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プロローグ 英雄を待つ少女

『英雄を待っているの』


 遠くで声が聞こえた。

 いまの自分には、すがるものがなかった。

 どちらが上なのか下なのかもわからない妙な空間で手を伸ばす。


『俺を連れて行け!』


 自分の声がどこか遠くで聞こえた。

 どこかで叫んだ記憶がある。

 自分にあるはずの記憶がひどく曖昧だった。


「成功した……」


 気づけば自分の体は横たわっていた。

 うっすらと開いた視界の先に少女の姿を捉える。

 純白のドレス――足元は泥かなにかで汚れてしまっていて、ドレスも所々が破れてしまっている。


「先生の家に転送します。ごめんなさい。勝手なことをして」


 体は言うことを聞かず、声もでない。


「私を助けに来て。これから送る場所には頼りになる人がいます。待っているから――」


 体を浮遊感が襲う。

 彼女は手を伸ばして浮かび上がる俺の頬を撫でた。


「待っているから――」


 涙を流してもう一度、彼女はそう言った。

 自分には何が起きているのかわからない。


「姫! はやく!」


 遠くから聞こえる怒声。

 鎧に身を包んだ男が、少女を連れて外へ駆けていく。

 薄れていく意識。

 名残惜しそうに振り返る少女。

 その姿だけが目に焼き付いていた。


「……」


 そして、俺はまた違う少女に出会う。


「……やあ」


 意識ははっきりとしていた。

 浮遊感はもうなく、すんなりと立ち上がることもできた。


「やってくれるわねえ。人がのんびり入浴しているところに飛んでくるなんて。珍しい魔法なんだからもっといいことに使いなさいよ」


 わなわなと震える半裸の少女を前に、咳払いして自己紹介をする。


「俺はヒトシ」

「ああ、そう。ええ、覚えたわ」


 ぶつぶつと何かをつぶやくと、彼女の掌の上に湯船に溜まっていた水が集まっていく。

 それはみたことのない光景だった。


「ま、待ってくれ。出て行くからそういうのは俺のいないところで――そうだな、誰かに披露でもしたらお金取れるんじゃないか? いい話だろう」 

「こんなのだれだってできるわよっ!」 


 顔にぶつかった水球は、妙な粘着力で顔に張り付き、呼吸方法を奪った。

 視界も水のせいではっきりしない。


「んんんんんん」

「大丈夫、意識を奪うだけよ。あとで起こしてあげる。気が向いたらね」


 そして体から力が抜けていく。

 あとは起こしてもらえることを祈るばかりである。


「言ってなかったわね。あたしはリゼ。冥土の土産にもっていきなさい」


 起こすつもりなど全くないらしい。

 そして、俺はいままでとは違う世界だということを認識した。

 こうまでされてやっとというのもなかなかに妙な話だが、現実だという実感もなかったのだ。


 俺は篝ヒトシ。


 この世界には、魔法が溢れている――。


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