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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
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第87話

サブタイは思い浮かばなかった。すまない。

 今日も無事、怪我をすることなく家に帰ることができた。当たり前のことだが、当たり前のことすら危うい状態ではとてもありがたい事だ。

 しかし、これからもう一仕事しなければならない。頭のところへ行かねばならないのだ。非常にめんどくさいが、俺はコロニー内の治安の悪化の影響を最も強く受ける、弱者の部類に入る。こう毎日毎日ゴミに襲われていては、仕事も生活もままならない。治安の回復は他の誰でもなく自分のために、最も優先して解決すべき案件だ。

「それじゃ、俺は頭に会ってくる。おとなしくしてろよ」

「あなたが居ないときに、私が何をするって言うんです?」

「ベッドにナイフを仕込んで、寝転がったときに刺さるようにするとか」

「しませんよ」

「結構。誰か来てもアンジー以外は入れるな、泥棒だから」

 スカベンジャーを相手に泥棒するなんて命知らずは、普通なら居ない。だがゴミならわからん。奴らは命知らずというか、それをしなければ死ぬというレベルの連中だから、可能性はある。

 奴らが罪に手を染める理由はわかる。やらなきゃ死ぬ。やって失敗しても死ぬ。やって成功したら生き残れる。なら、誰だってそうするだろう。

 エーヴィヒを家に放り込んで鍵をかけたら、アースを起動しに地下ガレージに潜る。生身での移動が危険なら、鎧を着て歩けばいい。後でメンテナンスするのは面倒だが、手間を惜しんで命を落とすのは馬鹿らしい。

「システムチェック……えっと、問題は……」

 端末と機体を接続して、いつも通り起動前のチェックを行う。画面上に緑色の文字の羅列が上から下に流れ、異常がないことを示して止まる。

「異常なし」

 コードを巻き取り、端末を片付けたら、装甲を開いて機体に入る。袖を通すと電源が入り、装甲が閉じて、目の前のディスプレインい光が灯る。

『こんにちは、どこへお出かけですか?』

「……喋った」

 そういえば喋ったな。高品質なAIが搭載されてるんだった。

『ええ、喋りますよ。喋りますとも。暇ですから』  

 AIにも暇という概念があるのか。移動時間は無心なものだから、暇なんて思わないが。

「鬱陶しいから黙ってろ」

『ひどいですね。お友達居ないでしょう』

「間に合ってる」

 画面を眺めてAIのオンオフスイッチを探すが、見当たらない。音声操作しかないだろうか。

「AIの発音停止」

『お断りします』

「生意気な機械だ」

『悔しかったら消してください』

「あー悔しい。悔しすぎて憤死しそうだ」

音声操作でもメニューでもオフにできないのではしょうがない。適当に相手をしつつ、頭のところへ行って帰ろう。

『いいですねえ。満足したので今日のところは黙っておいてあげます』

 絶対不良品だろう、この機体。それともこの前の戦闘の損傷でどこか故障したか。エーヴィヒに頼んで交換してきてもらおう。スペアの機体ならあるだろう。

『何かよからぬことを考えていますね』

「さあな」

 AIと話をしながらガレージを出て、シャッターを下ろす。開けたら閉めて、鍵もかける。防犯は大事だ、特に商売道具を盗まれるなんて死ぬも同然だからな。


アースに乗って街道を移動。やはり鎧があるとゴミも襲ってこない。チラチラと路地から顔を覗かせる奴はいるが、武装していないにも関わらず襲われることはなく、極めて安全に頭の居る建物へと移動できた。

『目的地ですか?』

「そうだ」

 一言だけ返事をして袖を抜く。電源が切れてAIも沈黙し、静かになった。やはりにぎやかより静かなのが一番だ。無駄な機能なんていらない。シンプルイズベスト。

「警備お疲れさん。今日もいい天気だな」

「クロードか。今日は何の用だ」

「仕事だよ。それ以外で上司と面合わせに来るわけねえだろ」

「だな。通っていいぞ」

 相変わらずのザル警備を声パスで通り抜け、中へと入る。そして奥には頭がいつも通りはげた頭を電灯で輝かせて待っていた。

「よう、頭。ちょっと時間あるか」

「どうした」

 暇そうだ。これなら少し話す時間はあるだろう。

「仕事の事だ」

「話せ」

「働き蜂の巣に大量のゴミが入り込んでる。監視の強化と区画間のフェンスの見回りが必要だ。でなきゃ治安の悪化は避けられん」

「まだゲートの修復が済んでない。手が足りん」

「修復に何か月かかってんだ。さっさと終わらせろよ」

「あほ、コロニー内の道路の修復、瓦礫の処理と同時進行だぞ。そんなに早く終わらねえよ」

「知ってる。そういうことで、人手不足を解消するための画期的な案を持ってきた」

「どんな案だ。予想はつくがな」

「多分予想通りだと思うが、ただ飯食い共を働かせよう」

 誰もが考える素晴らしい案だ。なぜ今まで誰も提案しなかったのか。発案者が責任を被せられるから、万が一のことを恐れて誰も口に出さなかっただけだろう。

 だが、俺の場合何があろうと治安の改善を果たさなければ命に関わる。そのためなら多少の責任は負おう。

「だろうな。信用の置けない連中だが、背に腹は代えられんし、居候を置きっぱなしはいい気がしねえ。どうにかしようと思ってたところだ。だが何かあったらお前が始末しろ」

「もちろん。責任を取って殺すか殺されるかする。さて、頭は許可してくれたが、ご主人様はどう言うか」

「ほっとけ。どうせ今の状況で手出しはできねえ。そうと決まればトーマスを呼んでこい。一応足の仕事に入るんだ、知らせとかないと怒る」

「無線で呼び出せばいいだろ」

「出ねえんだよ。わかったらゲートまで行け」

「へい了解。行ってくる」

 面倒だが、命令なら行くしかない。上司に逆らえないのは辛いなぁ。その内こいつにも寿命が来て、新しい頭に変わってもこき使われるのは変わらないんだろうなぁ……

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