表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

夜襲

 夜は深く、空には青い星が瞬いている。

 満月の夜空は野営地を明るく照らす。

 夜襲には不向きな夜ではあるが仕方が無い。


 幸いところどころに雲が見える。

 次に満月が雲で陰った瞬間に2人の手下が入った小屋に入り暗殺する――。


 カラフは剣の他に、家に伝わる反りの入った小刀を腰に携えていた。

 それを確かめるように左手で強く握る。

 ――満月が雲に覆われる。

 カラフは音を立てずに野営地の中へと駆け出した。


 小屋の窓からは灯りは見受けられない。

 寝静まっているようだ。


 ドアに手をかけると予想通り鍵が掛かっておらず、音も無くすんなりと空いた。

 やっぱりかとカラフは思う。

 こんな森の中の誰にも見つかりもしない野営地でわざわざ鍵をかけているほうが不自然だ――。


 カラフは腰を落とし、身を屈めて中へと進入する。

 部屋のドアは開け放たれていた。

 寝息の聞こえる1つ目の部屋へと入ると、昼間見た男が眠っていた。


「…………」


 カラフは音を立てないようにゆっくりと小刀を抜く。

 首元まではゆっくりと刃を近づける。

 そして――。


 一気に、そして深く首を切り裂いた。

 吹き上がる血しぶきと見開かれる目と口。

 カラフはとっさに手で口を覆う。


「んんっ――!」


 男は両手で自らの首を押さえ、その後片方の手でカラフに殴りかかってきた。

 それをカラフは右手の小刀で捌き、男の手はゴトンと音を立てて壁にぶつかり崩れ落ちる。

 首と手から出血した男はそれから数秒で完全に息絶えた。


 カラフは男の脈がなくなったことを確認し、口から手を離す。


 ――初めて人を殺した。


 ティカを救うためとはいえ、人の命を奪うことがこれほどに心が痛むとは、カラフは思ってもいなかった。

 自らが生あるものから肉塊へと変えてしまった男から、よろめきながら離れる。

 しかし、心を落ち着ける間もなく


「オマーレ? どうした、まだ起きているのか。今の物音は何だ」


 もう1人が近づいてくる音が聞こえる。

 カラフは男の歩いてくる廊下から死角になるように壁に背を張り付かせる。


「オマーレ?」


 男が部屋に入ってくると同時にカラフは小刀を男の胸へと突き刺した。


「ぐっ――!」


 男はとっさにカラフを突き飛ばす。

 それと同時にカラフの刃が胸から引きずり出される。


「あああっ!」


 男は崩れ落ちた。


「お前、何者だ」


 胸を押さえながらカラフに問いかける。


「去年、あんたらが襲った家の人間だ」

「――ああ、あの家の餓鬼か」


 男はやれやれとばかりに片方の手で頭を押さえる。


「復讐か?まだ諦めてなかったのか」

「諦めるわけが無いだろう。それより、ティカはどこだ。死ぬ前にそれだけ教えろ」


 男は息も絶え絶えになりながらもくつくつと笑う。


「知らないねぇ」


 ――明らかに知っていて隠している様子だ。

 カラフは直ぐにでも止めを刺してやりたい衝動に駆られながらもそれを押さえ、質問を続ける。


「なら、ディーアとかいうやつはどこだ。

 昼間お前たちが話しているのを聞いた。

 この野営地のどこかにいるんだろう」

「それなら、直ぐに会えるだろうさ。

 野営地の至る所に警報の為のちょっとした細工が施されている。

 この小屋のドアも例外じゃない。

 俺たちが仕掛けを外さずにドアが開かれれば侵入者が来たと、

 糸を伝ってディーア様の方へ警告が入る」

「侵入者対策ならドアに鍵を掛ければ済む話だろう。

 そんな話を信じるかよ」

「侵入者を防ぐ、という意味なら鍵を掛ければ確かにそれで済むだろうな。

 だがあの方は防ぐことよりも侵入者を確実に発見することを優先させた。

 ――あの方は、そういうお方だ」


 ふっ、と男は自嘲気味に笑う。


「外に出てみろ。そろそろあのお方も外で待っているだろうさ」


 カラフは無言で小刀を仕舞い、小屋を後にした。



 小屋の前の一本道に出ると人影が一人立っているのが見えた。

 ――雲が裂け、再び満月の明るい光が野営地を照らす。

 同時に闇から浮かび上がり、やあ、と声をかけてきたその人影は間違いなく、

 ――あのときの悪魔だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