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第18話 パーティ集め


『東の魔女は皇国の首都に居マス。マァ、今はデスガ』


 ハルヨからの情報により、賢悟は『東の魔女』の居場所を手に入れることが出来た。ただし、もたらされた情報によって、必ずしも状況が好転するわけでは無い。


「…………よりにもよって皇国かよ」


 賢悟は一人、教室の机に突っ伏して脱力している。

 周囲のクラスメイトはもうとっくに下校しているが、賢悟だけはどうにも、己の悩みが解決しきれず、グダグダと居残っているのだ。


「強制的に戦争制限されてなかったら、王国と全面戦争起こしてもおかしくない場所じゃん」


 王国と皇国は仲が悪い。

 犬猿の仲というより、親の仇同士みたいなものだ。互いの有史以来から、屍山血河を築いてきたのだ、簡単に関係を回復させることはできない。それでも、最近は互いに留学生を送ったり、限定区域内の観光程度なら許可されていたりと、少しずつマシな関係になっているのだが。


「どうしたの? 賢悟君、そんなに悩んで」

「おう、太郎か」


 いつまでも教室で唸ったりしているので、気になった太郎が声を掛ける。


「メイド業務は昨日で終わったんでしょ? 何をそんなに悩んでいるのさ? また、フィールドワークの件?」

「んん……まぁ、そんなところだな。訳あって、お前の母国に行かなきゃならなくなった。しかも、出来る限り早く」

「つい最近、上級魔物と殺し合った後にそれ? 賢悟君、生き急ぎ過ぎじゃない?」

「いや、こうでもしないと色々と問題がな……」


 もうすでに、賢悟の残りの寿命は八か月を切っている。

 むしろ、今、生き急がなければ、いつ急ぐのか? という状況だ。ただ、その事情を伝えられていない太郎からすれば、進んで修羅道に入りたがる変態である。


「だからってうちはやばいよ。こっちから王国に行くのは良いけど、他のところがこっちに来るとこう、割と差別的なあれがあるし。昔、鎖国していた時の名残りで」

「知ってる。しかも、場所によると住民が竹槍もって殺しに来るだろ?」

「なにせ、神殺しの民だからねぇ」


 王国の英雄が、皇国の信じる神を解体したという史実があるため、お互いの仲は最悪だ。太郎のような、柔軟な思考を持った留学生ぐらいしか、王国民に対して好意的ではないだろう。


