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 どこに行くのかとついていけば街の外へ向かっているようだった。

 お互いに武器も持っていないのに。

 路地を抜けて行くと広い道に出た。

 いくつもの露店がでていてずいぶん賑わっている。


「この街の中心よ。だいたいのものはこの道で揃うわ」

「へえ。なんでも売っているんだな。うわ、なんだあれ気持ち悪い」


 目が飛び出た豚だ。

 キンギョの出目金に似ているような気がする。


「デメブヒよ。脂が控えめで結構おいしいのよ」

「デメブヒ……なんだよその名前。にしても肉じゃなくてそのまま売るのか。すごいな」

「あれはいますぐ食べるわけじゃないわよ。子供のブヒを育てて大きくなってから食べる。普通に肉を買うよりは安く済むのよ。すぐに食べられないのが辛いところね」


 自分の記憶には、動物を育てて食べたというものはない。

 植物だって、自分で育てたことはなかっただろう。


「このまま街の奥に行けば魔法士ギルドがあるわ。適性がわかったら連れて行ってあげる」

「そうか」

「隣に教会もあるから安心して」

「なにをどう安心すればいいんだよ」


 リゼは鼻で笑って歩みを進める。

 辺りを見渡して――上半身裸は自分くらいだった。

 しかしどうやら服装自体に問題はないようである。

 皆それぞれ着ているものは様々で、鎧に身を包んでいる人間もいれば、本当に服なのかよくわからないものを身につけている人間もいる。

 見た感じ本当に人間なのかもわからないが。


「なんで外に行くんだ?」

「お金を増やすのよ」


 闇市かなにかがあるのか。

 それとも人目のないところでなにかしらやらかすのか。


「ひ、人目のないところだと……?」


 身ぐるみ剥がされて、ぽい。

 この女ならやりかねない。


「なに考えているか知らないけど、心配しなくていいわよ。どこのだれかもわからない変態野郎を仲間に引き入れでもしないと、いまのパーティじゃどうしようもないの。魔法士として弾除けくらいになってくれればそれで十分だわ」


 門をくぐって外へ出る。

 視界には一面に広がる草原。

 見たことのない生き物たちが、うろうろと彷徨っている。


「あれが魔物?」

「このあたりのはそう強くないわ。武器スキルをもっていないあたしでもなんとかなるし」

「そうか……ん? お前武器スキルないの?」

「言ったでしょ。魔法スキルを持っていても、いつまでたっても武器スキルが解放されない魔法士もいるって」


 それがリゼのことだとは教えてもらっていないが。


「あそこにいるラットにするわ」

「戦うのか?」

「なにがあっても、あなたは攻撃しちゃダメよ。万が一のことがあるから」


 リゼはそう言って、先ほど拾った虹色石を握った。


「これ、マナっていうんだけど、この国のお金は魔力の結晶なの。重さがそのまま価値になるわ。基本的には魔物を倒したり、他にも植物を刈り取ったりすると手に入れることができる。もちろん魔力の結晶だから、才能のある魔法士ならいくらでも量産できるけど」

「そうなのか」

「でもあまり効率的ではないのよ。だから大体の魔法士は、こうして――」


 リゼはそう言って、握っていたマナをラットに向けて放り投げた。


「魔物に餌として与える」


 ラットは投げられたマナを咥え、飲み込んだ。

 白色だった体毛に、黒い螺旋模様が走った。


「マナは魔物に与えることで、魔物の魔力を吸い込んで大きくなる。あとは討伐すれば回収できるというわけ。これの繰り返しよ」


 ずいぶん地道な作業だ。


「今日は何回これをするんだ?」

「一回で十分よ」


 ラットは牙をむき出しにして、リゼを威嚇している。

 30センチメートルほどのネズミ――ネズミとは思えない大きさだが。


「さあ、いくわよ」


 リゼはぶつぶつとなにかをつぶやいた。

 俺が一度受けた魔法だろうか。

 少し後ろに下がって、眺めることにした。


「うらぁ!」


 手のひらに集まった水球。

 少女とは思えない声をあげてラットに投げつけた。

 ラットは避けようともせず、正面から水球にぶつかる。


「効いてないぞ」


 ふるふるとラットは頭を振って、なにもなかったようにまた威嚇を始めた。


「……魔法士って魔法があれば魔物と戦えそうって思うじゃない?」

「いや、魔法ってそういうものだって思っていたが」

「武器スキルがあるのはね、魔物は魔法耐性が高すぎて魔法がほとんど効かないからなのよ」

「ということは?」

「逃げるわよ」


 さっと脇を抜けて走っていく。

 気付けばラットの前にいるのは俺だった。


「え?」

「ほら! はやく逃げないと死ぬわよ!」 

「わ、わかった!」 


 一目散に逃げ出す。

 追いかけてはこなかった。

 威嚇をやめて去っていく。

 こうして、また貧乏に逆戻りというわけだ。

 マナの拾いなおしである。


「なんとかなるんじゃなかったのかよ……」

「今日は勝てそうな気分だったの」


 悪びれもせず、やけに偉そうに言う。

 パーティの役立たずとはお前のことなのではないだろうか。

 それとも、こいつ以上のポンコツがいるのか。

 まだ適性以前の段階の俺が言えることではないのだろうが。


「さあ、まずはお金集めよ!」

「この数時間を全部なかったことにしようとするな」


 この先何度も聞きそうなセリフだった。


◇魔法士について 1


ジオン大陸は魔法を使う魔法士というものが存在している。

彼らは他の職業とは違い、魔物と戦うことができる。

魔法士はかつて魔法のみで魔物と戦っていたが、人間の魔力の衰退により、魔物にダメージを与えることができなくなってしまった。

そのため魔法士は武器を持ち、魔法と組み合わせた攻撃をするようになった――と言われているが、実際のところはよくわかっていない。


魔法士の他の職業との一番大きな違いは、魔物との戦闘において死なないということだろう。

ここで補足しておくと、魔法士以外の職業が魔物と戦闘できないということはないと言っておく。魔法士以外が、魔物と戦おうとしないのは、戦闘すれば死んでしまう可能性があるからである。


魔法士が一定以上のダメージを受けた場合、女神の加護に守られ棺桶のようなものに収納される。女神の籠と言われるその棺桶の状態では、意識はあっても自分で動くことはできない。

だれかに引きずってもらい、街の教会まで連れて行ってもらわなければ、籠から外にでることはできないのだが、問題はそれである。

街からどれだけはなれていようとも、街まで引きずっていかなければならない。

例えば、パーティ全員が籠になってしまった場合――残念ながら全滅だとはいっても、街に自動的に飛ばされるなんてことはない。

だれかがたまたま近くを通りかかって、気の優しい人に街まで引きずってもらわなければならないのだ。

魔法士は街に被害を生む魔物の討伐の仕事を主な仕事としているが、実際のところ仕事の大半が、籠になってしまった魔法士の救出である。

なお、籠は魔力によって束縛されている状態だ。

女神の束縛に抵抗できるだけの魔力をもっていれば、教会に行かずとも籠から救出することができるらしい――が、あくまでも噂である。


ボボリア=スピルフィア(056)『大陸記』夏色書店

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