第十話 遥か昔な夢、そして〇〇狩り? 続
<デゼール大砂漠>
そこには白い世界が広がている。砂が本来持つはずの色が白く変わり、様々な地形を形成しており、まるで死の砂漠になっていた。ここには多くの魔物が砂の中に生息し、時々商隊や冒険者たちを襲い、命を失うものが多くいる。
「結構熱いな、冷気石を持って正解だった」
炎熱な砂漠を進みながらそう呟いた。
太陽は眩しく、気温が異常に高い、吹けてくる風はまるで炎のように暑かった。もし準備もなしでここを踏み入れば魔物と遭う前に暑さで死ぬだろう。
三人とも服の下に冷気石を仕込み、熱さを緩めていたゆえこの暑さにもなんとか耐えている。これも新鉱石の一種で、常時に冷気な膜が体を包み、炎熱から身を守り、主に気温の高い地方で愛用されるものである。
「昼は五十度超えそうですよ。夜は涼しいから、その時に入る方がいいのでは?」
「どこか涼しいだよ! 夜は逆に一部の地域が凍るほど寒いことはお前も知ってるだろうか!」
リノのふざけたの提案にすぐさまツッコミをいれた。
ここにくる途中で聞いた話によると、デゼール砂漠の特徴の一つは昼と夜の気温が逆転する。準備さえできれば理論上はどの時間帯でも入れるのだが、問題は夜になると一部の地域が凍り、その場所すべてを把握しないとうっかりそこに入り、一緒に凍らせることだった。朝になると、乾いた屍が見つかたことはよくある話だと聞く。
アスルたちは当然その地理に詳しくはない。そのため、この昼いっぱいでレイクシスに到達するつもりである。それを知りながら、リノはなおもからかってくる。
「うふふ、もし寒さが怖いでしたら私が体で温めてあげますよ。もちろんは・だ・か・で!」
「……いや、遠慮しとくよ」
リノの誘惑に乗りそうになったが、なんとか踏み止まった。行為自体については魅力的だが、そのために夜の砂漠を挑戦するのはアホらしい。
「あの、ご主人」
「どうした、リム?」
左隣からリムが話しかけてくるので、頭の向きを変えた。なにやら言い出していいのかどうか迷っている様子。それでも意を決して口を開いた。
「実は、前から聞きたいなの。どうしてわたしたちは馬車や竜車などの乗り物を使わないの、です? 徒歩だけで旅をするのは無茶と思うの、です」
「…………」
「あの、聞いてるの、ご主人?」
何時までも返事がないため、再度訊ねてきた。
「…………ああ、聞いてるよ……ごめん、実は今の今まで忘れてた」
バツが悪いそうで目を逸らし、素直に謝った。
「……え、えっと、もしかしておねえちゃんも忘れてたの、です?」
優しいリムは主人に追い打ちせず慌てて姉に投げたが、
「いいえ、私はただご主人様を見惚れてて、ついそのことを言い出すタイミングが逃しましただけですよ」
「「…………」」
『絶対、わざとだな(です)』と二人の心が見事にハモった。
冒険のことで頭がいっぱいになると、周りのことが見えない自覚はあったけど。まさか指摘されるまでこんな基本的なことすら忘れていたなんて、確かに移動手段もなしで旅をするのはバカでしか言い様がないだろう。
「ま、まあ、移動手段についてはいずれなんとかなるだろ。今はとにかくレイクシスに向かうぞ、日没まで到着しないと凍死になるからな」
「そうですね」
「です」
本来ならば、馬車やら竜車やらで数日をかけて砂漠に入り、レイクシスに泊まり、更に数日をかけて砂漠を駆け抜くのが一般的な方法である。あくまでは地理に詳しい人たちに限る。
しかし、アスルたちは地理などほぼ初見て入るので、かつ移動手段もないため、強化魔法でこの砂漠を渡るつもりである。幸い、アスルの魔法はこういった強行には向いている。普通に無理と思っていたことでも、強化した身体でどうにかできるのだ。
リノとリムにおよそ数値一万ていどな魔力を注入し、強化魔法で全員の身体能力を上昇させ、気配探知強化もフル稼働して、レイクシスへ向けて走り出した。
