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第52話 皇都炎上

 時間は少し巻き戻る。

 賢悟たちは十二神将が一人であるモヒカン――もとい、清水清彦と合流し、皇都の目前まで進んでいた頃だ。


「ひゃっはぁ! あのクソ神にファックした『魔拳』の末裔だって!? そいつぁ、ロックだ! いいぜ、仲良くしようじゃねーか、賢悟!」

「お、おう……よろしく?」


 清彦は、外見や口調に反して社交的であり、進んで賢悟たちと交流している。


「十蔵っちも久しぶりぃ! 相変わらず、テンション低いなぁ、おい! 便秘か!?」

「生憎、今日も朝から絶好調だ」

「そうかそうか、快便か! それは素敵だ!」


 清彦は元々十蔵と知り合いだったらしく、戦闘後、嬉しそうに十蔵へ声をかけていた。もっとも、十蔵の態度は普段と変わらず、憮然としたものだったが。


「お前は、女性が居ることも考慮しろ」

「おおっと、こいつはわりぃ! すまんな、賢悟にメイドちゃん!」

「俺には謝んなくてもいいんだよ、モヒカン野郎」

「ひゃっはー!」

「ひゃっはー、じゃねーよ」


 清水清彦は十二神将であるにも関わらず、陽気で明るく、社交的な人物だった。

 憮然とした態度の十蔵とも笑顔で会話を交わし、賢悟意外にセメントなリリーに対してもめげずに話題を振るなど、ムードメーカーとしての気質を持っている。

 あまりの気安さに、賢悟が本当に英雄なのかと疑うほどだ。

 ともあれ、共闘して実力は確かだということは分かったので、あまり戦力的な心配をする者は居ない。


「そういえば、モヒ……清水さん」

「清彦でいいぜ、賢悟ちゃん!」

「あのミニスカサンタは一体、何だったんだよ、モヒカン」

「おおっと、こいつは手厳しい!」


 額をぺちりと叩いて、舌をちょろりと出して見せる清彦。

 モヒカン頭の男がやると殺意を覚えるほどにむかつく仕草だが、賢悟は苛立ちを抑えて、清彦の言葉を待つ。


「ぶっちゃけ分からんね! 皇国内で十二神将や実力者が倒される事件が続いているのは知ってたがよ、あんな規格外に心当たりは――――一つぐらいしかないな!」

「あるのかよ」

「ただの勘だけどな! そっちのむっつりスケベも見当が付いているはずだぜ?」

「むっつりスケベでは無い。オープンスケベだ」


 口をへの字に結び、どこか不機嫌そうに十蔵は応えた。


「見当は、一応ある。だが、それは荒唐無稽な妄想のような物だ。何かの特殊能力によって生成された魔法生物であったり、魔王であったりした方が、まだ納得できる」


 だが、と言葉を区切って、十蔵は苦々しく表情を歪める。


「あれに似た気配を一度体感したことがある――――神世の住人が、召喚された時だ」


 神世の住人。

 須らく神格を持ち、一体だけでも国を焼くほどの力を持つ規格外。

 十蔵は、あのミニスカサンタがそうだと言っているのだ。


「マジか? 確かに強かったが…………そこまで、規格外だとは思わんかったぞ?」

「何かしらの制限が掛かった上、あれは本気では無かった」

「ぶっちゃけ、『遊ぼうよ!』から始まった追いかけっこだったからなぁ! ったく、パンチラ堪能した対価にゃ、過ぎた火遊びだったぜ! ちなみに黒だった!」


 ふざけた物言いの清彦であるが、真面目に神世の住人であることは肯定している。なぜならば、たった一人でミニスカサンタと相対している時に自覚していたからだ。もしも、少しでもこの相手が本気を出せば、己は死ぬと。


