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「パット!」


 リゼの声を聞いて、パットは先ほどまでジャコだった棺桶を――軽々と持ち上げた。

 リゼが以前言っていたことを思い出す。

 やらかしたやつがいるって言っていた気がするが――まさか彼女のことだったのか? 

 棺桶をまるで武器のように担ぎ上げる少女、考えなくとも、それが普通ではないことはわかる。


「リゼ、下がって!」


 パットは棺桶を引きずる為の紐のようなものを握って、ラットに向けて振り下ろした。

 あまりにも豪快な一撃に、ラットは一瞬怯んだように見えた。

 体力を示す緑ゲージも、少しは減ったような――いや、減っていないか?


「パットのATKはいま45……ダメージが1だってことは、ラットのDEFは44あるってことね」


 リゼはブックを開いてぼそぼそと呟いた。


「おい、くるぞっ!」


 ラットは勢いをつけてパットに襲い掛かった。

 魔力を纏った攻撃だ。

 守らなければ――俺は駆け出し、ラットの前に立ちふさがった。

 盾を構える。

 おそらく『シールドパリィ』というスキルは、あくまでその準備状態を発動するだけだ。

 パリィがうまくいくかどうかは、俺自身の腕の問題。

 失敗すればダメージを食らうのは考えるまでもない。


「うぐっ」


 盾を避けられて――やはりまだうまくはいかないようだ。

 腹部に強烈な痛みが走る。

 頭にノイズが走り、気づけば草原を転がっていた。

 HPは、と意識する。

 残り14。

 半分以上削られてしまったようだ。


「痛すぎないか、これ……」


 立ち上がろうとして、しかし足は言うことを聞かなかった。

 意思だけはあっても、体がついてこない。


「リゼ! ヒトシくんにスタン入ったみたい!」

「ラットがスタン攻撃なんて聞いたことないわよ……!」


 二人が俺をかばうようにラットとの間に立った。


「ヒトシ、ブックを開ける? 自分のステータスとは別に、あたしたちのステータスも表示されているはずよ」


 足は動かないが、腕は動かせた。

 ポケットからブックを取り出して、確認してみる。


「あたしたちのなかで一番AGIが高いのはパット。次にヒトシ、あたしの順番よ。戦闘はAGIの数値の高さの順で攻撃ができるようになっているわ。あのラットのAGIは29。パットよりは遅いけど、ヒトシより速い。わかるわね?」


 俺のAGIは26。

 たしかに、順番通りだ。


「もし、一定時間行動をしなかったり、あるいは、行動ができなくなった場合、つまりスタン状態ね――その隙を狙って攻撃ができるの。それはあたしたちだけじゃなくて、魔物側にしても同じ。次はヒトシの番。だけどあなたは動けない――パット! くるわよ!」


