ボクシング
リアル路線なようでそうじゃない感じの作品です。一応経験を元に書いていくつもりなので、もしかしたらボクシングに興味持って頂けるかもしれないと、淡い期待を持って書かせていただきます。
格闘技はもっと人気出て欲しいですね。特にボクシングは、人を壊す為に考え抜かれたモノですから見応えもやりごたえもあると思います。いろいろ語りたいですが、作中で語らせていただきます。飽きずに読んでください。
高校生活は、随分味気がなかった気がする。陸上部に所属していたのだが、妙に部活に力を入れていた学校でコレと言った学園生活も無かった。恋愛も無けりゃ、それなりに良い頭脳を手に入れたわけでも無い。ゲロを吐きながら身につけたスタミナも特に意味は無さそうだ。近畿大会まではいったが全国にいけなきゃ、こんなモノは全くの無意味だ。感動は味わえた。引退する時には一丁前に泣いた。でも、もう走るだけの競技は、
「ゴメンだなぁ…」
手嶋 陽亮は大学の入学式中にボンヤリと考えていた。
入学式を終え、体育館の外では部活やサークルの勧誘が大量に待ち構えていた。入学式に友達を作り損ねた俺は、1人でいると意外にも勧誘が寄ってくる。声をかけやすいのだろう。文科系から体育会系までより取り見取りだ。
文科系の部活やサークルに入るつもりは無い。イベントサークルなんて以ての外だ。ただ陸上部長距離は本当に嫌だった。もちろん勧誘は来た。
「なあ、走るん好きやったら陸上部どう?」
「ああ、いやいいです」
好きな訳が無い。キツイだけ。
それに俺は、格闘技をやりたいと決めていた。何をするかまでは決めていないが、とりあえず格闘技だ。
少林寺拳法部
「え!格闘技興味あるん?」
勧誘の男女二人組の男が笑顔で聞いてくる。
「ああ、はい。何かしらやろうと思ってます」
「少林寺拳法ええで。ある程度運動会できるし、あと他の部より就職に役立ったりするしな」
「はい」
何だこの男女…この部は無いな。却下だ。
合気道部
「アルバイトしながらでもできるし、大学生らしく過ごせるからいいと思うよ」
この部も何となくウゼェ。却下だ。
空手部
「演舞とかちゃんと試合もあって、あと普通に女の子とかもやってるし空手部ええで」
信じられない事にこの勧誘のお兄さんは酒臭い。もちろん却下だ。
居合道部
「見てコレ。模擬刀やねんけど、めっちゃカッコ良くない?コレオーダーメイドできんねんけど、めちゃくちゃ柄の部分にこだわってん。見て刀身とかも抜きやすいように…」
オタクが多かった。バカにしてるわけじゃないがどう考えても俺の雰囲気じゃない。却下。
「…格闘技系にも結構女子とかおるんやな」
しかもみんなチャラチャラしてやがった。そもそもそういう雰囲気が一番苦手なのだ。もっと言えば、勧誘してきたほとんどの人が、その競技についての面白さを言わずにメリットやその他関係の無い事ばかりを話してきた。それは仕方ない事だとは思うが、あまりに競技に真剣じゃないのはそれはそれで性に合わない。
「あのさ、新入生やんな」
また俺は勧誘に呼び止められた。
「はい。そうですけど」
見た目がチャラいというか、もひとつ飛び抜けてヤンキーみたいな男が寄ってきた。何部かは知らないが元不良みたいなのがいる部活は願い下げだ。
「あのさ、ボクシングとか興味ない?」
「ああ、一応あります」
「え?そうなん?じゃあ、ちょっとチラシの所行って見て行ってな。ここボクシング部の部室やから」
「どんな感じですか?」
「どんな感じか?そうやなぁ…」
「…」
「…」
どんだけ考えるんだよ。やっぱ頭も悪そうだな。
「…うん。強くなれるで。ホンマに。行ってみたら分かるわ」
「…」
「うわっ!頭悪ぅ!もうちょっとアピールせえや」
同じボクシング部の勧誘だろうか、別の男が茶化しにくる。
「うっさいねん。じゃあお前なんか言ってみろや」
「めちゃくちゃ強なれるで」
そう言ってもう1人の男はシャドウボクシングをし始めた。
「お前も変わらんやんけ!」
「ははは」
このやり取りには苦笑いする事しかできないけど、
「ほらこの子も、こんなしょーもない奴おったらボクシング部きてくれへんやんけ」
「あ、いや、ちょっと行ってみます」
陽亮はそう言った。
「おっ!マジで!サンドバッグ打ってきな!」
「部長喜ぶで!」
「分かりました。ありがとうございます」
