2話 召喚の理由と現状
――軍神が何故、英雄王と呼ばれているのか。
――彼が英雄の原型と言われるのは何故なのか?
その事は神話以前の国の仕組みによる問題があった。
国の主である国王の絶対的な権力と国民からの支持がその問題の根本になる。
国王は何事にも絶対王政を貫いていた。
絶対主義、絶対君主制とも呼ばれる絶対王政は王が絶対的な権力を行使する政治の形態こと指す。
それが当たり前で、国民もそれが当然だと思っていた。
世界、国、国民は英雄を求めていなかったのだ。
求めていたのは有能な国王だけであった。
王もまた、兵士たちの功績を我が物にし、英雄を誕生させなかった。それを許さなかった。自分の地位を脅かす者は次々と排除した。
軍神はなりたくて英雄になったわけではない。彼の生きた時代より前の時代に英雄と呼ばれる存在が誕生しなかったのが原因だ。
多分、英雄と成りうる器や素質を持った存在は長い年月を考えれば、五万と居ただろう。だが、彼らがどれだけ努力してもそれを国王が取り上げるから、国民に伝わることはない。
英雄になりたいと願った子供もその例外ではなかったのだろう。その子達が成長して、兵士として働きだして功績を積み上げても子供たちが望む英雄という存在にはなれなかった。
そんな時代の中で成り上がりの国から生まれた英雄。
その凄まじいまでの功績、逸話、偉業を行ってきた存在を英雄と呼ばねば、いったい誰を英雄と呼ぶのだ。
そう言いたくなる程に軍神の功績、逸話、偉業は凄まじい。
だから、国民や村人は彼を英雄王と呼ぶのだ。
――始まりの英雄にして、最古の英雄。
――神の身業を再現した神の試練を乗り越えた者。
逸話として語り継がれている話は事実であり、偽りや後々に書き替えられたモノではない。
そんな偉人を目の前にして緊張しない人物はない。いや、逆に居たら教えてほしい。どれだけ精神が強いのかを知りたい。
それは神聖ジリール皇国の
現聖皇の長女で第1皇女 メアリー・ジリール その人も例外ではない。自分の憧れた人物が目の前に居るのだから、それは致し方がないことだ。
現在、メアリーと神聖ジリール皇国第2皇子ことエレメス・ジリール、賢神こと初代聖皇 ギルバート・ジリールと軍神ことジルク・アラスカは馬車の中に居た。
「今回の召喚に応じて頂き誠に感謝します、軍神様。貴方の宝具はお返しします。」
「ああ、ありがとう。それでどういうことなのかな?説明をしてくれるよね。」
メアリーの言葉にジルクは本題を出せと要求している。一国の皇女の感謝の言葉より現在の状況を知ることを選択したのだ。
本当なら不敬罪で訴えられても仕方がないことを彼はしているのだ。それでもメアリー、エレメスが何も言わないのは彼がこの国が讃えている英雄であるから、神となった存在であるからに過ぎない。
他の者がやれば、一発で首が飛ぶ。
「まずは自己紹介を。私は第一皇女のメアリー・ジリールです。隣が第二皇子のエレメス・ジリールです。では始めます。この召喚は長年、神聖ジリール皇国が研究に研究を重ねたモノです。お二方の時代にあった魔法、魔術を用いることにより作り出された技術です。召喚を受けられた軍神様、賢神様はお分かりであると思われますが、現世の実体を新たに構築して出現します。他にも召喚の種類はあるのでそれは別の機会に。」
メアリーは一呼吸置いた後に話を続ける。
「では、この召喚を行った経緯と召喚による能力について説明します。
今、神聖ジリール皇国ではお二方が建国した頃に比べれば、圧倒的に様々なモノが衰えてきてます。経済、政治体制、軍事力などですね。その為、この国が栄華を誇っていた大陸統一時とは全く持って違います。新たな国が出来上がり、その国と戦う時代に入りました。
今の我が国の者たちでも充分対処出来ると思うのですが、経済の衰えや政治体制の衰えについてはどうしようもないことだった為、賢神様を最初に召喚しました。
その後、賢神様の意向で軍神様も召喚することになりました。で「ちょっと良いか?」どうぞ。」
「なら、君たちは僕たちを戦争に巻き込むつもりはないということで良いのかな?」
「今はそのつもりです。でも、戦争が始まれば共に戦ってもらうように頼みに行くかもしれませんが。」
「話を進めてもらって良いよ。」
「はい。」
また一呼吸置いた後、話を再開する。
「召喚には何かしらの能力と言えば良いのか分からないのですが、そのようなものがもたらされます。その能力は宝具、功績、逸話、偉業、認知度などで変わってきます。
私たちはそれを”遺産”と呼んでいます。”遺産”は武器とは限りません。生前、得意とした魔術、魔法だったり、逸話などが肉体的に変化をもたらす場合という様々な可能性が計算されます。ですが、賢神様から聞いた限りだと”遺産”は結構多いみたいですね。」
「分かった。説明ありがとう。」
会話が終わったことでメアリーはふとした疑問にぶち当たった。
(何故、軍神様は疑問を問い掛けてこないのかしら?それとも今ので理解できたの……?分からない。これが軍神様なの?