 ラットは爪を振りかぶった。

 ターゲットは倒れたままの俺だ。


「爪攻撃なら――」


 リゼは浮遊していた水球を投げつけた。

 ラットは水球を爪で切り裂いた。

 抵抗にもなっていない。

 だめだ。

 ブックを見た俺には、全員のステータスがわかっている。

 一番DEFの高い俺が、20もダメージを受けてしまったのだ。

 彼女たちのDEFとHPでは、ラットの攻撃を耐えられない。


「痛いわね、こいつ!」


 リゼは、爪攻撃を腕でガードした。ダメージ14。

 本来なら、彼女が耐えられないはずの攻撃、どうしてそれだけの被害ですんだのか、ラットの爪を見れば明らかだった。

 爪に切り裂かれたはずの半固体水球が張り付いて、直接的な攻撃を避けている。

 服が少し破かれてしまったようだが、彼女は気にも止めないで次へ動き出していた。


「爪攻撃のダメージはかなり減らせたはず。次はあたしたちの番よ! さあ、ヒトシ、ヒールよ」


 HPが最大まで回復した。

 痛みは無くなったが、まだ立ち上がることで精一杯である。


「ヒトシくん。このまま戦っても勝てない。分かる?」


 パットは棺桶を構えたまま、俺に言った。


「スタンをとって一方的に攻撃する――そのくらいはしないと、あのラットは倒せない」


 ブックに目を通した俺には、三人のスキルがはっきりとわかっている。

 スタン状態を与えられるスキルは、誰一人持っていない。


「もっと簡単に倒せる方法があるぜ」

「言ったわよね、ヒトシ。あれは、嘘だなんて言わないでしょ」


 リゼは鼻で笑って、ラットと対峙する。


「パット、頼むわ」

「うん! 追い風!」


 全員のステータスが書き換えられる。

 パットの魔法《追い風》は、味方全員のAGIを一時的に上昇させる効果がある。

 俺のAGIは31まで上昇した。

 つまり、次のターンは俺だ。


「シールドパリィ!」


 盾に魔力がこもる。

 俺がやらなくてはいけないことは一つ。

 ラットの攻撃を全て弾く。

 それだけだ。

 ラットは爪ではなく、先ほどのように体当たりをしかけてきた。

 軌道は同じ――しっかりと見ろ。

 目を離すな。


「!」


 盾から体に伝わる衝撃。

 受け止めた――その一瞬、俺はラットの体当たりの勢いを殺さず――地面に叩きつけていた。

 わずかだがダメージが入ったのが分かった。

 11ダメージ。

 だが、それだけじゃない。

 ラットの様子がおかしい。すぐに起き上がって良さそうだが。


「パット! 続いて!」


 リゼは拳を固く握って、転がったままのラットに殴りかかる。

 俺が弾き返したのは、先ほどの、スタン攻撃だ。

 それを返したとなれば、ラットもスタン状態になったと考えていいだろう。

 無理だと思っていた状態が、奇跡的に再現できたのだ。

 リゼの放つ《無慈悲の鉄拳》は、ラットの頭部を抉るように打ち抜いた。

 当たりどころが良かったのか、かなりのダメージが入る。

 クリティカル16ダメージ。


「火葬」


 パットは手のひらから炎を出したと思うと、棺桶に纏った。

 リゼの武器スキルとは違う。

 魔法と武器の力を合わせた一撃。

 魔法力を纏っただけのものとは違う。

 パットは燃え上がる棺桶を、ラットにむけて振り下ろした。


「ギ――」


 なにかが砕ける音がした。

 クリティカル39ダメージ。

 ここで止めてはだめだ。


「うぁああああああああ!」


 魔力が籠もったままの盾を振り下ろす。

 乱暴に振るっただけだ。技にもなっていない。

 しかし、その渾身の一撃には、十分な火力があった。

 11ダメージ。

 ここまでで78ダメージだ。

 あと残りが72。

 あと一撃ずつ、同じ技を重ねればいい。


「リゼ!」


 しかし、俺たちにはもう、足りなかった。

 同じ技を重ねることができるほどのMPが、残されていない――。

 通常攻撃だけでは倒せない。

 もう、《シールドパリィ》ができるほどのMPもなければ、同じ状況をもう一度再現することはできない。


 そのことに真っ先に気づいていたのはリゼだろう。

 この状態ならば、クリティカルヒットでダメージが増え、もしかすれば削り切れるかもしれないと、そう判断したのは彼女だった。

 しかし、今になって、それは無謀だったことに気がつく。

 相手のレベルが高すぎた。

 気楽に挑めるものではなかったのだ。


「リゼ、出直そう! また来ればいい!」


 俺はそう言うしかなかった。

 まだラットはスタン状態にある。

 もう一度急襲をかけられる余裕があるということは、逃げることもできるはずである。


「おかしい――」


 リゼはぼそりと呟いて、力なく倒れこむ。

 服が破れて晒された腕が紫色に染まり、気づけば彼女の顔色は青白くなっていた。


「リゼ!」


