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目を開け

2話目です。

最近胸板がやっとこさ出来上がって来ました(何の報告やねん(笑))

作中の方言は基本的には関西弁に似ていますが、関西弁ベースの神戸弁って感じです

いや、違いに気付くことなく読めると思います

大学生活2日目、俺は再びボクシング部を訪れた。

「こんにちは〜」

「おっ!来たな!えっと、昨日の子!」

と真司が寄ってくる。

もう名前忘れてる。

「確か陽亮やったな」

「あ!勧誘した子やん!え?ボクシング部入るん?」

昨日の不良みたいな男がやって来た。

「今の所そのつもりです」

「やった!今年一回生めっちゃ多いやん」

「宮本さんそれ去年も言ってましたよね」

ボクシング部員の1人が言う。

「そんなん言うたらあかんで」

「ボクシング部員まだいるんですか?」

陽亮が尋ねる。

「あともう2人くらいやけどな。男11人と女2人や。んで今日は一回生7人くらい来とるわ」

真司が嬉しそうに言う。

「でもあとから減るんやで」

「どういう事っすか?」

「入部してから、先輩とスパークリングするイベントがあるねんけど、そこでみんな辞めてくねん。ボッコボコにされて」

「直輝、そんな事言うて脅かした逃げてまうやん!ボッコボコに殴りたいのによぉ。グッヘッヘ!」

「宮本さん何が言いたいねん」

「うわー!先輩にそんな冷たくして良いと思っとん?傷付くで!」

この不良みたいな人は見た目に反して意外とフレンドリーみたいだ。

「ほら!一回生は宮ちゃんみたいになったあかんで。あともうちょい待っといてな」

「真司もかい!もうええわ!俺帰るしな!」

そう言って宮本と呼ばれる男は部室を出た。

「ウェエエエエエイ!宮ちゃん参上ぅ!」

宮本が再び入ってくるが、みんな無視して練習に取り掛かる。

「ほら!ちょっと反応してくれてええんやで!」

「ははは…」

俺に言うなよ。


「そんじゃ、マスボクシングやってみます。みんなその格好で大丈夫やな」

「んなモン、みたら分かるやろ!皆んなジャージやろ!」

座っていたおじいさんが、そんなもの当たり前だと言わんばかりに言う。怒っている訳ではない。

「あのお爺ちゃんが三好コーチな。あの人おらんと新入生とマスボクシングやったあかん言われたから、来てもらってんねん。いたわってあげてな」

「おい!宮本ぉ!お前バービー500回な」

「え⁉︎ちょ、無理やってお爺ちゃん!許して三好お爺ちゃ〜ん」

宮本はまだふざける。

「あ〜あ、600回に増えた。宮本君かわいそー」

この三好という爺さんも大概ふざけてる。

「ええー!」

「まあ、ええからさっさとやれ」

「うっす。ほなやろか。とりあえず一回生同士でやったら危ないから、俺らとやってもらうで。最初にやりたい人!」

三好が手を上げる。

「じゃあ、やります」

陽亮はすかさず手を挙げた。

「お!良いね!リング半分ずつ使うからもう1人いけるで!」

「俺行きます」

昨日見なかった男が1人手を上げる。ガタイが大きい。

「よっしゃ!んなら真司この子頼むわ」

「オッケイ」

「とりあえず2人とも名前聞いとこか。あと高校まで何かやってたか言ってな」

真司がそう言う。

「手嶋 陽亮です。高校までは陸上部で長距離してました」

はま 圭吾けいごです。柔道やってました」

「よし、ほんなら準備して」


4人は準備して、紐で半分にされたリングに立つ。

「陸上部長距離言うたら、スタミナゴッツイんちゃうん?」

「全力疾走しなければの話ですけど、それなりにあると思います」