「恐らく、マクガフィンの策の一部だ。警戒しろ」

「警戒しても、死ぬ時は死ぬけどなぁ! ひゃっはぁ!」


 清彦の割り切った物言いに苦笑しつつも、賢悟もそれに乗っかる。


「まぁ、俺はどんな敵が来ようとも、殴り倒して余裕で生還なわけだが」

「おおおっ? 言うねぇ、賢悟!」


 新たに加わった十二神将とも交流を深め、賢悟たちはいよいよ皇都に入る。

 皇都は東西南北と、四つに巨大な門を置き、そこ以外の交通を結界によって禁じていた。故に、賢悟たちは当然の如く門の一つ、南門から皇都へ入ろうとしたのだが、


「…………あれ? 何か、おかしくねぇか?」


 どうにも様子がおかしい。

 賢悟が異変に気付き、眉を顰めた。

 本来、四つの門にはそれぞれ門番として、相応の実力を持った軍人が配置される。賢悟が門から出る時も、やけに強面だけれど愛想の良い中年の軍人が見送ってくれた。そして、賢悟たちの目の前には、見送ってくれた時と同じ軍人が門の前に立っている。

 けれど、おかしいのだ。

 その軍人が直立不動で無言なのはともかく――――数十秒の間、瞬き一つしないのは人間として異常である。


「下がれ、賢悟。それは幻だ」


 その異常を、看破の権能を持つ十蔵が見破った。

 赤く光る十蔵の右目は、【幻境看破の鬼眼】という名の神器だ。

 あらゆる幻想、偽りを看破し、真実を捉える神の鬼眼。

 その権能の元、十蔵は幻術を行使する発信源――小さな投影機のような魔導具を指弾によって破壊する。


「…………おい、最悪じゃねーか」


 賢悟が己の怒りを押し殺して、呟く。

 幻術が解除され、正常な視界を取り戻した先に在ったのは、軍人の死体であった。四つの門の一つを守りうる実力を持つ者が、無残に殺されていたのである。

 門に張り付けるように、無数の剣が突き立てられて。


「各員、気を付けろ。権能を持つ俺が、この距離まで近づいて目を凝らさなければ気づかなかった…………皇都の外から見えた光景は全て過去の映像だ。何者かが、結界を利用して過去の映像を投射している」


 剣呑な十蔵の声に、この場に居る全ての者が警戒レベルを引き上げた。

 奇襲を受けたとしてもすぐに対応可能な心理状態を作り、戦闘態勢を維持する。


「――入るぞ」


 警戒を保ったまま、賢悟は門を蹴破って皇都の中へ。

 それに続き、仲間たちも次々と迅速な動きで門を潜る。

 そして――――賢悟たちは地獄を見た。

 赤くうねる業火の波が、前髪を炙るほどに熱い。

 どれだけ見渡しても、美しい皇都の建物は存在せず、瓦礫と炭化した物体の山があるだけ。

 当然、空気も最悪だ。酸素は常に劫火へくべられ、二酸化炭素と有毒なガスが黒煙に乗ってばら撒かれている。

 臓物がばら撒かれたような悪臭は、人の死体から発せられた物だろう。

 目を凝らせば千切れた人体の一部が。

 耳を澄ませば、悲鳴と怨嗟の唸り声が。


「なん……だよ、こりゃ?」


 地獄と比喩するに相応しい光景に、思わず賢悟は呆然と立ち尽くす。

 この時、生まれた隙を誰も責めることは出来ないだろう。何故なら、どれだけ戦い慣れ、精神がタフな賢悟と言えど、元は『サイエンス』の一般学生。戦争を、虐殺を、殲滅を体験したことが無い少年であったのだ。動揺してしまうのは自然な事である。

 あるいは、皇都に居る全ての者が無関係であれば、まだ辛うじて警戒態勢は保っていられたかもしれない。しかし、皇都にはギィーナとヘレンの二人が、大切な友達が居るのだ。平然としていられるわけが無い。


