第二十四話 作戦会議、そして思わぬ開戦
クリスマス第二弾です
――アスルたちが首都に来た三日目の夜。
「……はやく、早く陛下に知らせないと! まさかあんなバカげた数で攻めてくるとは」
夜のデゼール大砂漠に一人の男が傷だらけな騎兵たちを連れて、レイクシスへ強行する。彼の名はイリュウガ・ロンバト、<雷雨>の称号を持つレイクシス支部の唯一なSランク冒険者である。
彼は連日、国から南の砂漠にでマルディユ教団の軍勢と交戦していたのだが、先程の戦闘で部隊の半部以上を失い、今はその危機をいち早く本国に知らせるために早馬を飛ばしている。
やがて、レイクシスに到達し、馬から降りでも足を止まらず、そのまま王宮に入っていった。
「……おお! イリュウガよ、よくぞ無事に帰ってきた」
初老な男が迎えに来ていた。彼がこのレイクシスの王――カノーバ・インク・ルルージェ・レイクシスである。王冠の煌びやかさを妨げないように包帯が巻かれて、それがミーラン族の王である証。平凡な姿と違い、賢明で、民にも愛されている王だ。
「陛下! ……すまない、自分の不甲斐ないばかりに陛下から預かった兵の大半を失いました」
王の姿を見て、イリュウガは一瞬だけ嬉しさがこみ上げたが、すぐ痛恨な顔となり、カノーバ王に跪いて謝った。
「いや、そなたが謝ることではない。一体なにか起きたのか、詳しく話してくれ。国を守るためにもわたしたちは教団を阻止しなければならない」
イリュウガは身を起こし、事情を詳しく、かつ簡潔に説明した。数日の戦いを渡り、ついに勝利を掴めるところで、突如現れた大軍の奇襲に遭い、参敗を期した。それを聞き、カノーバ王は驚きのあまりに体が震えていた。
「よ、四万……それはまことか、イリュウガよ?」
「はい、この目で確かに見ました。それと、向こうにゲファレナーである上級悪魔の姿も確認できました。自分にこれほどの傷を負わせたのは、彼のものです」
本来ならばSランクのイリュウガは大軍相手すら対抗できる化物だが、相手もウィルと同等以上な力を持つ存在、消耗された状態でぶつかっては押し負かされるのは必至である。
「うむ……では、彼たちがこちらに到達するまであとどれくらいかかるかね?」
「普通で考えればあの大軍はここまで到達するには二日は掛かるだろう。しかし、彼らには転移の使い手もいて、前の戦いでは自分たちが消耗していたところにあの大軍を転移してきたから、すぐには使えまい……恐らく明日の晩には到達するかもしれません。陛下、早急に兵力を集め、防衛網を構築すべきです」
「わたしもそれに賛成だ。早速兵の編成や冒険者を集める準備をしなければな。はぁ~、エリーカさえいれば……」
カノーバ王の娘であるエリーカ姫は神持ちのウィルで、彼女がいれば四万の大軍だろうと、ゲファレナーが何人いようと、それを単独で退けることがでる。しかし、残念ながら彼女は自由気満々な性格で、加えて放浪癖があり、今はどこにいるのかさえ誰も知らない。
ふっと壁にかかられた絵に顔を向くと、そこには自分と娘の姿を描かられていた。親子とは見えないほど互いの姿はかなり歳が離れていて、祖父と孫と言われても違和感はないだろうか、新世界ではよくあることだ。
ミーラン族の寿命は普通の人間とあんまり変わらないが、神の化身と契約した者の姿は人間の十五から十八歳の間に固定され、以降は成長せず、変わりもしない。寿命も病になることもなく、不老不死となった存在はまさに神に言えるだろう。
そして、寿命の長さが違う二つの存在は時間を経てば自然にこうなっていた。
「姫は相変わらず見つがらないのですか? あの方がいれば自分たちは必ず勝利できたのですが……」
どこか縋るようにイリュウガはそう問うた。首を左右に振りながら、カノーバ王は気落ちな声でそれに答える。
「残念ながら、まだ見つかった知らせは届かぬ。今も探してはおるが、戦いには間に合わんであろう。そのせいでそなたにこんなことまでさせて、本当にすまぬな」
「いいえ、例え姫がいようかいまいか……自分たちはこの手で必ず国を守ってみせます!」
「うむ、よろしく頼んだぞ、イリュウガよ」
「承知した!」
それから、二人は大急ぎで各種の準備に取りかかった。
翌日の朝、スピーカーで国内にある冒険者たちに招集をかけていた。
*
巨樹の内部に、樹の形を沿いように形成された巨大な空間が存在している。
天井から長さの違う蔓が垂らされ、その最下部に巻かれた何かが光り、木造りの王宮とその周辺にある敷地を常時照らしている。巨大空洞の中、宮殿は神々しく、またどこか神秘的に見えていた。
