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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
90/116

第88・89

3/29 89話統合

 アースに乗って、街道を歩く。コロニーの空気はいつもの通り最低最悪で、肉眼なら道路の端から端まで程度の距離を見るのが精一杯。これがアースのカメラだと、もう少し先まで見える。

 一週間ほど前の光景を思い出すと、道路の両端にうず高く積まれていた瓦礫の山は大分小さくなっていて、頭の言っていたことが嘘ではないということがよくわかる。多分、仕事をさぼっている奴は居ない。きっと誰もが全力で職務に励んでいるのだろう。実に素晴らしいことだ。もう少しがんばってコロニーの治安維持もやってほしいが、まあ手が足りないなら仕方ない。

 

 そしてようやく、巨大なつぎはぎの布で覆われた修復途中のゲートに到着した。

「外部スピーカー、音量最大で起動。発声後増幅再生」

『起動完了』

「トーマス、出てこい……!」

 ゆっくり、はっきりと喋ったら、すぐに外付けのスピーカーが起動して音声を増幅する。少しだけ、予想を上回る音量が装甲の中で反響して驚いてしまう。あと少し耳が痛い。

 立ったままで一分ほど待てば、多分探している人間が入っているであろうアースが出てきた。

『馬鹿野郎、わざわざスピーカーでバカでかい音出して呼ぶんじゃねえ! 通信で呼び出しゃいいだろ!』

 外部のスピーカーからでなく、通信機のスピーカーから声が出た。トーマスが回線を繋いできたのだ。

「頭にお前が通信に出ないって言われたからこうして直接来てやったんだよ。文句があるなら頭に言え」

『そうか。もう少し待ってくれ。悪いが今手が離せない』

「もうすぐ日が暮れる。帰りながらゴミ掃除は嫌だろう? 上司の命令を言い訳にして抜け出してこい」

『部下に文句言われるのは俺だぞ?』

「俺だって上司に文句言われるんだぞ」

 頭から説教されるなんて、考えるだけで嫌になる。はげたジジイと嫌な時間を過ごすより、早く帰って中身殺し屋でも美少女と一緒に過ごした方がずっと精神的肉体的健康にいい。これを言ったら間違いなく一緒に来てくれないので、ほかの方便を語っておく。

「それに、重要なことだ」

『直接話さなきゃいかんほどのことか?』

「コロニーの治安に関することだからな。ほっとくと仕事がさらに増えるぞ」

『仕事が増えるのは面倒だ、そりゃ行かなきゃな。引継ぎ連絡するから少し待て。えーと、チャンネル2に接続。ちょっと頭に呼ばれたから、残りの仕事の指揮は任せる。あん? 口答えすんじゃねえ、上司の命令は絶対だ。鉄拳制裁されたくないなら返事は? OK、任せたぞ。切断……よし終わった。行こうぜ』

 何やら揉めていたようだが、上官ということで黙らせたようだ。押し付けられる側には同情するが、こっちもさらに上の上官から仕事を押し付けられた身だ。恨むならトーマスを恨んでくれ、名も知らぬ足よ。

 

 元来た道を戻っていると、少し気になることを思い出した。

「そういえば、研究所に売り渡したガキはどうなってんだろうな」

『変態どもの餌食になってんじゃないか? 交配実験やるとか言ってただろ』

「ああ……」

 新人類と旧人類のハイブリッド。結局、どっちも変わらないような。ミュータントの形質を持った子供が生まれたなら、また差別が生まれるだろうし。旧人類の形質を受け継いだ子が生まれたなら、ミュータントの女は頑丈な子宮として遠慮なくとして活用すればいい。