「いや、スタミナはホンマに大事やで。陽亮君やった?スタミナ最初からあるんやったら早よ強なるで!」

「ありがとうございます」

「あと、寸止め言うたけど、全力で打ってきてええで!」

「良いんすか?」

「大丈夫大丈夫お前らのパンチなんかどうせ痛ないから」

「はあ」

「んな始めるで」


タイマーがビィィィ!と鳴り、マスボクシングが始まる。一瞬躊躇った陽亮に宮本は

「ほらええぞ!打ってこい!適当でええで!」

陽亮は躊躇いを無くし、打ち始める。

「おう!そうやそうや!」

とは言うものの、宮本はすぐに手を前に出してきて、顔面にグローブを擦り付けるように当てる。

「ほら、パンチやったら危なかったぞ!手を上に上げて!ガードやガード!」

陽亮は距離をとって、手を上に上げる。

「相手は近づいてくるから動いて動いて!足動かせ!パンチが打ててへんぞ。打ってこい!」

陽亮は言われたとうりにパンチを打つ。

「そうや!ほら、気ィ抜いたらガードが下がる!顔にグローブ当たってるやろ!距離とってガード!そう!できたらパンチ!」

宮本はふざけた感じが抜けて、真剣になっていた。

「次はボディが空いてる!」

そう言って、今度は軽く殴ってくる。

軽く殴ったんだろうが、痛いやんけ!

陽亮は顔をしかめる。

「脇閉めろ!ホラまだ守れてへん!」

そう言ってレバーに軽くパンチを入れる。

「くっ!」

陽亮は言われた通り脇を閉める。

そうするとがら空きになった顔を今度は軽く殴ってくる。

一瞬目の前がバチン!と真っ白になる。

「頭守らんと危険やぞ!ガードガード!んで打ってこい!」

何やこのパンチ!めっちゃ速いやんけ!

陽亮はしばらくするといつの間にか、手を前に出し、やめてと言わんばかりの屁っ放り腰で構えていた。手を前に出せば自然と距離を取れるからだ。しかし、攻撃は完全にできなくなる。

「ビビったあかん!ちゃんと構えろ!」

「!」

ビビっでたのか、俺…

その声を最後にタイマーが鳴る。

「んじゃ30秒の休みとってもっかいやって交代しよか」

「はい!」

元気良く返事できたは良いが、言われるまで気づかなかったけど、俺マジでビビってる。どうしよう。正直今楽しくない。

「陽亮、ええ事教えたろ」

「はい」

「目を開けろ。何が何でも。人は猫騙しでも目を瞑る生き物やねん。パンチが飛んできて目を瞑るんは当たり前や。でも、目を瞑るな。目を開けろ。いいか?何が何でも目を開けろ。もっかい言うたる。何が何でも、目を開けろ。もう、バチッと目を開けろ」

「はい」

「目を開ける。10回言え」

「目を開ける。目を開ける。目を開ける。目を開ける。目を開ける。目を開ける。目を開ける。目を開ける。目を開ける。目を開ける。目を開ける」

「おし!何回言ったか分からんけどそれでええやろ。始まるぞ」

そう言ってすぐにタイマーが鳴る。今度は無情にも宮本から攻めてきた。

うわ!

“見えない位に速いパンチ”に陽亮はまた屁っ放り腰になるが、すぐにさっきの言葉が思い浮かぶ。

目を開ける。

その瞬間顔を殴りに来た拳が、陽亮のグローブに当たり、パンチを防ぐ。

アレ⁉︎さっきと違う。パンチを防ぐ事はさっきから何度もあった。けど、どうしてか感覚がまるで違う。

宮本は顔への攻撃を止め、“打ってこい、打ってこい”と言いながらボディに拳を放つ。

“目を開ける”

この言葉が頭の中で何度も反復する。

そして、肘でボディへの攻撃を防いだ。

ああ⁉︎なんで防げた?それに

陽亮は不思議と防げる攻撃の中で、ある事に気付く。気付いた部分を探るように、拳を放つ。

避けられはしたものの、確かに掴めそうなものがあった。

…パンチの打ち終わりは…隙がある!