二人に使ったのは間接強化――自身の魔力を込めたものであれば、いつでもどこでもそれに強化魔法を発動できる魔法である。とは言え、あくまで魔力がつづく限りで、切れたらまたあらためて込めなくではならない。
無論、大砂漠をこんな短い時間で簡単に越えるはずがない。今はただレイクシスの北東や南に広がっているそのほんの一部に過ぎず、本物の大砂漠はレイクシスの西にあり、そここそが正真正銘な死の砂漠である。
数時間を凄まじい速度で走り、そこで初めて魔物と戦うことになった。今までは単に速すぎて、魔物たちが追いつかないから一度も戦闘にならなかった。
だが、今回は違う。前方の砂から突如ワームが飛び出し、こちらに向けて大声で威嚇する。それに続け、全方位からも同じ大きさなワームたちが現れて、アスルたちを囲まれている。五メートルはあるワームたちを見て、アスルは感想を述べる。
「なかなか壮観じゃないか、ちょうど退屈してるだ。相手するよ」
不敵に笑いながらワームの大群と対峙する。長くつまらない道のりのせいか、外での初魔物戦にやる気が出したようだ。
「でもご主人様、ここは魔物たちの巣みたいですよ。本当にこのままやりますか?」
「問題ない、リムはリノを襲いヤツのみ対処してくれればいい、他は俺がやる」
巣から大量な数が湧いてくるので、リノは数に押されることを懸念しているが、主人は曲がるつもりはないようだ。
「で、です!」
まだ武器が出されていないリムが答えた瞬間、ワームたちが砂を這いながら大口で噛み付いてくる。リムが武器を構築する時間を稼ぐため、アスルは敵の第一波の攻撃を引き受けた。
「まず串刺しにでもするか。食べないけど」
小さく呟き、飛び込んたワームたちはすべて何かに身体が刺された。穴となった部分から緑色な血が溢れ出し、そのままさらに後続のワームに押され、次々と重ね、串刺しとなった。あっとゆう間に、周りに魔物の壁ができ上がった。
これはアスルの魔法によるものである。空間障壁に形態変化を加え、針鼠のように自分たちの周りに展開している。大きさも形も魔力の散布状況によって変化する。アスルの範囲強化は治癒魔法と違い、一気で広範囲にかけることができない。自力で魔力を散布する必要があり、今は半径10メートル以内にしかそのトゲ空間障壁を形成できず、範囲外にいるワームたちはまだ無傷のままだった。
「んじゃ、俺は突っ込むから、お前たちも気をつけろよ」
「ご武運を、ご主人様」
「です!」
リノは笑いながら手を振っている。リムはいつも通り応じた。アスルは空間障壁を解き、刀の柄に手で握りつつ前方の群れに飛び込んだ。
手に持つ刀の名は――<鏡月>。少し鞘から出した刀身は鏡のように輝き、浮かんでいる波紋すら霞むほど周りの景色しか映っていない。刀には一つの能力があるが、今回の相手には必要ないので、普通な武器みたいに使えば充分だろう。
前方から阻めてきた一体に、素早く抜き手と鏡月を強化し、一瞬でワームの胴体を抜き切りで両断した。続けて右から数体が噛み付いてきて、さっきの強化を維持しつつ、数閃して切り裂いた。
しかし、そこで気付いた。ワームたちがすでに砂から飛び上げ、全方位から噛みついてくる。
「二番煎じはあんまり好きじゃないからな」
言い終わり、 両足も部分強化し、一瞬で超加速した。空中にある一体のワームの胴体を足場として使い、一瞬の停止でそのまま切り裂き、また別の個体に飛び、切る。縦横無尽であっとゆう間にすべての胴体を切り終えて、離れた場所に降りた。
ワームたちはその間、時間が止まったように体が切られ、それが解いたなおもアスルが立った場所に飛んで行く。互いの口がぶつかり合い、血まみれて倒れていた。
すると、残りのワームたちは恐怖を感じたのか、少し震えているように見えた。
そして、動きを変え、砂の中に潜っていく。
「これはちょっと厄介だな。ま……釣りの方法でも試してみるか」
次回は火曜日で。