「故郷探しだったら、もっと安全な場所からでいいんじゃない?」

「…………お前が心配するからと思って隠していたが、俺、後寿命が八か月ぐらいなんだ」

「いきなりヘヴィなカミングアウト!?」


 そして、そろそろ嘘の整合性が取れなくなってきたので、あっさりとカミングアウトする賢悟である。もちろん、異世界人という所は隠しておくけれど。


「記憶喪失も嘘で、いろいろあって『東の魔女』の呪いを巻き添えて受けてな。本人を見つけ出して、解呪してもらわんと死ぬんだよ、俺」

「そんな世間話の延長みたいな口調で!」

「しかも今、『東の魔女』は皇国の首都に居るらしくてな」

「首都・九頭竜に!? なにその、厄ネタ! 世界管理者がうちの首都に居るとか……え? 世界戦争の前触れ!?」

「なんとかそこに行きたいから、手伝ってくれ、太郎」

「ごめん! ちょっと待って! 僕、色々とキャパが限界だからぁ!」


 怒涛のカミングアウトの連続で、今、太郎の頭は幻痛に襲われていた。

 友人の危機に、故郷の厄ネタ。一つだけでも三日は不安に悩まされる物だというのに、それが立て続けに来れば、頭も痛むはずだ。


「……おっけぇ、わかった。何もわかっていないけど、とりあえず、賢悟君。僕は君の友達だ」

「おう」

「だから、よくわかんないけど、君を助ける。これだけは、確かだ」


 真っすぐと澄んだ、黒曜石の如き瞳に見つめられ、賢悟は思わず息を飲む。正直、見捨てられても仕方ないと思っていただけに、賢悟の驚きは少なくなかった。


「その、ありがとうな、太郎」

「いいって、そんなの。友達だったら、当たり前だ」

「後で胸を揉ませてやるから」

「いいって! それはぁ! 僕の理性を試すのをやめろぉ! 友達だろうがぁ!」


 喜色満面で、太郎に肩を組む賢悟。

 当然、その成長途中ながらも中々豊満な胸が、太郎の方や背中に押し付けられるのだが、賢悟はさっぱり気づいていない。中身が男なので、普通にスキンシップのつもりなのだ。なお、『サイエンス』ではぼっちだったので、友達とのスキンシップに憧れている賢悟は、割とすぐに肩を組もうとするのである。太郎からすれば赤面物に困った出来事だ。


「そ、それより! 皇国の首都に行くことは、僕の方から何とかするから、君はその準備をしておいてよ!」

「おお、助かる……だが、準備って何するんだ?」

「決まっているよ」


 太郎は賢悟を振りほどいてから、声を落ち着かせて言う。


「パーティを組むんだ。国外研修の許可を出してもらうために」



●●●



 エルメキドン学園では、フィールドワークの許可と同様に、学生が国外に出るためには、厳しい審査が必要である。最低限、国外で孤立した時、自己防衛できる程度に加えて、テロリストと思われない程度の戦力という条件を満たしていなければならない。つまり、弱すぎても強すぎてもダメなのだ。そのため、国外研修の許可を求める場合、学生たちは自分たちでちょうどいいメンバーをパーティとして集め、審査を行い、許可を求めるのである。


 特に、今回の場合、賢悟が行くのは皇国の首都・九頭竜だ。

 噂によれば、受肉した神世の化物たちが影で闊歩していたり、神を崇拝する狂信者たちが、謎の大魔術の儀式を行っているという、人外魔境である。弱すぎればゴミクズのように殺され、強すぎれば、下手に刺激をして大災害となってもおかしくない。