「亡霊剣軍――――短剣・白虎」


 ただし、戦場で自ら隙を生んでしまった対価は、多くは血によって払われるものだ。

 賢悟は今から、それを知ることになるだろう。



●●●



 放たれた白刃は音速を超え、なおかつ的確に賢悟を狙い撃つ。

 普段の賢悟ならばともかく、今の状態で逃れる術は無い。

 賢悟の従者であるリリーは音速に反応できず、反応できたとしても、リリーの身体能力では何も出来ない。

 故に、これは必然である。


「…………あ?」


 呆けたように口を開ける賢悟。

 その視線の先には、必死の形相で賢悟を突き飛ばした十蔵の姿が。

 放たれた白刃によって切断され、宙に舞う十蔵の右腕が。


「十蔵、お前――――」

「呆けるなぁ! 次が来るぞ!!」


 切断された右腕から血が噴き出すのにも構わず、十蔵は吠えた。

 その喝により、ようやく賢悟が虚脱状態から回復。精神状態は最悪であれど、襲撃者に対して迎撃の態勢を取った。

 結果として、それは賢悟たちの最悪を避けることになる。


「亡霊剣軍――――短剣・飛魚」


 上空より飛来したのは、無数の短剣。

 赤く光る炎の光を弾いて、百を超える数の短剣が賢悟たちへと降り注ぐ。それは、音速に達していないが、それでも高速。人の反射神経の限界を超える速度だ。


「ひゃっはぁ!!」


 無数に降り注ぐ短剣を、清彦は神器の鎖を操って防ぐ。鎖のうねるような軌道は、多くの短剣を絡めとり、防ぐのだが……それでも、まだ手数が足りない。


「しぃっ!!」


 手数の足りなさを補ったのは十蔵だ。

 片腕を失い、致命的な体幹のズレが生まれているというのに、変わらずその手から放たれる指弾は正確無比。残りの短剣を全て打ち落とす。


「リリー! 十蔵の腕を繋げ! 俺は襲撃者本体を狙う!」


 その間に、賢悟は回復魔術の心得があるリリーへ命令。回復の間、襲撃者を食い止めようと、己の勘を持って最大索敵――そして、見つけ出した。


「そこだぁああああっ!!」


 吠え猛り、無数の打撃を殴り飛ばす賢悟。

 襲撃者が隠れていたのは、瓦礫の影。さらに、襲撃者は透明化か、隠密の魔術を使っているのか、気配が非常に薄い。見つけ出せたのは、偏に賢悟の勘の鋭さ故だろう。

 条理を無視して放たれる無数の拳。

 それらの打撃は、瓦礫を弾き飛ばし、その影に居る襲撃者まで確かに届いた。


「――がぁ!?」


 届いたが、弾かれた……否、打撃は切り捨てられた。

 見えぬ打撃を切り裂いた一閃は、あまりの鋭さに、打撃を放った賢悟の拳が幻痛を覚えるほどである。

 だが、賢悟の攻撃によって襲撃者の居場所は知れた。

 ならばと、十蔵は負傷にも構わず、己の権能を以てして襲撃者の正体を見抜こうとする。どれだけ巧妙な隠密だろうとも、十蔵の右目からは隠れられない。


「なっ!?」


 しかし、見えない。

 十蔵の右目に、襲撃者の姿は映らなかった。

 一瞬、己の権能を疑った十蔵だが、直ぐに正しい判断力を取り戻す。見えないのであれば、襲撃者はそこには居ないのだ。


「いや、これは……くそ、ぬかった!」


 襲撃者は移動している。それも、賢悟の襲撃から十蔵が視線を向けるまでの数瞬の間に。


「警戒しろ、来るぞ!」


 十蔵は大声で警戒を促す。

 相手に筒抜けではあるが、そんなことを気にしている余裕は与えられていない。一刻も早く、無駄だとしても警告を叫ばなければならないのだ。例え、己を治療しようとするリリーを押しとどめても。