陽亮は礼をしてその場を去った。
今までのどこか気だるい感じの勧誘よりしっくり来た。コレだと思った。
俺はボクシング部の部室である体育館の前で立ち止まる。サンドバッグを叩く音だろうか、バンバン!と大きな音が体育館の外まで鳴り響いている。今まで縁の無かった空間を前に俺は少し緊張感を覚える。
「よし、行くか」
扉を開くとそこには、あまり多いと言えない人数の部員がサンドバッグや、ミットを叩いて練習していた。
「おっ!新入生か!もうちょっと待っててなそこに座っといて!そこの子らも新一回生やから、仲良くなっとき!」
さっきとはうって変わって地味な髪型をした男の部員が、サンドバッグを打ちながら言った。見ると指示された場所には男が2人に女が1人いた。男の方は2人で来たのか、2人でずっと話している。女はボクシングの練習風景を見学していた。
「こんにちは〜」
「あ、どうも」
「どうも」
陽亮の挨拶に男2人は軽い挨拶を返し、女は会釈をする。陽亮は男の隣に座り、特に話す事も無くボクシングの練習を見ていた。それはもう圧巻だった。ひたすらうるさい音が鳴り響き勢いのあるパンチが放たれる。不良のような部員もいたが顔は真剣そのものだった。
「なあ、ボクシングやってたん?」
唐突に隣の男が話しかけてきた。
「いや、やってない。え?やってたん」
「いやいや、俺らもやってないけど、興味あったから来た。めっちゃ凄ない?」
「うん。ヤバイな。あの、そこの女性の方はボクシングとかやってたんすか?」
「はい?私一回生やけど」
「あ、いや分かってる。分かってる」
女の子と喋るのが苦手なんだよ。無理して話さなきゃ良かった。
「私もボクシングはやって無かったけど、空手やってて」
「へー」
「えっと、2人は」
話の流れで女の子が2人に聞く。
「俺らもやってないで」
「俺らは高校ん時水泳やってた」
「へー」
「…」
「…」
「…」
仕方ない。そもそもそんな伸びる話でもないのだ。大人しく練習見とこ。
「えっと、ボクシング興味のあんねんな?」
地味な髪型の男が話しかけてきた。
「自分は、部長の室田 真司って言います。えー、早速やけどサンドバッグ殴りたい人!」
そう言って真司は手を上げる。陽亮達は顔を見合って最初に口を開いたのは二人組の男のうちの1人だった。
「お!名前は?」
「木戸 泰宏です」
「よっしゃ、泰宏いこか。んじゃ順番に殴らせたるから他の子もグローブ付けとき」
「はい」
陽亮は指示された通りグローブをつけようとするが、
何だコレ。クッセェ…
グローブが異様に臭かった。借りた軍手も似たような匂いを漂わせていた。
まあ、しぁあないか。
諦めて軍手とグローブをつける。
「あと一人、一応サンドバッグ殴れるで」
「じゃあ、俺が」
陽亮はすかさず手を上げる。
「名前は?」
「手嶋 陽亮っす」
「オッケイ。そんじゃ、もう1人余ったのはサンドバッグを後ろで後ろでこんな感じで支えて」
真司がサンドバッグを支える指示をする。泰宏の方にはもう1人のそいつの友達が行き、陽亮の方には女が来た。
うっわ。殴りにくぅ!
空手をやっていたとは言っていたものの、つい先月くらいまでは受験だったのだ。上半身の貧相さはスーツの上から見ても陸上部長距離だった俺ともどっこいどっこいだ。
「どうやってパンチすりゃええんですか?」
「細かい事は教えん。今日はムカつくヤツ思い浮かべて思いっきり殴ってみ?」
「…」
俺は何も教えられないと、手探りで中途半端にやってしまうタイプでスッキリとした事は出来ないタイプなんだが…
「例えば?」
陽亮はしつこく聞く。
「…ボクシングは見たことある?」
「はい。一応」
「へえ!偉いな!俺なんて部活入るまで興味も無かったで!」
何でボクシングやってんだ?この人。
「その見たボクシングの試合思い浮かべて、自分がカッコいいなって思うフォームで思いっきり打ってみ?思いっきりが大切やで。そんじゃあのタイマーが30秒終わったら打ってみようか」
そしてタイマーが30秒を終え、3分にセットされた。
「ほい!打て打て!」
とにかく適当に殴る。うまく音が鳴らない。隣でやってる泰宏も音が鳴らないようで思いっきり力を入れて殴っている。
「ほらほらもっともっと!こんな感じで」
真司が隣にあるサンドバッグをぶっ飛ばす。
スゲェ!