「そうや!思わず避けたけどそんな感じや」

そして、宮本はちょっとずつ力を出し始め、ガードできたパンチも無理が出てくる。しかし、陽亮も攻撃を止めない。

ラスト30秒になると、宮本はワザとコーナーに追い込まれ

「ほら、コーナーに追い込んだぞ!打て!チャンスや!打て!」

陽亮はバテバテの様子で、ガードを固めた宮本を殴る。

「弱い弱い!コーナーから相手逃したあかんで!ラッシュ!ラッシュ!ラッシュ!」

「ふんっ!」

陽亮は歯を食いしばり、全力で宮本を殴る。

クッソ!腕がだるい!もう上がらねえ!

陽亮はそんな事を思いながら、そのラウンドを終えた。


その日は家でボーっとボクシングについて考えた。俺は案外ビビリだった。もうちょいハングリーでちょっと暴力沙汰もいけるタイプかと思ってた。中高とヤンチャな奴らと部活だって熱くなれたのだからボクシングでも、と思った。とんだ勘違いだ。全く別物だ。実際、殴られるのが嫌になったし、殴ったら殴り返されるんじゃないかって小さくはあるが恐怖を覚えた。

「目を開ける」

陽亮は呟く。

この言葉が魔法の言葉だった。どんな格闘技の本にも載っていない、でも恐らく最も大事な事。実際目に見えないほど速いパンチだと思っていたのも、自分が目を瞑っていてしまっただけだった。見てないパンチは見えようが無い。こんな当たり前な事を考えれなくなるくらい、リングの上では緊張感があった。あの程度で緊張していたら話にならないのかもしれないが、それでも俺の思考はほとんど使えなかった。

「ショックだなぁ…」

自分の心の弱さが、あのリングの上で丸裸にされたんだろうな。多分あの上はそういう場所なんだ。

目を開けて、ビビらない。よし、コレでいい。

ここに来て俺は初めて気づいた。

恐がってたのに、案外止めとくって選択はしないんだな。俺って。

なぜだろう。やめたくなかった。今日は辛かった位しか思わなかったのに、やればやる程魅せられる。現にボクシングの前も後もボクシングの事以外考える事ができない。

ボクシングって案外不思議なスポーツなのかもしれん…


大学生活も一週間ほど経ち、ボクシング部にも入部した。

前のマスボクシングがあったせいか、人数は少なくなったが、それでも7人いた。

「えっとそんじゃミーティング始めるでー」

ばらばらに散っていた部員たちと、新入生が円を作って集まる。

「えっと、新入生おるから自己紹介していこか。えー俺は三回のボクシング部、部長室田 真司って言います。よろしくお願いします…次誰いく?」

「はーい!4回の山本 拓也って言います!今から就活行ってきます!」

「なんで来たんすか?」

「圧迫面接の前に若い空気を吸いに来たんや」

「先輩どうぞ!」

宮本が服をバタバタさせる。

「くっさ!ワレはもうオッさんやろ宮本ォ!」

「そうです!俺の名前は宮本やで!宮ちゃん呼んでくれたらええから」

宮本は人相の悪い顔をニッと笑わせる。

「何回か言えや」

名前の分からない先輩が言う。

「3回生でーす」

「えっと、俺は小錦 優希です。3回生やで」

あと、何人かの自己紹介があり、最後に部長の真司からの言葉がある。

「えっと、今年入ってくれる子多いんやけど、これ以上減らんようにしてほしいと思います。だから、えっと、なんやろ、ちゃんと練習してたら、ボコボコにされて怖いこと無い…事無いけど、それでもボクシングは練習せんかったら心が先に折れてまうから、練習して…してください」

「…おー?返事聞こえへんぞ!一回生!」

宮本がそう言うと、一年生の皆んなが一斉に返事した。

初めて人と殴りあったのは小学校1年の頃に空手でやりあった時でした。自分はその時親に何を習わされていたかも分からず、とりあえずやってたんですけど(本当に理解力がなかった方だと思います)急に殴り合いが始まって(始めみたいな合図はあったと思いますが)

「なんで殴られなアカンのや?この子(相手の子)俺と友達ちゃうんか?」

みたいな感じで心が傷ついてやめました。

今にしてみればめちゃくちゃもったいないと思ってます。

なんで今になって闘争心が芽生えたのか自分でも不思議なくらいです

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