「亡霊剣軍――――短刀・影踏み」


 警戒の中、どすりと肉を刃が貫く音が。


「……あ?」


 貫かれたのは、清彦。

 己の足元の影。そこから延びる白い手に握られた短刀。それによって清彦は胸を、心臓を、急所を貫かれてしまったのだ。

 心臓を貫かれた清彦は目を見開き、何かを言おうと口をぱくぱくと動かして――――そのまま、ずるりと地面に崩れ落ちる。


「うふふ、まず一人」


 ずるりと清彦の胸から短刀を引き抜き、笑う襲撃者。

 けれど、襲撃者の姿はほとんど影が邪魔をして見えない。襲撃者の足元から、影がローブのように襲撃者の身を包み、姿を隠しているのだ。


「てめぇええええっ!?」


 だが、姿が見えていようが隠れていようが、賢悟には関係ない。

 仲間をやられた嚇怒を抱いたまま、冷静に戦況を読めるほど賢悟は冷酷でも、賢くもなかった。地面を蹴り飛ばし、拳を固く握りしめて襲撃者へ向かう。


「賢悟様!」


 単身で敵に向かおうとする賢悟を見て、リリーが大人しく命令に従っていられるわけが無い。十蔵の腕を繋ぐ準備は停止。太もものホルスターから抜いた魔導銃器で賢悟を援護する。


「――あは」


 リリーによって放たれた無数の魔弾は、全て一瞥もされずに影の衣によって防がれた。どうやら銃弾による衝撃も全て受け切るようで、襲撃者は身じろぎ一つしない。


「うらぁ!」


 それでも構わず、賢悟は拳を振るう。

 だが、怒りにためか、その軌道は単純で直線的だ。


「うふふ」


 賢悟の未熟を笑い、襲撃者は短刀を迸らせる。影の如く黒く塗られた刀身は、そのまま賢悟の右腕を容赦なく斬り飛ばそうと迫り――――


「流石の俺も、二度目は学習する」


 拳の軌道が急速に変化。結果、短刀の一閃は空を裂くのみ。

 最初から全力で振りぬいたのならば、無理な芸当ではあるが、賢悟にとって右の拳は最初からフェイク。怒りのまま直進する馬鹿だと思わせ――半分本気であったが――本命の左で、敵を殴り飛ばす。


