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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
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第98話

 昨日ご主人様に言われた通り、独断と偏見で腕の立つ人間を、とりあえず四人集めてきた。その中にはもちろんアンジーとトーマスが入っている。強い、と言われて真っ先に思い浮かぶ二人だし、声をかけないわけがない。そしてもう二人の内片方は、エーヴィヒ。技術は甘いが死んでも問題ないから連れてきた。

 そして最後の一人。

「……なんで俺がここに居るんだ」

 死都遠征隊の生き残り。スカベンジャーで腕の立つ人間は二人のほかに思いつかなかったから、誰かめぼしい奴居ないかと名簿を眺めていたら見つけた。

 自分の意見のせいで部隊が壊滅したことがトラウマで、仲間が死ぬのを見たくなくて引きこもっていたから、化け物退治には出ず本人も機体も無傷だったらしい。ふざけんな悔いる暇があるなら仕事しろ屑、と引きずりだしてきた。断じて俺が死ぬ思いをしていた間家でブルってたのが許せなかったわけではない。

 包囲されて絶体絶命、仲間がボロボロ死んでいく中を生還したのだから、実力はともかく運はあるだろう。たぶん。

「なんでそんなに縮こまってる。もっと楽にしろよ、同じスカベンジャーだろ」

「い、いや支配階級が居るのにどうしてそんなに楽にできるんだ」

 彼の指さした先には、楽にすればいいと言わんばかりにニコリとほほ笑むご主人様が。もともと敬意なんて払うつもりは一切ないから、気を使わなくてもいいんだぞご主人様よ。

「気にするな」

「無理だ」

「そうか。なら仕方ないな。ご主人様よ、人は集めたからさっさと要件を」

 壁にもたれて、今日の用事をと頼む。

「ああ、わかったよ。今日君らに集まってもらったのは、今このコロニーに駐留している『敵』の本拠地を潰すための作戦説明。ブリ―フィングさ」

 この少人数でどうやってコロニー一つ叩き潰すのか。是非その案を聞かせてもらいたい。

 ご主人様が何をするのかを見ていると、足元に置いていた鞄を開いて中から何か機械を取り出した。カメラのようなものがついているが。すぐに壁に画像が映し出された。コロニーを空から写したもののようだが、このコロニーとは微妙に構造が違うような気がする。

「骨董品のプロジェクターだ。使えるかどうか不安だったが、まだまだいけるね……攻略するのはこの敵性コロニー」

「どうやって写真撮ってきたんだ」

「エーヴィヒに小型無人機を持って行かせたんだよ。貴重品だが、使うべきときには使わないとね。話を戻そうか」

 リモコンをいじり、画像が動き出す。ただの画像が動画になった、なんてことでしょう。こんなことで驚くかよアホ。

「ここだ。このコロニーを襲った戦車とは別の古い兵器だ。遠距離からロケットを大量に撃つだけの単純なものだが、威力は君たちもわかるだろう」

 ご主人様が棒を伸ばし、一点を拡大する。でかいトラックの荷台に、多連装ロケットが積まれていた。アースの武装の何倍もでかいし装填数も多い。あれを撃ち込まれたらたまらんな。

「敵の殲滅を第一目標、これの破壊を第二目標、敵コロニーのトップの殺害が第三。全て達成したらボーナスを出すよ。それで、敵の詳細についてはこれから出す……これだ」

 今度は上空ではなく地上の映像に。映っているのは、このコロニーのものとは細部の形の異なるアース四機一個小隊。

『敵の哨戒部隊に発見されました。撤退は不可能と判断。交戦します』

 敵のアース部隊がアップで映り、一体がエーヴィヒの攻撃で撃破される。その直後に多くのロケットの弾頭が飛翔して、音と共に映像が暗転。

『戦闘続行不可能……また死ぬんですね』

 装甲を弾丸が貫く嫌な音がし、そこからあとは音も途切れた。

「この規模のコロニーなら、哨戒用の部隊はおそらく常時四個小隊体制。四機が四小隊で十六機。ローテーションを考えればその二倍か三倍。内部の治安維持部隊も含めると……まあざっと百近く居るんじゃないかな? どういう計算かわかるかい、クロード君」

「弾さえあれば一機で百人以上の人間を殺せる。千人規模のコロニーなら十機。うちと同程度なら二千か三千てところ。なら三十。予備を入れて五十。大体あってるな」

「君は頭がいいね」

 露骨な馬鹿にした言い方だが、昔ならいざ知らず。今ではこの程度、挑発にすらならない。最近いろいろありすぎたせいで、俺の沸点は非常に高いのだ、怒るのは命の危機に瀕したときと、騙されたときくらいだ。

「どうもありがとう」

「それでは話を進めよう。百対五。この差だと一人で二十倒さなければ勝てない計算になる。やれるかい?」

「お前がやってみろ」

「まあそうなるよね。敵の実力は不明。だからせめて数くらいは対等、とまではいかないが近いものにしてあげよう」

「どうやって。スカベンジャーから人は出せないぞ」

 ここで頭がようやく口を出した。ずっと黙ってたから、ついに寿命で死んだのかと思ってた。

「お前だって知ってるだろう。先の戦闘で治安維持もままならないほど人が減っているのは」

「スカベンジャー以外から人を出せば問題ないだろう。例えば、私が教育したゴミ達。あれをアースに乗せて、戦わせる。機体もこちらから出す。君たちは、少数精鋭を出すだけでいい」

「COOL、いい案だぜ」

 トーマスは楽ができると喜ぶが、俺の胸の内を占めるのは後悔。ゴミをアースに乗せて戦わせる。非戦闘員を戦闘員に仕立て上げる。なんてすばらしい人手不足の回復方法。うかつにご主人様の誘いに乗った自分の軽率さを悔いる。こんなことをされては、容易くスカベンジャーと支配階級の力関係が逆転するではないか。治安維持のためにゴミを差し出せば、それが丸ごと訓練された兵士になって戻ってくる。スカベンジャーの兵士ではない、全てご主人様の兵士だ。

 今回の遠征は、その出来栄えを見せつけてやろうという魂胆か……いや。違うか。わざわざそんな回りくどい手を使わなくても、発電所を止めればいい。たったそれだけで、俺たちは全ての抵抗の手段を失う。スカベンジャー自慢の機甲部隊も電気がなけりゃただの置物。あとはゴミのように蹴散らせばいい。

 そうしないのはまだ利用価値があるからか。自分が動かず、他人を働かせるために。あるいは、暇つぶしのために。

「出発は明日正午。観光バスは私が手配する。それまでに十分な弾薬と整備、ついでに遺書を用意して集合してくれ」

「まだ死ぬつもりはない

「私も」

「同じく」

「……」

 最初にトーマス、次にアンジー。三番目が俺。で、最後黙ってたのが生き残り君。

「……書いてくる」

 お前のせいで締まらない空気になったじゃないか。どうしてくれる。

活動報告に更新についてのアンケートを置いてあります。できればご協力ください。

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