あっ、軍神にはこんな逸話が残っていた。)
――曰く、軍神の眼は全てを見透すことが出来たという。
これは良くある逸話の1つだ。色々な逸話で語られる軍神の1つ。
軍神がどのような人物かを書かれることが少ない彼の残っている情報の中にある1つに黒髪黒目であることと載っていた。
この黒目が神秘的だと書かれていた。
歴史学者の話し合いの中ではこの眼に関する議論がの幾度も行われた。
彼が持つ眼は何なのかということを。
ある者は
――あの眼を精霊の加護を与えられたモノだ
と言い
ある者は
――あれは神眼だ
と言い
その主張は様々だった。これだという確固たる証拠が1つも残されていない状況なのでそれも仕方ないのかもしれないが、議論の着地点が全く見つからないと言えば良いのか。
説は幾らでも考えられるから、中々事実を見つけるのには苦労する。
そんなことがメアリーの頭に過ったのも束の間だった。ジルクの投げ掛けは結構早くやって来た。
「”遺産”のことは自分の体だから感覚で分かる。だが、これはズルいのではないのか?まさか、こういうことがあって良いのかと聞きたいぐらいだ。」
「私達も召喚で身に付ける”遺産”は予想出来ていません。私達がやったのはあくまで予測ですから。その後、賢神様の助言もあり大体は解明されてきました。」
「そうか。では、皇国としての今後の対応などを聞かせてもらおうか。」
一気に話が変わったとメアリーは感じ取った。最初に聞きたいことは得られたらしい。
この召喚と国の現状を伝えただけで明白な国の行動は示していない。
だからこそ、軍神と言われるこの人は敢えて聞いたのだ。
どんな状況にも動じず、どんな状況にも冷静に対処し、情報を集める。
これが軍神の根本にある根っこなのかもしれない。
「神聖ジリール皇国が他国に攻め込むことはありません。ですが、他国の侵攻を受ける可能性が無いとは、とても言い切れません。戦乱とは申しませんが、膠着状態にあるのは間違いありません。
それでも軍事的にお二方を戦場にお連れすることは今のところはありません。」
「緊急事態や何らかの際は出陣を頼むこともあるという意味で良いのかな?」
「そう捉えて頂いて構いません。それでも皇国にも武勇に優れた人材はいます。そう簡単にはないと思われますが。」
「なら、俺は賢神の護衛兼喋り相手として召喚されたということで良いのか?」
「そうなります。」
「はぁ………そう、分かった。なら、もう1つ聞こうか。皇国はこの現状に対してどうしたいと考えているのかな?」
「現聖皇は建国当時の状態に戻したいと考えています。貴族達は派閥によって意見が異なります。
市民は平穏だけを願っていると思います。」
神聖ジリール皇国は国の最高権力者として聖皇がいる。だが、その下に様々な貴族がいる。
貴族は階級によって分けられる。
その中でも政治に口出せる貴族のことを”文官貴族”と言う。
文官貴族は貴族の階級ごとに政治を行うに相応しい認められた貴族のことを指す。これは15年に一度に文官貴族が代わることもある。
この国の政治は聖皇、宰相、各務署の大臣、文官貴族で行われる。これを”四方議会”という。
文官貴族は四方議会の前に”貴族会議”というモノを行う。これは文官貴族ではない貴族も参加できる意見交換会というモノ。それに参加する殆んどが文官貴族に成れなかった貴族や武官貴族だ。
「ですが、それぞれの意見は噛み合わない状況が続いています。」
「面倒だな。だが、それについては彼奴とやって貰いたい。ここまでの話を聞いて僕が特に疑問に思ったことがある。」
「それは何でしょうか?」
「召喚技術についてだ。それに皇国の考え方にも今一しっくり来ない。」
「それは…」
メアリーは黙り込むしかなかった。もっと深い意図があったからだ。
そんなことをお構い無しに軍神の話は始まる。
「召喚。これは僕たちの時代にも利用されていた技術だ。だが、それは別に神や英雄を呼び出す為のモノじゃない。
それに一度は消えた技術。
それを今更、蒸し返すには何らかの理由がある。
考えられる1つの理由は、皇国が崇める神や武功を上げた英雄に助けを乞いたいため。
二つ目は召喚によって現れた者達を支配するため。
他にも幾つかの理由は思い浮かぶ。
そういう召喚した理由は思い浮かぶのに腑に落ちない。
メアリー皇女は言ったね。長年研究をして来たと。
僕には何故、そうまでして召喚技術をもう一度作り出そうとしたのかが分からない。
何故、自分達で解決しようとしないのか?
