約束
カラフはいつものように、森を抜けた先の草原で汗だくになりながら剣を振るっていた。
照りつける日差し。
日向に立っているだけでも暑いのに、こうしてひたすらに剣を振り続ければ汗だくになるのも当然だ。
この東の草原にはとりたてて何があるわけでも無いため、ここを通る人影はめったに無い。
聞こえるのは風が木々や草むらを撫でる音、そしてカラフの熱い息づかいと剣が空を切る音だけだった。
そのある種の静寂に割り入ったのは、森の中から涼しげな様子で現れたフィーナだった。
「今日も勇者ごっこに精が出ますなー」
その声を合図とするかのように、カラフはいつものように剣を下ろし、休憩に入る。
「ごっこ、じゃない。勇者になるための修行だよ」
剣の素振りで汗だくのカラフは少し、むっとしたふうに答えた。
「ふふふ。未来のお婿さんが勇者になるなんて私は嬉しいよー!」
「馬鹿にしてるだろ」
「いやいや。そんなことは無いよ。はい、持ってきたよ、お昼ご飯」
にひひ、と笑いながら大きな籠を両手で差し出してくる。
「……ありがとう」
フィーナがこうしていつもお昼ご飯を持ってきてくれるのはとてもありがたいが、正直少し気恥ずかしい。
それに"お婿さん"なんて平然と言うものだから、さらにそれに拍車がかかる。
子供のころは確かに「フィーナは俺が一生守る! お嫁さんにするんだ」なんて言ってはいたが、
大きくなってからもずっとそれを続けられると少し恥ずかしい。
「なあ、村の人の前ではくっつくのはやめてくれないか。その……」
「恥ずかしい?」
ニンマリとフィーナが笑う。
しまった。フィーナに弱みを見せたらつけ込まれるのは分かっていたのに。
「あらあらあら、いいじゃない別に。カラフの家のおじさんもおばさんも公認!村の人も公認!なんだし」
「村は別に公認じゃないだろ」
「そうでもないわ。もう村中の皆も私たちが結婚するって知ってるんだし」
「まてまてまて、未だ結婚するような年じゃないだろ」
「そうねー。じゃ、"まだ"待ってあげる」
……フィーナには適わない。
カラフは反論するのも諦めて木陰に腰を下ろす。
完全勝利したフィーナはにっこりと笑った。
「ご飯たべよっか。今日もティカちゃんと二人で作ったんだよ」