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「久しぶりだね、カラフ君。こんな所まで訪ねて来て、一体何の用だい」


 長髪の剣士はあの日と変わらぬ邪悪な笑いを浮かべながら言う。


「……ティカを返せ」


 カラフは静かにそれだけを返す。


「妹さんを取り返しに来たのか。中々に情の厚いお兄ちゃんじゃないか」

「戯言はもういい。いいからティカを返せ。どこに閉じ込めている」

「閉じ込めてるだなんて心外だな。私たちはそんなことしていないよ」


 ディーアはくつくつと笑う。


「まあでも、妹さんを返せというのは、残念だから出来ない相談だな」

「――なら」


 カラフは静かに剣を抜く。


「力ずくで奪い返してやる――」


 カラフはディーアへと一気に間合いを詰め、下方向から大きく円を描くように切りかかる。

 ディーアも即座に剣を抜き、剣戟を受け止める。

 重い金属音と共にディーアの手に軽い痺れが起こる。


「――っ」


 ディーアの表情が硬くなる。

 カラフは弾かれた剣の勢いを殺さぬよう手首をすばやく返し、上方向から第2撃を放つ。

 これをディーアは剣筋の方向を逸らすように受け止め、返しにカラフを縦に切り裂くように剣を振り上げるが、

 カラフは身を回転させ横からなぎ払うようにディーアへと剣を振るう。

 ――互いの剣戟を重ねるうち、ディーアの方が後ろに飛び退き、距離をとる。


「――少し見ない間に腕を上げたね、餓鬼」


 ディーアが呪詛を込めたように睨む。


 ――2撃目で討つつもりだった。

 渾身の1撃目で相手の剣を弾き、方向を変えた2撃目で首を取る。

 カラフは先ほどの切込みでディーアを仕留める算段だった。

 相手がまだこちらを見くびって油断している間に、渾身の攻撃を仕掛け、仕留める――。


 だが、失敗した。

 カラフは1年足らずの間に腕を上げた自覚があった。

 しかし、あの剣士を打つためにはそれだけでは足らなかった。


 カラフとディーアの剣の技術には未だ大きな隔たりがある。

 あの日から剣術を鍛えなおし、腕を上げたからこそ感じ取れる隔たり。

 カラフは直感的に勝てない――、と悟った。


 ――だが、それでも。


「あの日からお前を倒し、ティカを取り戻すためだけに生きてきた。――覚悟しろ」


 虚勢を張り通す。

 張り通して、相手を威嚇する。

 そしてそれと共に自分を奮い立たせた。


 ――カラフには逃げ道などなかった。

 敵を前にしてただ黙って退くことなど、何よりも自分自身が許さなかった。

 だから、たとえ命を落とそうとも、最後まで抗う。

 一矢を報いる――。

 ふん、とディーアは鼻を鳴らす。


「いいだろう。私も本気でお前を殺してやるよ」


 ディーアが腰を落とし、剣を構えた。

 生ぬるい風がざあ、と2人の剣士を撫で、森をざわめかせる。


「――来い、餓鬼。その首、刎ねてやるよ」


 ――力だ。

 剣術では到底及ばない。

 ならば、力でねじ伏せる。

 腕力は身につけた。

 カラフとディーアの間に腕力の隔たりはほぼ無いと言ってよかった。


 ――ならば、とカラフは思う。

 力の戦いに持ち込む。

 剣の技術ではなく、もっと泥臭い不恰好な勝負。

 カラフは雄たけびを上げ、突進するように駆け出した――。


 1撃目、カラフはディーアの頭蓋目掛け真っ直ぐに剣を振り下ろす。

 ディーアに突きを出されればカラフは致命傷を負うようなその大雑把な振りはしかし、相打ちをも恐れんとするカラフの覚悟を帯びた気迫の前ではディーアは正面から防がざるを得なかった。


「――っ」


 2撃目、あろうことかそれは全く同じ剣筋をなぞった。

 再び頭蓋へと振り下ろされる鈍器じみたその軌跡――。

 2度連続で叩きつけられる剣を防いだディーアの手は痺れを起こす。

 息つく間を与えずカラフは次撃を横に凪ぐように繰り出す。


 その後も大振りの、しかし剣で防ぐ以外に回避しようの無い剣戟がカラフから絶え間なく繰り出される。

 ディーアはその一撃一撃を丁寧に自らの凶器で防ぎ続けた。


 ――死を覚悟した者の一撃の重さをディーアは理解していた。

 だからこそ、カラフの剣を素直に防ぐ。

 仮に防がなければ、一撃でカラフを仕留められるだろう。


 だが、それをすればディーアにも一太刀が入る。

 如何にディーアの剣のほうが先にカラフに届こうとも、死を決した者の剣は止まらない。

 最悪、ディーアにも致命傷を与える一撃が入るだろう。


 ――剣を打ち合う音が絶え間なく響く。

 時折互いの刃が欠け、火花を落とす。

 刃が擦れ合うときに微かに無数の引っかかりを感じるのは互いの刃が相当に刃こぼれを起こしているせいだろう。


「――く、そが」


 放ちたい剣筋を放てない――、自らの剣技を封じられる思いのディーアは歯を噛む。

 そのとき、僅かにカラフの剣筋がぶれた。

 丁度縦一直線に狙ったであろう頭上から振り下ろされる剣筋は僅かに横にずれていた。

 ディーアはそれを角度をつけて横に流す。


 幾度もの剣の打ち合いで刃こぼれを起こした互いの剣は砂を噛んだ様な不快な雑音を放ちながら擦れ、火花を散らす。

 カラフの剣がディーアの剣を滑り終わる直前、ディーアが強くカラフの剣を外側へと押し出すように弾き飛ばす。

 弾かれた剣はカラフの正面を無防備にさらけ出す。


「くっ――」


 カラフは弾かれた剣を急いで正面に引き戻すよう、片腕だけでディーアに向かって剣を斜めに振り下ろす。

 しかし――。


「今度こそその右腕、貰うよ」


 ディーアはその甘い剣筋を見逃さなかった。

 すっと、目の前にある小枝を断ち切るよう剣を振り下ろし、静かに、真っ直ぐに、カラフの右腕を切り落とした。


 ――噴き出す血と共に、剣を掴んだ右腕が落ちる。

 剣を振り下ろしきるとディーアの顔には邪悪な笑みが舞い戻ってきた。


 ――悪魔め。

 やっぱり、こいつは殺さなければいけない。

 カルフは残った左手で腰の小刀を逆手で抜き取る――。

 ディーアの表情が凍る。


 だが、もう遅い。


 勝利を確信しきったディーアの剣先は完全に地を向いていた。

 カラフは軽くなった右半身に体重を移動させるように、渾身の力をこめて体を捻る。

 そのまま振り上げた左手の小刀はディーアの喉を突き上げるように縦に掻き切った。

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