第十九話 首都観光、そして新米冒険者としての初依頼 続Ⅱ
「……ふう、こんなもんか。久々いい汗掻いたぜ」
僅か一時間で仕事を終えて、カルガーは倉庫に置いてあった椅子に座り、休憩を取っている。何故かやけにすごい満足感が溢れている様子で、こいつは一体いつもなにをしていたのかと少し疑問に思った。
「ありがとうな。それと依頼の受付方法と冒険者のことについても聞きたいのだが、説明してくれないか? 登録した時に聞きそびれたからな」
「おいおい、そんな大事なことまで聞きそびれてどうするんだ? まあいい、休憩がてらで話してやるか」
外見はこんなでも、中身は世話焼きなオッサンのようだ。少しは見直した。外見については相変わらず生理的に受け付け難いけど。
リノとリムも興味はあるようで、一緒に静かで聞いていた。二人はさっきから喋らず、まだカルガーの姿に怖がっているかもしれない。
「いいか、よーく聞けよ。冒険者ってのは……」
今の世界には各種の魔物や異種族が存在する。それらは凶暴なものがあれば、また善良なものもいる。その未知の生態や習性を調査し、各種の対策や有害無害の判断をするのか冒険者という職業である。
もっとも、それは初期の冒険者に当てている主の仕事で、ほとんどの魔物と異種族のことを理解した今では各種の依頼を受け、害をなす魔物たちを退治するのかメインとなった。他にも非戦闘系依頼があるが、基本はこれのようだ。言わば何でも屋に近い職業になりつつある。
ただし、人間や異種族との間に起こった国間戦争戦争などには参加せず、あくまでも国に属しない独立組織として中立を維持する。当然ではあるが、戦争自体には参加しない前提で、民の安全が脅かされている時はそれ守るための行動はできる。
冒険者が参加できる戦争はただ一つ――相手が魔物の大軍とゲファレナーが存在する場合のみ。ミーラン族の冒険者もそのルールに犯さないつもりでいる、とそう言いながらカルガーは褐色の腕に巻いている包帯を見せびらかしてくれた。
「……んで、冒険者ギルトはそれらの者の実力ことにランク付けをしている。新規登録した冒険者はEランクから始まり、最高のSSSランクまで上げられるだ……と言っても、これは主に化身によって、到達できるランクは決まっていたみたいなもんけどな。低ランクのヤツらは……」
カルガーの話によると、非戦闘系の化身持ちなら、例えレベル100に上げたとしてもBランク辺りがせいぜいで、パーティーの総合ランクならもっと上げることができる。逆に神の化身持ちなら新規冒険者でも始めからSランクに格付され、高難易度などの依頼も問題なく受けれる。要するに、ランク付けは戦闘力の高さに重みを置かれていることである。
異常に強い化身は神系のみならず、他にも魔王、竜王、精霊王などの化身にも指す。どれも終焉魔法が使えて、小国くらいは簡単に滅ぼせる力が持っている。本来なら自分もSSSランクにはランク付けられるはずだったが、二つの神を所持している例外中の異例なため、そもそもランク自体が無意味だった。
また、そんな目立つな称号は自らの首を握り締めるようなもの、まだ自分のことを知っている存在がどこにいるのも分からないので、できれば無名のままでいたい。
情報をまとまったところで、意識をカルガーの方に戻した。
「……そして、依頼は基本一人に付き一つのみ受けられ、ランクが高ければ高いほど受けられるものも多くなる。高難易度の依頼もだいたい高ランクにしか受けられない」
それをを聞き、すぐ浮かんできた疑問について訊いた。
「受けた依頼が一つだけじゃないヤツもいるのか?」
「うむ、そういうのは国から発する緊急依頼やギルド支部長からの特別依頼が例外で、通常の依頼と一緒に引き受けられるだ。あくまで両方とも達成できる自信があるやつらの話さ、どっちかの依頼を取り消すなんか結構ある話だぜ」
「へぇー、なるほどな……。ちなみにその例外って多いのかな?」
「ほかは知らないが、この国じゃ最近多いな」
それを聞き、ちょっと驚いて更に問い詰めた。
「なんでだ? この国はそこまで危険な状況にあるのか?」
途端、カルガーは声を小さくし、真剣な顔で話してくれた。
「最近は邪神教団<マルディユ>に狙われているって噂されてな。すでに何個か特別依頼が出されて、人員募集していた。ワシも詳しくは知らねーが、もう何度か交戦したらしいぜ」
聞き覚えのある情報をすぐ頭に浮かんでいた。邪神教団<マルディユ>――邪神マルディンスを信仰する教団で、世界のすべてを支配することを目的とした組織。
世界中に起きていた悪事の一部とも関わっていると噂され、また本拠地は非常に隠蔽らしく、ヴレーデゥすら見つからず、ゲファレナー集団が率いる危険な組織である。
(ここにいる間に本格的な戦争が始めなればいいのだが……だいたい教団のやつらはなにを考えてるだ? こんな攻め難い場所を選んで、とにかくこのまま外で決着をつけることを祈るよ。でも、この国が戦争前にあるなんてとても見えないな)
「にしては、街は平和そうだけどな」
思っていることをついそのままカルガーに言うと、彼は笑いながら答えてくれた。
「かはは……まあ、今はうちの一部Aランク以上の冒険者も手伝ってるんだ。そう簡単に首都まで攻められないぜ」
なるほどと納得した。つまり今も都の外でやり合っていて、人員不足のせいで巨樹を守る兵を少し削減したから、リノが少ないと感じたのだろう。どの道こちらとは関係のないことで、もう一つの目的を済ませることに優先した。
「説明してくれてありがとう、んじゃ俺たちは依頼にでも見に行くよ。またあとで」
カルガーは軽く頷き返し、受付の仕事に戻っていた。
長いお話がようやく終わり、倉庫から出たリムは特に嬉しい様子で依頼の張り出しを見に行った。
「おおー! 採取系、退治系、お手伝い系、調査系……いろいろな種類がある、です!」
「でも、さっきの話では私たちはEランクの依頼しか受けられません。見たところ採取系の依頼すらCランク以上のものです。どうしましょう、ご主人様?」
「あぅ、そうだった、です」
受けられない依頼ばかりで、リノたちは困っており、こちらに助けを求めてきた。
「お前たちはどれにしたい? 受けられるかどうかは別として、とりあえず一つを選んで」
リノとリムは互いの顔をしばし見て、またたくさんにある依頼内容を確かめていた。
数分後、張り出しから同じ依頼の紙にそれぞれ片手で取り、見せてくれた。
「「これです!」」
返事する前に、別の場所から声が伝わってきた。
「きゃははは、てめーら、EランクのくせにAランクの依頼を受けるつもりか、死にてーのかよ!」
何か聞こえたが、とりあえず無視して、リノたちに答える。
「決まりだな。カルガーのところに戻るか」
「「……う」」
どうやら二人の心にトラウマが植え付けられていたようだ。依頼書を受け取り、みんなで受付に向かう。
「お嬢じゃんたち、なんならこの俺様が連れて行ってもいいぜ。そこのチビと違って、俺様はAランクだからな」
途中でまた聞き覚えのない声がしていたが、同じくスルーした。きっと関係ないことに決まっている。
次回、金曜日です。