「もっともっと!連打連打!休むな!」
絶え間無く真司の声が飛び交う。
「おら!死ねや店長!」
隣で真司は店長を罵倒する。
「ワレの声出しも大概聞こえとらんのじゃ!何バイトにばっか言いよんねん!パートのババア共は逆にうっさいねん!キンキン声で声出しすんなや!」
途中から愚痴に変わる。
気がつけば1分30秒を切っていた。そして後ろでサンドバッグを支える女の子が押されて踏ん張っているのを見てしまった。
うわ!やべ!もうちょっと離れて打ったろ。
サンドバッグの後ろにいるのは女の子なのだ。どうしても陽亮は遠慮してしまって半歩下がって拳を放つ。
ズバァン!
その瞬間、隣にいる真司ほどでは無いが、陽亮の殴ったサンドバッグからいい音がでる。サンドバッグと共に女の子も押されて下がった。
アレ?
「お!陽亮!ええ感じやん!」
真司が隣から褒めてくる。
「ありがとうございます。あの、大丈夫?」
陽亮は女の子を気にかける。
「大丈夫。サンドバッグの後ろやし」
とりあえず続けて殴ったが、考えれば考えるほどさっきの音からは遠ざかり、あまりスッキリしなかった。
「んじゃ交代な」
後ろにいる、2人と交代し陽亮はサンドバッグを支える。
2人の名前は女が熊渕 紗江男が石黒 陸だ。
陸は特に陽亮や泰宏と変わらず、あまり音の鳴らないパンチを繰り返していたが、打って変わって紗江はいとも簡単にバンバン!と音を立てパンチを打っている。
何だコレ、こんな女の子がこんなパンチ⁉︎威力もこの子しか知らないけど何か強く感じるし、それにめちゃくちゃ動き回る。
「おい!お前ら女の子の方が上手いやんけ!ははははは!」
真司が横から茶化す。
「紗江ちゃん?やった?何かやってたん?」
真司が尋ねる。
「空手をっ…一応っ!」
「ああなるほどな。もっとパンチ引くの速くしてみ?」
そう指示した後、信じられない事に女の子のパンチはさらに威力を増す。音もデカくなる。
何やこれ!
俺はこの時点でボクシングの虜だった。疑問が湧き、その答えを知りたくなり、また同じような力を得る事が出来るかもしれないと思うと、腹の底から興味が湧いた。湧き上がってきた。
その日はもう一度サンドバッグを殴り、自分の部屋に帰った。明日は殴らずに二人組で寸止めし合うマスボクシングというものをするらしい。真司さんいわく、“寸止め言うても皆んなほとんど殴っとるけどな。だって無理やもん!”だそうだ。
大学からは一人暮らしだ。まだテレビも無い。パソコンだけはあるから、エロ動画を見る分には全く困らない。そのくらいで特に趣味がある訳では無いので遊び道具も無い。部屋の中はこざっぱりしている。でも、今はそれどころじゃない。
「ボクシングやるぞ」
俺は決めた。ボクシングをやる。あれほど腹の底からワクワクさせる競技は他には無い。そう思えた。現に俺はボクシングの事ばかり考えている。
「どんな格闘アクション映画も基礎体力を重んじてるし、まずは陸上部の頃の練習をやっとくか」
陽亮はそう独り言を言って、ほぼ新品同然のマラソンシューズを履いて走りに行った。
時間は夕方の3時50分。
「20キロジョグだけやっとくか」
スタミナがあれば筋肉をフルに使う事ができる。まずスタミナだ。
大学の入学式。中高と無かった胸の高鳴りを覚えて大学生活をスタートさせた。
経験を元にとは書きましたが、俺は凡人なんで主人公とは違います。やっぱり主人公は主人公っぽくしとかないと。それにコレはやはりフィクションなんで、今後作品に出てくる知識も鵜呑みにしないように、実際やってみてその知識の真偽を確かめてください。調べるだけではダメです。やってみてください!自分は全力で格闘技というモノを皆様に推薦します。ボクシングじゃなくてもいいんです!
では、また。