は俺が代わりに先頭を走るからな」


 自分の狼眷属をこちらの前方に走らせて、ストナイがそう言った。ちょっと強がってみたい気持ちもあるが、残念ながらそんな気力すら残っておらず、素直にその心遣いをありがたく受け取った。


「……すまん、少しの間だけ、頼む」


 路程もあと少しで市場に到達する。その途中にはもう魔物の姿が見えないが、ここから先は正直何か待っているのが未知数である。再び接敵する前に、確かに少し休憩した方がいい。


「おう――『ドンー!』――があっ!」


 何もない道が突然砕かれ、引き起こした謎の衝撃に巻き込まれて、ストナイと彼の狼が吹き飛ばされていた。


「な……にがっ!」


 後ろへ飛ぶ友のそんな姿に呆然しつつ、無意識に馬の足を止めた。ほかの兵士も突如なできことにあっけにとられ、慌てて自分たちのロバを止める。


「っ~、何なんだコイツらはっ、なんでこんなのがここにいるんだよ!!」


 まるで最初からそこにいるように現れた眼前の化け物たちを睨みながら、コーラルがそう叫んだ。


次回、土曜日です。

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