 もちろん、殴り込みに行くわけでは決してないが、最低限、そのような心構えをしなければならない場所なのだ。


「トカゲ、ちょっと旅行行こうぜ――皇国の首都まで」

「いきなり何をほざくんだよ、女」


 なので、賢悟は真っ先に戦友であるギィーナを誘った。

 実際に共に戦ったからこそ、屈強なドラゴニュートの戦士であるギィーナは、パーティに欠かせないと判断したのである。


「いや、ちょっと…………俺の命を賭けて世界管理者を探しに行く旅行なんだけど、興味あるだろ?」

「興味あるに決まっているだろ、意地でも行くぞ、馬鹿。後、命を賭けてとか意味不明だ、きちんと説明しろ、馬鹿」


 後は、説得が一番楽そうだったから、というのもあった。基本、血沸き肉躍る系の誘い文句なら、二つ返事で引き受けるのがギィーナである。


「馬鹿馬鹿言うなよ、トカゲ…………ちょっと俺の寿命が後八か月ぐらいで、生き延びるためには世界管理者である『東の魔女』を探さなきゃいけないだけで……」

「はい、馬鹿ぁ。そんなことを隠してやがったお前は特大の馬鹿ぁ」


 こうして、一人目のパーティ……主に前衛件レンジャーを勧誘成功した賢悟であった。

 もっとも、寿命や呪いの事を話していなかったせいで、戦術科の廊下で、ギィーナにガチ説教を喰らってしまったのだけれど。


「へこむ……友達のガチ説教はへこむ……」

「面が女じゃなかったら、ガチでへこませる勢いで殴っているからな、ああん?」

「腹パンはした癖に」

「真っ先に殴り返してきたところ、さすがだよ、お前」


 廊下で軽く殴り合った後、二人はルイスを勧誘しに探している最中だったが、


「あ、二人ともー! なになに、何か面白いことでもあるのー?」


 パタパタとスカートをはためかせ、ルイスが向こうからやってくる。基本、賢悟とギィーナが一緒にいると、仲間はずれが嫌で寄ってくるルイスなのだった。


「面白いことというか…………ちょっと、俺の事情で皇国に行くメンバー募っててな?」

「賢悟さんの用事ですか? というか、皇国? どうして?」


 可愛らしく小首を傾げるルイス。


「おい、ちょっとこい」

「んー?」


 ギィーナはそのルイスの首根っこを掴み、やや賢悟から距離を取る。そして、耳打ちするように声を潜めて、ルイスに賢悟の事情を簡単に説明した。


「だらっしゃぁ! このお馬鹿ぁ!」

「あいたぁ!?」


 賢悟の事情を理解したルイスは、躊躇うことなくその頬を叩き飛ばす。

 ギィーナですら考慮したというのに、男の娘は容赦なしだ。


「バカバカバカバカバカぁ! そういう大切なことはね! もっと、ちゃんと! まっさきに相談するの! それが友達なの!」

「お、おう……」

「罰として、もう敬語とか使わず、タメ口で話しちゃうよ、賢悟!」

「それは別にかまわんが…………」

「後、胸を揉ませて」

「それも別にかまわな――」

「かまえよ、ど阿呆ぅ!」


 ずぱーんと、二人の頭を叩くギィーナだった。

 見かけは女子だが、性別は紛れなく男であり、割とエロスも大好きなルイスなので、油断してはならないと知っているのである。後、賢悟が自分の体に無頓着なところも。

 何はともあれ、これで二人目のパーティメンバー獲得である。

 後衛で、補助が専門のエンチャンター。前衛二人にとっては、非常にありがたい存在だ。


「ふふふん、賢悟が入院している間、強化付与の他にも色々覚えたから、期待していいよ!」

「成功率は微妙だがな」

「本番では成功するもん! 本番には強い子だし! 実際、死線を越えてから、私、急にエンチャントの魔術が色々分かるようになったから」


 ふんす、と平坦な胸を張るルイス。

 どうやら、死線を潜ったことで眠っていた才能が開花されたようである。


「それを言うなら、俺は何時でも槍を収納できるよう、空間圧縮収納の魔導具を買ったからな。これで、いつでも槍術を扱えるぜ!」

「ギィーナ君、一生懸命、学園に武器携帯の許可貰うために書類書いていたもんね」

「本気で面倒だった」


 ギィーナも前回の死闘の反省を生かし、いつでもマイウェポンを装備できるように工夫をしていた模様。その間、入院していたりメイドしていたりしていた賢悟としては、どこか置いて行かれた感があって寂しいのであった。


「俺もパワーアップしたいぜ……」

「前回、魔王と殴り合っていた奴が何を言いやがる」

「というか、あれから調べたけど、魔王とか歴史の教科書でしか知らない存在だったんだけど、現代でも実在したんだね」


 魔王。

 魔物たちを総べる王。

 もしくは、魔物たちの中で特別な能力を持って生まれた、魔物の上位存在をそう呼称する。

 かつては古代の英雄たちと、己の生存権を掛けて鎬を削った存在だ。だが、現代において存在を確認されてのは、シイという巨人の王一体のみ。賢悟たちが遭遇した魔王に関しては、王国の上層部で話し合いがなされているが、まだ、はっきりとした結論は出ていないようだった。


「また、あの時みたいに上級の魔物に囲まれるという事態も想定しておこう」

「となると、火力が欲しくなるぜ。俺とケンゴは近接特化だろう。遠距離である程度火力持ちが欲しい」


 すぐに賢悟の脳裏に浮かんできたのは、レベッカの得気な表情だ。

 確かに、レベッカほどの技量を持つ戦闘魔術の使い手であれば、火力砲台を担当する後衛としては申し分ない。しかし、レベッカは公爵家の娘という立場がある。貴族の中でも、かなり重大なポジションを持つ存在を、国外に易々と出していいわけが無い。よって、賢悟は言葉にするまでも無く、脳内で却下した。


「お前のところのメイドが魔導銃器の使い手だったろう? 話してみたらどうだ?」

「…………背に腹は代えられないか」


 装備を充実させた戦闘系メイドならば、雑魚を一掃することも難しくなく、重火器を使えば、上級の魔物にだって致命傷を耐えられる戦力だ。一時の感情で却下するには惜しい人材だと、賢悟は自分を無理やり納得させる。