何故、そうまでして召喚技術に拘るのか?」
「………悲願なのです。」
「悲願?」
彼女は渋々語り始めた。皇国の願いと希望を。
「軍神と賢神による再度大陸統一された神聖ジリール皇国が完成するという悲願。これは皇国が長年掲げてきた悲願なのです。その為にこの国は召喚技術に大量の投資をした。それだけです。」
「それだけの為にここまでしたのか?分からないな。自分達でやれば良いものを。
それに皇国の考え方は歪んでいる。少しは自分でどうにかするべきだ。」
軍神の言葉は神聖ジリール皇国の皇族として2人の胸に刺さった。
「もう一度言おう。
君達の考え方は歪んでいる。悲願と言うのなら、自分達の手で行え。
自分達で出来ないから、過去の英雄に頼ろうとしたんだろう。それは分かる。」
「だったら……」
「だが、その悲願を果たす英雄が現れないと誰が言った!」
「えっ!でも、それは…」
「君達の考え方は酷く壊れている。もうそれは悲願でもない。宿命や使命に近いのではないのかな?」
その言葉にだけは反論したいという気持ちがメアリーにはあった。自分の抱えてきた理想を叶えたいという思い。それを否定させるのが嫌だった。
「そ、それでも悲願なのです。市民が、村人が少しでも楽に過ごすことが出来て、戦乱のない平和。それを望むことに問題でもあるんですか?」
軍神はキッパリと言ってのける。
「別に問題はない。皇族として当たり前だと思う。だが、何故それを英雄に願う。英雄が現れるかもと言ったが、これは違った意味も含んでいる。」
「英雄に全てを委ねる。それの何がいけないのでしょうか?」
「別にいけないとは言っていない。もっと根本的なことを言おう。英雄は簡単には現れない。」
「そんなことは私達も分かっています。だから、「諦めた!」ツウ…」
メアリーも気付いてはいた。英雄がそう簡単に現れる筈がないことを。
「だから、英雄と呼ばれ存在に任せたいと願った。この国を救ってほしいという願望だ。
一つ言わせて貰えば、皇国の人間は”英雄”という存在を履き違えている。間違った意味の捉え方をしている。」
履き違えているという言葉によって、メアリーは自分が勉強してきたことを全て否定された気分になった。
皇国という国の独自の考え方。今更変わることはない。大きな改革でも起きなければ。
「軍神様、皇国はどのように”英雄”と呼ばれる存在を履き違えているんでしょうか?」
「先ず、皇国は英雄をどのように考える。」
「英雄は偉業を成した者、逸話を残した者などと言ったぐらいでしょうか?」
彼が溜め息をしたのが分かった。
自分の答えに呆れてしまったことに気が付いた。
「それは簡単に纏めすぎだ。
英雄とは何かを成した者。
その何かは逸話であったり、逸話であったり、様々だ。
だが、それだけじゃない。英雄はある意味何時でも何処でもなることが出来る。それは特に戦場に置いて、輝きを放つ。
戦場にいる全員が英雄になれる。それに英雄は逸話であったり、偉業だったりというモノとはまた違うモノだ。
戦場で戦っている者一人一人に守りたい人々がいて、それを守ろうとする者こそが英雄になれる。
結局、英雄は人が作り出すのだ。人の視点で英雄の価値は変わる。
例えば、国の危機を救った男と城を守りぬいた者がいる。
2人ともが自分の命を張って戦った。だが、手柄は違う。なのに市民や村人にしてみれば、どちらも国を守るために戦った同じ”英雄”として写る。
だが、皇族は違う。より功績が高い者を”英雄”と呼ぶ。ここに視点の違いがある。
結局、英雄は人が生み出す過去の遺物なんだ。
英雄になろうとして英雄になった者は少ない。英雄と呼ばれる者達の殆んどがその意識なく、無我夢中で人生を送った結果、そのように呼ばれる。ただ、それだけなんだ。」
「じゃあ…私達はどうすれば良いのですか?このまま滅ぶのを待てと。それは嫌です。平和な世界を作る。その悲願を叶えたい。」
メアリーの嘆きともとれる一言だった。
――どうすれば良いのか?
――どうやって行けば良いのか?
彼女に考えることが出来なかった。
それを見ていた賢神は笑いながら言う。
「言葉を並べすぎ。メアリーがパニックになってるじゃないか。」
「それは悪い。」
「質問宜しいですか?」
「良いよ。」
エレメスはここぞとばかりに疑問を投げ掛けた。
この国の皇族として当たり前に抱く疑問。
今の自分達ではどうしようも出来ないなら、聞くしかない。偉人の言葉を。
「英雄は過去の遺物と言っていましたが、それでは英雄は存在しないことになるのでは?」
「英雄は過去の遺物。誰もが英雄になることが出来る。これに間違いはない。だけど英雄が何もかも出来る程、この世界は甘くない。結局、時代が求めている理想の存在が即ち英雄で、そんな都合が良い英雄は存在しない。これで英雄は居ないと言う説明にならないかな。」
「そうですね。その通りだと思います。」
この話の終わりが見えてきた頃に目的地がやっと見えるところまで馬車は進んでいた。
如何でしたでしょうか?
感想待ってます
それではまた
文を付け加えをしました