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 魔法士ギルドに行くんじゃなかったのかと、そんなことを言ってやれるほど悪い奴じゃない。

 リゼはきっと、自分の使いやすい武器のスキルを解放したかったのだろうし。


「自分で行ってきて」


 リゼはとぼとぼと家に帰っていく。

 その姿をぼんやりと見送って、メインストリートを歩いて行くことにした。

 彼女の言っていることを思い出せば、この道の先にギルドはあるはずだが。


「あれか」


 大きな建物が二つあった。

 一つは教会だろう。

 どちらも人で賑わっているが、どちらがギルドなのかはすぐにわかった。

 なんというか、人が違う。

 教会にはやはり落ち着いた人影が多く、ギルドの方はというと、これまた個性的な人間ばかりである。

 服にしたって、服なのかよくわからないものを身につけている人間もいる。

 いや、さっきも見たような――気のせいかもしれないが。


「ギルドに用があるのか?」


 どう入るべきか悩んでいると、すぐ後ろから声をかけられる。


「付いてきなさい。初めてなんだろう」


 紙袋を抱えて、先を歩いていく。

 黒髪――ここにきてからまだ一度も見たことのない髪色だった。

 自分の髪色だけが浮いていると思っていたが、他にもいたとは驚きである。


「ようこそ魔法士ギルドへ」

「ああ、うん。その、武器スキルが解放されたから――」

「そう、じゃあブックを渡さないといけないわね。こっちよ」


 かけられる声に手を振って、彼女は奥へと進んでいく。

 となると、視線が後ろを歩いている俺に流れてくるのはおかしな話じゃなかった。

 嫌な視線である。


「その様子だと、魔法士についてはまだ詳しく知らないようね。珍しいけれど、落ち込む必要はないわ」

「まあ、知らないなりにがんばって勉強するよ」

「いい心構えね。さあ着いたわ。どこから説明したらいいかしら」

「えっと……」


 なにを知っているか教えた方がはやいのかもしれない。


「なるほど。では、魔法士ギルドのこと、魔法士がやっていること、そういうのは全く知らないわけね。まずはブックについて話す前に、魔法士ギルドについて話した方がよさそうか」

「たっぷり頼む」


 なにせわからないことだらけである。


「遅れて自己紹介を――私は魔法士ギルド、アリアス支部副長ヒナタ」

「副長? お、俺はヒトシです。よろしくお願いします」 

「いいの畏まらなくて。決めたわ。あなたのサポートは私がやる。よく話を聞いて」


 彼女はそういって肩にかかっていた髪を払った。 


「魔法士の仕事は街の平和を守ること。民間人から依頼を受け取って、それに見合う魔法士に仕事を与えているのが魔法士ギルドよ。以上」

「うん、わかりやすい」


 たった二言で説明を終わらせるとは、さすが副長である。


「ブックを渡すわ。魔法士としての証よ。無くさないように」


 手帳サイズの本を手渡される。

 開いてみるが白紙でなにも書き込まれていないようである。


「魔力を込めてみて。あなたのステータスが自動で書き込まれるわ」

「……どうやって込めればいいのかがさっぱりなんですが」

「そんなの気合でなんとかしなさい。そこは私のサポートできる範囲じゃない」


 ずいぶん冷たい対応である。

 まだ魔法も使えないし、そもそも本当に魔法が使えるのかもわからないのだけれど。


「うぬぬぬ」


 両手で挟んでとりあえず祈ってみる。

 残念ながら効果はないようだ。


「武器スキルは解放されたのよね?」

「はい。あ、いえ、たぶん」


 あの感覚が本当に武器スキル解放のものなのかはわからないか。

 しかし間違いはないはず。


「武器でこのブックを叩いてみなさい。武器スキルが解放されているなら、武器攻撃に魔力が込められているはず。軽くでいい。間違っても破いたりしないように」

「了解です」


 ブックを床に置いて、借りたままの盾でこつんと叩いてみた。

 するとブックはわずかな光を発して勝手にぱらぱらと捲られていく。


「うまくいったわね」

「な、なんだなんだ」


 自動で文字が書き込まれていく。

 名前、ステータス、武器スキル――そしてクラス。


「クラス?」

「ああ、クラスのことは知らないのね。魔法士には4種類のクラスがあるのよ。簡単に言えば、その魔法士の覚える魔法の傾向なんだけれど。魔法を武器に纏い戦うナイト。精霊を呼び出し使役するサマナー。魔法で自分や任意の相手を強化して戦うエンチャンター。癒しの魔法を扱うクレリック。あなたの場合は――」