 抱き上げると、その体にはもう力が入っていないようだった。

 浮かび上がっていた水球はぽたぽたと地に落ちて、土に吸収されていく。

 なにがあったのか、ブックを開いて確認してみる。

 彼女のHPが著しく減少していた。毒状態――。


「パット! 毒だ! なにか回復する方法はないのか!」

「教会じゃないと治せないよ!」

「逃げるんだ! このままじゃ全滅する!」


 俺はリゼを背負いあげ、そのまま逃げ出そうと――


「ぐっ」


 リゼの体が急に重くなり、立ち上がれなくなる。


「お前、重すぎるだろ……!」

「違うよ、ヒトシくん。次の番はリゼなんだよ。リゼが自分で逃げられないなら、それは、行動できないのと同じなの」


 パットはやけに落ち着いた様子で、その状況を見ていた。

 起き上がったラット――スタン状態が解けたのだ。

 そして、いま、リゼは動けない。


「パット! 下がれ! 来るぞ!」


 盾を構えて攻撃を待つ。

 体当たりだ。もう3度目だ。

 軌道もはっきりとわかる。

 いまなら避けられる。そんな確信が俺にはあった。

 ただ、俺の後ろには彼女がいた。

 ここで避けてしまっては、彼女に当たりかねない。受け止めなくては。


「ぐっ」


 盾を伝って衝撃が体を貫いた。

 19ダメージ。

 もう次は耐えられない。


「パット!」


 パットに声をかけ、彼女が走り出したのを見て、リゼを抱え上げた。

 彼女が逃走に成功すれば、順番的に次は俺だ。

 問題なく逃げられる。


「ギ」


 と、前を走っているパットの背後に、ラットがいた。

 そんなはずがない。

 もうすでに、こいつの攻撃は終わっていたはずだ。

 パットの次は俺だ。

 その次にもう一度ラットの番がくるはずだ。

 AGIの順番ならば、そうなるはず――


「まさか」


 パットの《追い風》は、既に効果が終わってしまったのだ。

 なんとかしなければ――。

 彼女はいま無防備だ。

 ラットの攻撃に耐えられない。

 俺がなんとかしなければ。

 俺が、なんとかするんだ。



 《アベレンジ》



 何かができると、知っていたわけではない。


「きゃっ」


 つまずいて転んだパットは、棺桶と一緒に抱えていたジャコの両手剣を転がす。

 俺は走っていた。

 両手剣を拾い上げる。

 ラットにAGIで勝っていない。

 だから、先行して攻撃することは不可能だ。

 しかし、いま俺の敵はラット。

 こいつを倒すだけの力が、いまの俺には必要だ。


「うぉあああああああ!」


 敵はこいつだ。

 こいつを倒さなくては――。

 魔力もなにも纏っていない大剣の一撃。

 ラットの攻撃と同時に放たれた渾身の一撃。


「――」


 79ダメージ。

 はじき返されたラットは、地面を転がり、ぴたりと動きを止めた。


「は、ははは」

「や、やったの……?」


 パットが恐る恐る立ち上がる。


「やったぜ、パット。俺たち勝ったんだ」


 パットは喜びの声をあげて抱きついてくる。

 こうして俺たちは一人死亡、一人瀕死というパーティ半壊状態で、初めての勝利を手にいれた。


◇パット

レベル4

クラスナイトエンチャンター

武器棺桶

装備E

ジャコの棺桶(ATK+15 AGI−5)

不思議なイヤリング(INT+2)

魔法士の服♀(DEF+7 INT+3 MND+10)

皮靴(DEF+2 AGI+3)

HP30 MP33

ATK45(BS+12)(E+15)

DEF20(E+9)

INT25(E+5)

MND12(BS−10)(E+10)

AGI30(E−2)


☆武器スキルBS

A死者への冒瀆レベル3

 棺桶の扱いが上手くなる。

 レベルによってATKが上昇し、MNDが大幅に減少する。

A一夜限りの別れレベル2

 装備した棺桶の中にいる人間との別れが感動的であればあるほどATKが上昇する。

シェイクレベル4 消費MP10

 棺桶を振り回して攻撃する。ATK1.4倍ダメージ。

敵討ちレベル3 消費MP?

 装備した棺桶の中にいる人間のスキルを借りて使用できる。

 しかし完全に再現することはできない。

火葬レベル1 魔法種火 消費MP15

 棺桶に火を纏い攻撃する。

 ATK1.3倍+INT0.5倍ダメージ。


☆魔法スキルMS

サーチレベル4 対象1 魔法種風 消費MP5

 精霊に語りかけ、敵情報を手に入れることができる。

追い風レベル2 対象味方全体 魔法種風 消費MP10

 味方のAGIを上昇させる。レベルによって効果が上昇する。

ファイアアローレベル1 対象1 魔法種火風 消費MP10

 火を矢のように放つ。




※5月7日11時分です

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