復讐
あの日から四季が一週廻るほどの月日が流れた。
ティカの行方は未だに分からない。
やつらが両親を捕らえたと言っていたウルブ山にこうして登るのも何度目か。
しかし深い森に覆われた高い山の中から奴らのアジトを見つけることは困難だった。
誘拐されて3ヶ月経つ頃までは村の人たちも慄きながらも武器を持ち、総出で山狩りをしてくれていた。
しかしそれもじきにやめてしまった。
もはやティカは生きてはいないと諦めたのだ。
だが、カルフだけは諦めていなかった。
カルフにはティカが生きているという確信があった。
ティカは連れ去られたとき、未だ魔術を使うことは出来なかった。
小さな子供のうちは魔力は発現しない。
ティカが魔力を宿すのは早くとも、もう2~3年経った頃だろう。
それまではやつらもティカに手出しは出来ないはずなのだ。
「――それでも」
それでもティカが今どんな生活をしているのか分からない。
命はとられていなくとも、完全に無事であるとは限らないんだ。
「絶対に、迎えに行ってやるからな、ティカ」
未だに何も手がかりが得られない悔しさに歯を強くかみ締め呟いたとき、
「ここの道……」
今までに無い道がそこに出来ていることがわかった。
いつもは川があった場所、そこがこの時期特有の連日の日照りで水量を落とし、小さな小道を浮かび上がらせていた。
その小道は対岸へと伸びている。
「――――」
カルフは黙って水量の減ったその小川へと足を踏み入れる。
蒸された外気と対照的なまでに鋭く冷えるその水は直ぐにカルフの靴を満たした。
川を渡り、しばらく道を進んでいくと開けた場所に出る。
そこには小さな集落のような場所だった。
いや、――そこは集落というよりもより簡素な野営地のようなものだった。
家畜もいなければ畑も無い。
物陰から野営地を観察する。
物音を立てず物陰に隠れていると辺りの静けさが際立った。
鳥の鳴き声と葉擦れの音以外には物音一つしない。
と、そのとき一つの小屋から人影が出てきた。
カルフは腰の剣に手をそっと手を置き、なおも身を潜める。
「なあ、そろそろ川も通れる時期だし、狩りにいかねえのかよ」
人影が別の影に向かって話しかける。
「俺に聞かれても困る。ディーア様に聞け。
だがまあ何にせよ、そろそろまた人を雇う算段でもつけ始めないといけない頃合だろうな。
我々護衛の2人だけでは流石に村を襲うにも人手が足りなさ過ぎる」
「迫力もたらねえしな」
「まあ、そういうことだ」
「それにしてもディーア様はいつまでこんな生活を続けるおつもりかねぇ。
せっかく王子なんだから城でゆっくりしていい飯でも食っていれば良いものを」
「――ディーア様は奇跡を求めておられる。魔法技術の復活だ。
しかしあの国の王家の方々はそれを受け入れられなかった。
そもそも魔法というものにとても懐疑的だった。
まあ、私もあの娘の母親の魔術を目の当たりにするまではとっくに滅んだ技術と思っていたがな」
「俺は初めっから信じてたぜ」
「ああ、そうかよ。ともかく、そろそろまた人手を集めるぞ。
国の兵士を使うわけにもいかんからな。
金は王家からの支給のものがようやく届いた。
今年は腕のいい傭兵を厳選するぞ」
「前回は大して使えん府抜けどもだったからなぁ!」
がっはっはと大きく男は笑い。
2つの人影は去っていった。
――やつらの話を聞く限り、現状この野営地にはディーアを含め人が3人しかいないようだ。
夜を待とう。
夜になったら奇襲を行う。
そして、ティカを必ず見つけ出す。