王宮の手前に大きな広場があり、そこに臨時で組み立てた台座がおり、集めた冒険者たちはその台座に注目している。
やがて、一人の男が台座に上がった。煌びやかな服装からして、一目で彼がこの国の王だと分かる。筒型の魔道具を手に、拡大された声で話し出す。
「みなのもの、よくぞこの場に集めてくれた。すでに多くの者に知らされたであろうが、今この国には大きな危機に瀕している。どうか、国を守るために……力を、貸してくれ!」
「「「「「「「おおおおおおおおおーっ!」」」」」」」
短い言葉ではあるが、そこに含まれていた助けを求める意志は充分に伝わり、冒険者たちは闘志たっぷり込めた声で応じた。王はその反応に頷いたのち、まだ完治していない頑丈そうな身体を持つ別の男が台座に登り、王は彼に魔道具を渡した。
「知っているものも多いと思うが、一応自己紹介をする……自分はSランクのイリュウガだ。これからみんなに状況を説明する」
いきなり有名な冒険者が出てきて、広間はざわつき始めた。「ありゃレイクシスにただ一人のSランクではないか」「すげぇ! 俺、本物は初めて見たぜ」としばらく感嘆の声を上げていた。
「静粛に!」
重たいその一言だけで、広間は静まっていた。
完全に騒ぎが収まったと見て、イリュウガは軽く咳払いし、説明を始める。
「もう知っていたと思うが……我が国は少し前からマルディユ教団の襲撃を受けている。この数日、自分は国の外で彼らと幾度なく交戦をしていた。今までの戦いでは有利にすすめたが、昨日の一戦で戦況が変わった。自分は彼らの残り少ない兵力に誘われ、突然転送された大量な魔物による奇襲攻撃で大半の兵を失い、やむなく残存兵力を連れて夜の砂漠を強行し、なんとか戻ってこれたのが今回の経由である」
湧き上がった悔しさを鎮めるように深い息を吐き出し、さらに声を低くして告げる。緊張と不安が満ちた場にいる冒険者たちは汗を滲ませながらも静かに続きの言葉を待っている。
「敵の数は魔物約四万と数百程度の信徒、そして転移使いと上位悪魔のゲファレーナも確認できていた。まだ確認できていない存在もいるかもしれないが、今もなおこちらに進軍中と予想され、今日の夜には到達すると思われる。魔物は夜になると強さが増すタイプばかりで、夜戦になるのはほぼ間違いないのだろう」
広間の冒険者たちは驚愕した。まさかこれほどの数で攻めてくるとは思っていなかったであろう。「策はあるのか?」「いきなり転移してくる心配は?」と一人、また一人の冒険者が手を挙げてそれぞれの疑問を投げていく。他の者もそれに気になり、視線をイリュウガにくぎつけている。
「軍と協力し、各所でうまく防衛できれば、国に侵入されることは防げるだろう。雑魚たちを引きつけている間にゲファレーナたちを見つけ出せば、自分が上級悪魔の相手をして、転移使い手にはAランク冒険者を中心とした精鋭部隊で叩く。幹部クラスさえ倒せば、勝機は充分にあるだろう」
「また」と口に出して、言葉をしばし止め、ほかにも有利な情報をこの場にいる者たちに開示する。
「転移使いは前の戦いで消耗されているはず。再び小部隊を転移して来る可能性はあるが、転移阻害機能が含ている大結界が覆う首都内には入れないと考えている。さらに西側には凶暴な砂嵐があり、首都が包囲され、西から攻めてくることもないのだろう。自分たちがすべきことただ一つ……この手で愛する祖国を守るだけだ!」
「「「「「「おおおおおおおおおおっ!!」」」」」」
勝てる戦いであることを知り、全員はさっきまで感じていた不安はどこかに吹き飛ばし、より一層気合をこめた声を上げていた。
「では続けて、編成についてのだが――」
満足げに頷いたイリュウガは次の議題に進めようとした時、
「その前に、ちょっといいか?」
言葉が遮られ、一つの手が上げて、そこから少年の声が広場全体に広がっていた。
今までずっと密着して立っていた冒険者たちからある空き場が現れ、そこにいる人物は――アスルだった。リノとリムはその後ろに控えている。
イリュウガは発言したその見知らない黒髪の少年を見て、訝しげながらも聞き返した。
「なにかな、少年?」
「……俺たちのパーティーはこの戦争に参加しないので、もう帰ってもいいか? っていうか、眠いからもう帰りたいだけど」
「ふあ~」と大きなあくびをする少年に対して、いままでにない静寂が広場を支配していた。