 自分のブックを覗き込んでみる。

 エンチャンターと書いてあるのが確認できた。


「盾があなたの武器なら、まあそうなるわね。次のページを確認してみて」


 言われた通りに次のページへ。

 魔法スキルと大きく書かれていて、一つだけ何か書いてあるようだ。


「あら、珍しいわね。自動スキルなんて滅多にいないのに」

「これが俺の魔法? 変な名前だな」


 アベレンジ。

 聞いたことがないし、名前からは全く想像もできないが。


「魔法種は……うん? おかしわね。魔法対象も魔法種も書いてない。普通なら書いてあるんだけれど。まだ完全には習得できていないってことかもしれないわ」

「どんな魔法かもわからないのに、どうしたらいいんですかね」

「しばらくは街の近くの魔物を倒して、お金を集めて、武器と防具を揃えたほうがいいわ。その後、仕事をあげる。レベルも少し上がれば、この魔法を完全に習得できるかも」


 初めのページに戻ってみる。

 名前の横にレベルが書いてある――4レベル。

 これがどの程度のものなのかはわからないが、まあたいしたものではないだろう。


「なにかわからないことがあったら私に聞きに来て。期待してるわよ、新人くん」

「がんばってみます」


 まずはリゼに報告しにいこう。

 パーティに入れてくれると言っていたし、要するに仲間にしてくれるということだろうし。


「そういえば新人くん。何も知らないみたいだけど、でも部分的には知っているようだし、だれに教わったの?」

「リゼに――あ、いや、わからないですかね。名前以外は知らないんですけど」

「リゼが? 他人に何かを教えるなんてらしくもない」


 どうやら知っているらしい。


「あの子も私の担当なのよ。私は才能がありそうだと思った子しか担当しないけど、彼女はまだ武器スキルが解放されていないのよね。魔法はずいぶん高度なものを扱えるんだけれど」

「さっき解放されてましたよ」

「え? 本当に?」

「たぶんですけど。ずいぶん落ち込んでいました。なにせ素手なので」

「……」


 ヒナタさんはぴたりと動きを止める。


「ごめんなさい新人くん。もう一度言ってもらっていいかしら?」

「素手でした」

「……」


 ヒナタさんはゆっくりと歩み寄って来たと思うと、すぐ目の前で立ち止まる。

 なにかを我慢しているかのように、ふうと息を吐いた。

 前髪に息が当たる。

 悪い気はしないが、これからなにを言われるのかが恐ろしかった。


「今すぐリゼを連れてこい。分かったな、ヒトシ」

「イエス、マム!」


 絶対的な、逆らえられない何かがあった。


◇第一魔法 火

はじめに見つかった魔法と言われている。

この魔法は複数人が同時に使えるようになったため、シードが存在しない。

単純に火を扱うことが多く、かなりの魔法士がこの魔法種の適性を持っている。

魔法の力としては一番貧弱で、武器に頼って戦うことになる。

そのため、この適性を持つ魔法士はナイトのクラスになることが多く、武器に火を纏って戦うのが、第一魔法を扱う魔法士の基本である。


◇第二魔法 風

第一魔法のずいぶん後に見つかった魔法。

基本的には風を扱う魔法だが、風に語りかけ精霊を呼び出したり、中には回復魔法を扱う魔法士も見つかっている。

回復魔法は第五魔法光に含まれているものが多いが、それとは根本的に効果が異なっている。第二魔法のものは継続的な回復をもたらすが、第五魔法では瞬時に効果が現れるという違いがある。

しかし一番の特徴は、精霊を召喚できるということだろう。

他の魔法種にはない魔法であり、この魔法のシードは、召喚した妖精のみで国を滅ぼしたと言われている。

この適性を持つものは、ほとんどがサマナーに、稀にクレリックのクラスになることがある。


ボボリア=スピルフィア(056)『絶滅した魔法士』夏色書店

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