「言動の割には隙が無くて、優柔だぞ、あのメイド」

「優秀なんだが、変態なんだよな……」

「我慢しろ」

「…………命には、代えられないか……わかった……」


 非常に気が進まないが、渋々リリーをパーティメンバーにスカウトする予定を入れることにした賢悟だった。



●●●



「なぁ、リリー。俺と一緒に皇国の首都に――」

「行きます。絶対に行きます。置いて行かれても、絶対に探し出していきます」


 案の定即答というか、食い気味の了承だった。

 学校からレベッカ邸へと帰り、リリーを携帯通話用の魔導具で呼び出した賢悟だったが、呼び出してから数分もかからずにやって来た。どうやら、何時もの如くストーカー行為を働いていたらしい。


「私、魔導銃器の扱いにかけては自信があります。空間収納の魔術も扱えるので、弾薬に困ることはほとんどありません。命を賭けろと言われたら喜んで鉄火場に立てる、従者の鏡で御座います」

「お、おう」

「加えて、例の件についても、私が傍にいた方が対応しやすいでしょう?」


 リリーの言葉で、賢悟は思い至る。

 ナナシというテロ組織は、王国だけでなく、世界中に存在するグローバルで厄介な組織だということ。異世界人である賢悟の魂を求めているということ。魔物と謎の協力関係にあるということを。

 皇国の危険性だけ考えていた賢悟だったが、確かに、リリーの言う通り、ナナシからの襲撃に対しても準備しておかなければならない。その点も含めれば、やはり、リリーをパーティメンバーに誘ったのは間違いでは無いようだ。


「そうだな、よろしく頼む、リリー」

「お任せあれ」


 スカートを摘まんで、行儀よく礼をして見せるリリー。

 そこだけ見れば、なんとも清楚で美しい、メイドの鏡である。そこだけ見れば。


「つきましては、頑張ったらご褒美をください」

「……具体的には?」

「ちゅーとか」

「置いて行こう」

「冗談です、ごめんさい。頭なでなででお願いします。それくらいの贅沢は許してください」


 無表情ながらも、必死に身振り手振りで懇願するリリー。

 先ほどの姿が嘘のような、駄目っぷりだった。


「わかったって。んじゃ、それな」

「ひゃっほう」

「…………それで、なんでこっちを睨んでいるんだよ、レベッカ」


 小躍りするリリーの奥。

 ソファーに背中を預けた状態で、レベッカは賢悟にジト目を向けていた。


「別に」

「いや、別にじゃなくて。何、怒ってんだよ?」

「別に怒ってないにゃー」

「駄目だこれ、完全に怒っている口調だ。語尾に『にゃー』が付いてるし」


 身内に怒る時は安い猫キャラと化すレベッカだ。確実に機嫌が悪いだろうと、賢悟は察する。


「怒ってにゃい。ただ、そこの変態メイドは頼るのに、私には頼らにゃいケンゴがどういうつもりなのか、気になるだけにゃー」

「や、だって、レベッカは公爵家の令嬢じゃん。皇国への旅行許可なんて出ないだろう?」

「出にゃいけど! 相談してくれないのは水臭いにゃ! 友達にゃのに!」

「そ、そうか。こういう時に相談してもいいのか、友達は」


 当たり前にゃ! とレベッカは賢悟の背中を叩く。

 いい感じに手首のスナップの効いた猫パンチは、賢悟の呼吸を一瞬止めるのに充分な威力を持っていた。


「ごほ……わ、悪かったって……」

「どうせ、私みたいな戦闘系魔術に秀でた魔術師が居ないんでしょう!? なら、高位の戦闘系魔術師である私に相談すれば、紹介してもらえるとか思わなかったのにゃ?」

「考えはしたけど、利用するみたいで、その、な?」

「もう親友みたいなものなのに、遠慮するにゃ!」

「ごふっ」


 その後、続く猫パンチに賢悟がギブアップをするまで、レベッカの説教は続いた。


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[気になる点] 前衛件レンジャー ↓ 前衛兼レンジャー 致命傷を耐えられる戦力 ↓ 致命傷を与えられる戦力 [一言] 猫パンチ……だと(゜ω゜)
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