「記念すべき最初の子供が生まれたら、間違いなく解剖行きだな」

『えぐいねぇ。ま、奴らのせいでコロニーもでかい被害を出したんだ。穴埋めは奴らの命だけじゃまだ足りん。もし産めるなら、たっぷり産んでもらわないとな』

「子作りは誰が突っ込むんだろうな」

『もしお呼びがかかるなら行ってみたいもんだぜ』

「トーマスお前、ガキのほうが好みなのか?」

『ガキなら病気持ってねえだろ? それに、一番の成果を上げた報酬として、ぶち殺した敵のガキをもらうってのも。なかなか経験できることじゃない』

「マジか……まあ、女の好みは人それぞれだしな」

 俺も人からあれこれ言われたらいい気がしないし、こいつだってそうだろう。だから深くは追求すまい。

『言ってくれるじゃねえか。ゲイのくせに』

「あん? 誰がゲイだって?」

『お隣には美女が住んでて、家には支配階級からよこされた美少女が住み着いてる。それで不満を垂れ流すんだから、そりゃもうゲイ以外の何物でもねえだろ』

「冗談にしちゃ笑えんな」

『んなこと言ってもみんなわかってるぞ。俺がお前はゲイだって、噂ばらまいたからな』

「トーマス……明日格闘訓練に付き合ってもらおうか」

『お、やんのか? 片目のくせに』

「片目でもお前には負けん」

 射撃戦じゃまず負けるが、格闘なら勝てる。片目でも勝つ自信がある。

『言うじゃねえか。じゃあ、俺が勝ったらお前はゲイだ。俺以外の男のケツを掘りな。負けたら俺がゲイになってやる』

「俺が勝ったら30㎜砲弾を1ダース奢ってもらおうか」

『はっはっは! 断る』

 ふざけてやがる。俺が勝っても何のメリットもねえじゃねえか……噂の撤回くらいか? まあいい、明日の予定はこいつをぶちのめすので決まりだ。



********


 アースを二機、体育館の駐機場に置いて頭に謁見する。大体いつも来るときには一人でだったので、なかなか新鮮だが、気分が良いかといえばそうではない。むしろ良くない。本当は家に帰って寝たいところなのだが、仕事という恋人が離してくれないから困る。

 そんなくだらない冗談はさておき。

「連中を警備に回すってのは、悪い案じゃないな。泥棒に荒らされた家の警備をその泥棒に任せるのは思うところはあるが、四の五の言ってられる状況じゃない」

「損得のわかるやつで助かるよ」

 トップが納得すれば、それより下も無条件で納得してくれる……わけではないが、まあ説得はしやすいだろう。というかトーマスに丸投げすればいい。発案者の俺は、あとは関与せず。楽でいい。

「だが他の連中への説明がなぁ。果たしてわかってくれるかどうか」

「それをなんとかするのがお前の仕事だろう」

「そうだそうだ、仕事しろ」

 コロニーのトップは、ご主人様と頭の二人。工場の方がどうなってるのかは知らないが、スカベンジャーのトップは頭だ。命令は避けられない。工事現場の指揮も大変だろうが、まあ仕事だ。頑張ってもらおう。

「てめえも仕事しろよ」

「今ここに居るのも仕事の内だ」

 ただ見ているだけでいいから、楽な仕事だ。今はコロニーの生活環境を改善するために提案しに来ているのは、スカベンジャーの仕事の一環。決してさぼっているわけではない。目を離しているのは連中が何かをやらかすような気配がないから。油断していると言えばそうだが。

「……ま、いい。俺は俺の仕事をするだけだしな。なんとか説得する。連中への説得は誰がする?」

「俺がやろう。暇そうにしてるし、ただ飯食わせてやってるんだから嫌とは言わせん」

「嫌と言ったらどうする」

「働かざる者食うべからず。いい言葉だよな」

 戦前の本には良い言葉があふれている。多くの本が戦火で焼失してしまったのは、本当にもったいない話だ。前に殺し合いをした死都に図書館があれば、もう一度行きたいもんだが。生きている内に機会があるかどうか。

「殺すのか」

「働かない人間をいつまでも置いておけるほど余裕はないだろう」

「それもそうだが。連中を殺したら、あっちの親玉が黙ってないだろ」

「一週間ほど監視を続けていたが、連絡を取っている様子はなかった。もしかしたら口減らしか、厄介払いなのかもしれん。まあ、どちらにせよ連中の親玉とはいつか殴り合うことになるんだし」

 こちらを潰そうという意思と、見下した目線を隠そうともしない要求が気に食わない。あちらのトップをぶち殺すのは決定事項だ。いつになるかはわからないが、いつか殺す。

「その話はまた今度だ。今はコロニーの治安維持についての話をしてるんだろう。クロード、最後にもう一度聞くが、連中に道路の監視を任せても問題ないんだろう?」

「大丈夫だとは思うが、一応部外者だし安全と確信したわけじゃない。監視の継続は必要だろう」

「よし。連中への監視は腹の誰かに任せるとして……あと、例の嬢ちゃんにも今回の話を伝えとけ。上に黙ってやったらまた怒られる。今は身内同士でいがみ合ってる場合じゃないからと理解してもらわないとな。あと、スカベンジャーのマスクと外套を渡して……新しく腕章を用意して……三日あればなんとかなるか」

「ごねたらケツ蹴って追い出すだけだ」

「じゃあこれで解散だ。それぞれやるべきことをやれ」

「アイサー」

 やる気のない敬礼をして、ガスマスクをつけて施設から出ていく。また忙しくなりそうだ。

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