第二十話 首都観光、そして新米冒険者としての初依頼 続Ⅲ
「カルガー、俺たちはこの依頼を受ける」
「お、どれどれ……で、これってAランク指定の砂リヴァイアサン調査任務じゃねーか! ふざけているのか?」
依頼内容を見て、カルガーはすぐ呆れていた。やはりEランクパーティーが受けるのは難しいようだ。
「ふざけてない、本気だ」
「……本気で死に行く気か? あのな、ランクがつけているのは命知らずのヤツらを死なないためにあるのだぜ。この依頼がAランク冒険者を指定するのも自分の実力に見合う依頼かどうかを判断させるもので、坊主たちみたいなひよっこが行っても無駄死だぞ」
「たかが調査くらい大げさだな。まだいるとは限らないだろ?」
「そりゃそうだが、もし本当にいったら逃げられないぞ? 亜種とはいえ、相手は一応神話種の魔物、そこらの魔物とは桁が違う。一週間経っても誰も受けたがらないほど危険な依頼を、坊主たちは受けようとしたのだぞ。将来有望なルーキーをそんな化け物がいるかもしれない場所に送り出せるか! 分かったらとっとと諦めろ!」
長々と説得してくれるのはありがたいが、それでも曲げるつもりはない。時々傍からうるさい声が何度も聞こえたけど、今はそれところではないので無視しておく。
「カルガー、俺たちは別に死ぬつもりで行く訳じゃないだ。このまま受理してくれ……それともEランクじゃ上位ランクの依頼を受けられない決まりでもあるのか?」
「いや、そういう決まりはない。希に新米冒険者もほかの上位ランクの冒険者と一緒に難易度の高い依頼を受けるヤツらもいる。しかし、あれはほかのヤツが高ランクの話で、お前らではな……」
困りながらカルガーは短い髪が生えている頭を掻いていた。
話が平行線になっていて、しばらく互いに譲る気がないまま続けていた。
そろそろ用意した口実で強引に押し通そうとした時、彼は何かを閃いたのか、少し考えたら、意外な言葉を口にした。
「よし、分かった。そこまで行きたいなら受理してやろう」
「……本当か、嘘とかじゃないよな?」
てっきり最後まで拒むと思っていたが、意外と物分りのいい人かもしれない。とにかくこれで余計な手間が省けたので、ラッキーだった。
「おーさ……ほらよ、これで依頼された場所に行けるぜ」
「ありがとう、助かった。危うく最終手段を使うところだった」
「何をやるつもりかはあえて聞かないでおこう……。それに、行くにしてもまずはアイツに勝ってからの話だしな」
声が小さすぎて、最後に何を言っていたのかよく聞こえなかった。なんにせよ、これで依頼が受理させたので、別にどうでもいいか。
ドアに向かえようとしたところで、巨大な人影に道が遮られていた。
こっちに用があるみたいで、避けて通ったとしてもまた邪魔されそうな気がして、仕方なく相手に訊いてみる。
「俺たちに何か用?」
立ち塞がったのは高大で筋肉質な冒険者だった。褐色な左腕に包帯が巻かれていて、上半身は銀な鎧を着て、背には大剣を背負っていた。
(どうもミーラン族にはマッチョが多いな。人間に近い種のせいか、過酷な砂漠に生きるために自然とそうなったか……やっぱり考えるのはやめよう)
見たところ、前にアントナルで遭ったBランク冒険者より少し魔力が高いようで、となるとこいつも同じBランクの冒険者だろうか。
だったら倒すのは目立つかもしれない。穏便に済ませるか。
「……何か用、じゃねー! さっきから何度も話しかけたのによくも無視してくれたな!」
「は……? いつの話だ? まったく気付かなかったぞ」
と言いながらも、とりあえず思考を走ってみる。
興味のないことには基本無関心なので、リノたちも自分が反応しない相手には口を利かないから、もしかしてさっきのうるさい声って実はこちらに向けたものだろうか。
(でもあれ、絶対俺たちとは関係ないって思うけどな……なにか、ほかにも見落としがあるのかな?)
即否定したあと、いきなりん~と考え始める自分に、相手はバカにされていたと思ったのか、次々と青筋が浮かんで、さらに怒りを散らしてきた。
「てめー、Eランクのくせに調子に乗るじゃねー!」
拳を上げ、殴ってきた。
そこで、
「あっ……そっか、お前ってナンバーの人か、通りで気付かない訳だ」
ようやくそのことに気付き、拳が飛んでくる前に一瞬で彼の懐に近づいた。
「んなっ!」
スルースキルを使いすぎると、こんな風に絡まれることもあるのか、と少し興味深いそうに納得した。
だが、状況を理解した途端、相手への興味もすっかりなくなっていた。前回はBランク冒険者を倒したせいで厄介なことになっていたのを思い出し、やはり今回は穏便に済ませようと再度決意した。
そのためだけに相手が攻撃してくる寸前で接近して、驚かせて動きを止めたから。喧嘩が始まるとまた倒してしまうので、そうならないように要は喧嘩になる前の段階に止まればいい。
何故か未だ驚愕な顔をしている知らない冒険者の鎧に手で軽くポンポンして、優しい声で宥める。
「まあまあ、そう怒るな。ナンパーくらい次の機会もきっとあるから……悪いが、この二人は諦めてくれ。お前のためにも、な」
じゃなと軽く手を振り、そのまますれ違って、謎の冒険者を避けて歩いてきたリノたちを連れてギルドから出ていく。
「この、調子に……乗るなー!」
どうやら相手はまだ諦めず、体を振り返し、もう一度殴りかかってきたが――見えない壁にぶつかった。
「い、いてぇー! なんだこれはっ、壁? な……出られねー!」
遅れて、彼は四枚の見えない壁に囲まれていることに気付いた。
さっき触った時に少量な魔力を鎧に付与し、また殴ってくるかもしれないと思って、念のために間接範囲強化でその空間障壁たちを作っておいた。
間接範囲強化とは対象の周囲なものまで強化できる魔法、言わば間接強化の範囲版のような魔法である。効果はだいたい同じで、ただし強化でき範囲や持続時間は付与された魔力量に依存する。
(追撃しなければすぐ解くつもりだったが、この様子だと魔力切れまで放置する方がいいか。また追って来ったら困るし、一応出口は残ってたから大丈夫だろ)
無事にギルトから出たあと、アスルたちは軽やかな足運びで依頼される場所へ向かった。
「クソかぁぁぁー!!」
謎な冒険者は行き場のない怒りを声の乗せてギルド全体を震えさせていた。
「おいおい、まじかよ」
「Aランクのコーラルさんがあんなあっさりって閉じ込めたなんて」
「アイツら何もんだ?」
「本当にEランクかな?」
などなどアスルたちが去ったから、ギルト内は謎の三人組についてしばらく騒いていた。
「……こりゃとんでもないヤツらが来たかもしれんな」
カルガーすらも驚きを禁じえなかった。シュウドの傍にあるコーラルがずっと無視されたのを見えて、わざと依頼を受理して、コーラルとぶつかることでAランク冒険者との実力差を感じさせ、依頼のことをやめさせるつもりだった。
しかし、勝負にすらならなかった。シュウドの実力が底知れず、確かなのはただのEランクではないことだ。
その後、コーラルは魔法も跳ね返ることに恐れ、魔法を使わず役員や他の冒険者と協力して壁を壊そうとしたが、思った以上に頑丈で、結局夜までずっと閉じ込まれていた。
魔法でなら破れることと、天井の部分に壁がないことにも気づかずに。
次回、木曜日です。




