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四つん這いで町の道路を進んでいく二人組。
ずいぶんみっともない姿である。
「あった!」
リゼが石畳の隙間から虹色に光る石を拾い上げた。
小指の爪ほどの大きさもない。
「それで何円?」
「エンってなによ。これで、そうね……ブヒの肉が一口分かしら」
「武器を買うお金もないとは思わなかった」
「買えるわけないじゃない。今集めているのはレンタル代よ」
本当に貧乏らしい。
「その石をあとどのくらい集めればいいんだ?」
「これがあと10でもあれば十分よ。増やせるから」
それは犯罪とかそういうのではないのだろうか。
許されていないことを平気でやりそうな女である。
「ほら、自分の武器代よ。さっさと探しなさい」
「レンタルなんだろうが……」
そして、落ちていた釘を使って石畳の隙間を掘る。
光っているから見つかりやすいということだが。
「魔法士適性ってなんなんだ? いまのうちに教えてくれよ」
「なにー? もっと大きい声で言って」
二人揃ってガリガリしていれば普通の声では届かない。
「あった!」
リゼはまたひとつ掘り当てたようだ。
「適性を教えて欲しいって?」
「ああ、うん。武器スキルとかもよくわからん」
「そうねえ」
すっと、リゼは手を差し出した。なんとなく手を重ねてみる。
「……本当に犬に育てられたの?」
「ちげーよ」
「服をよこしなさいって言っているのよ。お話をタダで聞くつもり? レンタル代にするから」
手を振り払われる。
とはいえ、いま俺が来ているのは無地のTシャツとジャージ、あとはパンツの3枚。
となると渡すものはひとつしかない。
「パンツでいい?」
「バカなの? あなたの使い古しのパンツがいったいどれだけの値段になるのよ」
「上半身裸ってわけにもいかないだろうが」
二人の間を、ムキムキの男が横切る。上に服は着ていない。
「ん」
リゼが早くしろと手を出す。
「くっそ」
「よろしい。じゃあ、話してあげるわ」
そして、四つん這いになる俺の上に座った。
「待て待て俺は椅子じゃないぞ」
「あたしはいま2つ見つけたわ。あなたは0。ご理解いただけるかしら?」
あいかわらずの女だ。
下衆である。
悪女である。
「魔法士適性にはふたつがあるわ。魔法適性と武器適性――」
彼女が言う話を俺なりにまとめてみる。
魔法適性というものが、魔法士適性がある人間にはあるらしい。
魔法には種類があり――
第一魔法火、第二魔法風、第三魔法水、第五魔法光、第六魔法無――
魔法適性とは、どの種類の魔法スキルが使えるかという話だ。
全ての種類の魔法スキルに適性が見つかった魔法士は見つかっておらず、大体の魔法士は2つ適性があるらしい。
魔法適性があるかどうか、調べる方法はいまだにわかっておらず、魔法士を目指すものはまず武器適性を確認する。
リゼがまず武器をというのは、そういうことみたいだ。
武器適性も、実ははっきりとあるかないかを調べる方法はない。
武器で魔物にダメージを与えた時、一定の確率で武器スキルが解放される。
武器がその人間に合っているほどすぐに解放されるらしいが……。
それでも個人差があるようで、魔法スキルが使えるのにいつまでたっても武器スキルが解放されないという魔法士もいるらしい。
魔法スキルは例外を除いて経験を積むことで覚えるものだ。
経験を積むには魔物を倒すしかない。
そのためには、まず武器スキルを習得して魔物を倒せるようにならなければならない。
「わかってもらえたかしら?」
「武器でしか攻撃するなって言ってたのは?」
「魔法士適性の、武器適性に引っかかってしまう可能性があるからよ。一度武器スキルが解放されてしまえば、解放された武器以外での攻撃で、ダメージを与えることができなくなるの」
例えがなければなんともわかりにくい話だが。
「私のパーティにやらかしたバカがいるから、あなたに魔法士適性があれば会うことになるわよ。戦っているところを見れば驚くわよ。笑うしかないもの」
「楽しみにしとく……お?」
きらりと光るものを見つける。
慌ててほりあげると、ずいぶん大きなものだ。
「これなら10個分はあるんじゃないか?」
「十分ね」
棒状の虹色石。
武器をレンタルして、まずは魔法士になることを決めた。
適性がなければどうしようもない話だが。
まずは裸で街に捨てられないように足掻くしかないだろう。
わからないことだらけだけれど、いまはそうするしかなかった。
◇始まりの街 アリアス
人口2,016,593
特産物 ムギ デメブヒ ベリー
大陸にできた一番初めの街――それがアリアスと呼ばれる街である。
アリアスは大陸の西に位置しており、大陸の約半分弱を任されている。
大陸の中では一番の魔法士ギルドを有しており、そこから派遣される魔法士たちにハズレはいないと言われるほどに信頼されている。
特産であるベリーは、大陸内生産量1位。
その割合は九割を超えていると言われている。
蒸したムカと合わせて食べることが多く、ベリーだけを口にすることは少ない。
観光地としても有名で、古くから形を変えず残っている教会や、街の中心を通るメインストリートで毎日開かれているバザーは見応えがあるだろう。
おすすめはベリーを練り込んだパンにブヒの肉を挟んだベリブッヒサンド。
程よい酸味と、脂が控えめなデメブヒのコラボレーション。
ぜひ、体験していただきたい。
ボボリア=スピルフィア(056)『大陸記』夏色書店