「吹き飛びやがれ」


 渾身の一撃だった。

 今までの軽い拳では無く、賢悟の想いを、怒りを乗せた左の拳。それはどんなに強固な盾すら貫き、相手を殴り飛ばす一撃。


「亡霊剣軍――――護身剣・白雪」


 そのはずだった。


「て、めぇ……っ!」


 襲撃者を殴り飛ばすはずだった賢悟の拳は、白く輝く雪の如き粒子によって防がれた。勢いを殺され、まるで凍結させられたかのように、ぴたりと停止させられたのである。

 強力な斥力によって、拳を防がれた違和感。

 そして、宣言と共に放たれた数々の刀剣……それに伴う特殊能力。

 多様過ぎる特殊能力に、賢悟は王国に住まう一人の姫を思い出す。


「一人で複数の固有魔術を持ってんのか!?」

「うふふ、当たらずとも遠からずね」


 笑みと共に襲撃者は、再度、黒塗りの短刀を振るう。

 今度はもっと鋭く、そしてもっと速く。避ける暇など与えぬように。


「十分だ、賢悟! そこから離れろ!」


 振りぬかれた短剣を弾いたのは、十蔵から放たれた指弾だった。大量の出血により、顔が青白くなっているが、指弾の勢いと的確さに衰えは無い。

 このまま接近戦を挑んでも不利と悟った賢悟は、躊躇わず、バックステップでその場から離れる。

 当然、襲撃者は逃すものかと賢悟を追うように足を踏み出すのだが、


「ひゃっはぁ! 捕縛しろぉ!!」


 その瞬間を虎視眈々と狙っていた者たちが居た。

 襲撃者が踏み出した足に絡みつくのは、臙脂色の鎖。捕縛と吸収に特化した神器である。


「む?」


 殺したはずの者による攻撃。

 それを不可解と思いながらも、短刀で払おうとするが……動きが鈍い。見ると、周囲にはいつの間にか苦無と共に地面へ張りつけられた呪符が。

 呪符による束縛術式、それによる硬直時間は、襲撃者にとって一秒にも満たない。だが、それだけあれば神器の鎖が襲撃者の全身を縛るのには充分。


「ひゃっはぁ!! 完全捕捕縛完了ぅ!」


 見ると、襲撃者が殺したはずの清彦が、万全の状態で神器を操っている。短刀で貫かれたはずの胸には、傷一つない。

 その代わり、彼の足元には、胸の部分が切り裂かれた白い人型の神が。


『忍法――変わらせ身の術』


 どうやら、今まで隠密を保っていた十二神将の忍者が、仕掛けたトラップだったようだ。

 今まで十蔵が大声で警告を叫んでいたのも、全て、忍者が動くのに支障が無いようにである。


「……んだよ、生きてんじゃんか」


 すっかり忍者の仕掛けに騙されていた賢悟は、ほっと胸を撫で下ろす。

 十蔵も、襲撃者が完全に拘束された今、ようやくリリーによる治療を受けていた。


「あらあら、捕まっちゃったわ」


 未だ影のシルエットに隠された襲撃者ではあるが、身動きは取れていない。 

 神器による拘束である、解ける方がおかしいのだ。


「はっはー! そして、容赦なくブッコロ! テメェみたいなのは、余計な真似をする前に殺した方が良いって、ママが言ってたぜ!」

「うふふ、それはとてもいいことを言いなさるママさんですね」


 絶体絶命であるはずなのに、あまりにも呑気な口調の襲撃者。

 そんな襲撃者の異様さに、この場に居る誰もが不気味な不快感を覚えてしまう。もっとも、清彦は不快だろうが、なんだろうが、容赦なく神器を発動させたが。


「喰らえよ、【鎖錠吸収の腸猟】」


 神器による吸収の権能を発動。

 この権能により、いかなる能力を襲撃者が持っていようとも、それを神器が消化、吸収して無力化する。

 かつての原初神が所有していた神の特権――故に、権能。

 一度発動してしまえば、逃れられる術は無い。

 まさに一撃必殺。

 どれだけの力を持とうが、神器の持つ権能には逆らえない。


「亡霊剣軍――――秘剣・散華血刀」


 その大前提ごと、赤い刃が神器を切り裂いた。


「――は?」


 神器の所有者である清彦は、あまりにも唐突で荒唐無稽な出来事に、ただ茫然とする。そうすることでしか、己の常識を保てなかったのだ。

 清彦の周りも同じである。

 この場に居る者は、当人を除いて、全てがその光景に意識を奪われていた。


「かつて神を殺した七人の英雄が居ました」


 じゃらじゃらと、無残に細切れにされた臙脂色の鎖が、地面へ落ちる。

 切り裂いたのは、赤い刃。

 影の衣を破って、襲撃者の体から生えた無数の刃である。


「七人の英雄は、絶大なる権能を持つ神に抗い……そして殺したわ」


 赤き刃によってシルエットは破かれ、襲撃者の姿が明かされた。

 漆黒の長髪に、赤い瞳。妖しく三日月に歪められた朱色の唇。肉体はモデルのように、すらりと長身で、勝つ肉感的だ。ただ、そんな妖しく美しい少女の身を包むのは、シスター服。清楚であるはずのそれは、その少女が着ることによって淫靡に貶められていた。


「ならば、神すら凌駕する力さえあれば、権能は打ち破れるという証明にならないかしら?」


 くすくすと、少女は微笑を浮かべる。

 シスター服の下から、赤い刃を生やした少女。

 けれど、その異様さは同時に、一輪の花の如き美しさを伴っていた。


「改めて、初めまして、英雄の皆さん。私はマクガフィンが擁するジョン・ドゥが一人。そうですね、『僧侶』とでも呼んでください」


 賢悟はまだ、知らなかった。

 異影牙に言われていたはずなのに、気付けなかった。

 この世界には、どうしようもない理不尽が――――反則存在チートが存在することに。


「ですが、そうですね…………ここで会えたのも何かの縁でしょうし」


 『僧侶』が微笑んで、絶望の開始を告げる。


「最後まで生き残っていた人に、冥土の土産として私の名前を教えてあげましょうか」


 ――――――蹂躙が始まった。


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