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 目を覚ましてみると、また自分は横たわっていた。

 体を起こして、あたりを見渡してみる。

 木製のものだけで揃えられた一室。

 テレビはないし、時計もない。外を見て、とりあえず夜ではないことを把握した。


「……」


 もうすでに体を起こしているが、ぺたぺたと俺の体を触って何かを調べているリゼという少女。


「あなた本当に魔法士なの? ブックは?」

「……すまん。何のことを言っているのかさっぱりわからない」

「あ、ごめんなさい。人間として大事な何かを奪おうとして気を失わせたわけじゃないのよ。あなたの身は身ぐるみ剥いだあとに教会に届けるわ」


 最低な女である。


「俺がわからないと言っているのは、魔法とか言っているそれだ」

「……どこの犬に育てられたのよ」


 こいつの思考回路がどうなっているのかがすごく気になった。

 先の水を操っていたものも、誰でもできると言っていたし、変わっているのは俺の方なのかもしれない。

 それにしても口が悪い。


「記憶が曖昧なんだ。ただ、俺はこんな世界にはいなかったってことはわかる」

「ん? それってどういうこと? 魔界?」

「いや、少なくともそんな危なっかしそうな場所じゃない」

「んー」


 リゼは腕を組んで考える。


「第一魔法、言ってみて」

「知らん」

「魔物には武器でしか攻撃してはいけない」

「素手で挑むなってことか? というか魔物ってなんだ」

「ふむ」


 そしてリゼはなにかを納得したようで、俺の服に手をかけた。


「待て待て! 身ぐるみ剥ごうとするな! 金はもってないぞ! そうだ、思い出した!」

「なにを?」

「どこからか飛ばされたんだ。それで、先生の場所に送るから、頼りになる人だからって――」

「ああー」


 そしてリゼはまた納得したように手を叩いた。


「ここに少し前までお婆さんが暮らしてたのよ。もう死んだから、安くなってたしあたしが借りてるの」

「……」

「きっと教会にもお婆さんはいるわよ。安心して服を置いていきなさい。もしかしたら本人にも会えるかも」


 なんだそれはどういう意味だ。

 意地でも身ぐるみ剥ごうとするのはどんな精神をしているんだ。

 下衆である。

 悪女である。


「待て待て! とりあえずだ。話し合いをしよう」

「わかったわ。まず上着を寄越しなさい」

「う……」


 しぶしぶ上着を渡した。

 なんだ? 

 話をするたびに服が奪われるのか?


「あたしはいまお金が必要なの。すごくね。困っているわけ」

「だからといって、わからないことだらけの俺から服を奪おうとするなよ! 服がなかったら外を歩けないじゃないか!」

「なに言ってるのよ。わけがわかっている人間からわざわざ物を取る馬鹿なんているわけないじゃない」


 言っていることは正しい。

 ただ、やってほしくはない。


「なんでお金に困っているんだ? 部屋を借りれるくらいにはあるんだろ?」

「……そうね。ヒトシ、だっけ? 自分の体に自信はある?」

「ん? どういう意味だ?」

「魔法士適性の話よ。もし、あなたに適性があるなら、あたしのパーティに入れてあげる。あたしのパーティは役立たずしかいなくてね。転送魔法を使えるような魔法士が、人に託すような人間だもの――きっとあなたは優秀なんだわ」


 リゼはそう言って立ち上がる。


「どうやったらわかるんだ?」

「簡単よ。武器で魔物を殴りなさい。一定確率で武器スキルが解放されるわ。適性があれば、の話だけれどね」

「……もし、その、武器スキルっていうのがでなかったら?」

「安心して。ちょっと寒くなるだけよ」


 にっこりと笑顔で言うが、内容はひどいものである。

 そして、俺はリゼを追いかけて外へ向かう。

 見たことのない世界が広がっているのだろう。


「さあ、まずはお金集めからよ!」


 魔物を殴りに行くのではなかったのだろうか――。


◇ジオン大陸

人口21,618,816人

面積7,692,165㎢

人口密度2.8/㎢


中央に王国があり、大陸を一つの国が治めている。

現状、他の大陸は確認されておらず、海に出て戻って来た人間はいない。

主食はムカと呼ばれる小さなじゃがいものようなもの。

ブヒと呼ばれる家畜を飼育している家がほとんどで、余程貧乏ではない限りどの家庭の食卓にも毎日ブヒの肉が並ぶ。

赤身が多く脂身が少ないのが特徴で、あっさりとしているため女性でも気にせず食べることができる。

近頃はブヒの品種改良が進み、さらにヘルシーになったデメブヒ。脂身が多く男たちに人気となっているブヒブヒ。他にもいくつもの種類が確認されている。


ボボリア=スピルフィア(056)『大陸記』夏色書店

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