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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
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思考

お久しぶりデス

 数日。一週間ほどだろいうか。その間、招かれざるお客様たちの監視に携わっていたが、その間に一切妙なことは起こさなかった。まるで道端に転がる小石のように、何も起こさなかった。何かを企んでいて、それを隠すために動かないのかと思うほどに。

 そしてかしらは報告をしている最中ずっと腕を組んで何事かを考え込み、時々うんうんと唸り声を上げては頭を捻る。

「奴ら、何考えてんだかなあ?」

 それがわかれば苦労しない。目的が読めるなら、こうして頭を悩ませる事もなくその目的を伝えたはずだ。

 もしも奴らの目的が侵略・略奪なら遠慮なく排除できるのだが、そうと決めつけるにはあまりに従順であり、無防備だ。援軍を待っている可能性も勿論考えたが、少なくとも監視している間には外部と連絡を取っているような素振りは一切見せなかった。 

「足と羽の仕事は、内外の敵の排除。考え事は頭がするものだろう」

 こっちに振られても困る、と返しをする。俺が考えてもわからないから頭に投げているのに、投げ返さないでほしい。頭はグローブ持っていても、俺は持ってないんだ。素手で弾丸は受け止められない。

「お手上げだ。案外何も考えてないのかもしれんな」

「さあなぁ」

 何か隠していたとして、聞いて答えてくれるわけもない。しかし、何か行動を起こされてからではまた面倒ごとが増える。被害が出たら復旧に手が取られて、ただでさえ人手が足りないのにさらに不足する。そうなると監視の目が緩まり、労働者たちがまた暴れだす……暴動だ。それを鎮圧したとして、また被害が出るし。空薬きょうが坂道を転げ落ちるがごとく、事態は悪い方へ悪い方へと進んでいく。

 自分の生活のためにも、それは避けなければ。決意を新たに、職務に励もうと心に誓う。

「引き続き監視を頼むぞ」

「アイ・サー。で、今日はもう帰ってもいいのか?」

「おう、帰れ」

 せっかく報告に来たのに、特別話すこともなくお終いとは……上司と話してたいわけではないが、こう何の収穫もないと何をしに来たのだろうという気になってしまう。もう少し話題はないのだろうか、ないのだろう。

 では帰ろうか。愛しのわが家へ。

「じゃあ、おさらば」

 ガスマスクをつけて、外套を着て外に出る。今日も空はスモッグで薄暗い、まったくいつも通りの世界だ。徒歩で家に向かう。



 そして何事もなく帰宅。すっかり我が家の住人になったエーヴィヒに出迎えられる。

「おかえりなさいませ」

「ただいま。何もなかったか」

 まるで家族のようなやり取り、何を考えているのかと頭を振って否定する。こいつは疫病神。家族などでは断じてない。今までも、これからも。

「はい、万事変わりなく」

 とはいえ、表情は変わらなくとも悪意の欠片もない声をかけられれば警戒心も多少は薄れる。

「そうか。留守番ご苦労」

 労いの言葉をかけて、ガスマスクと外套を脱いで壁に掛ける。少しで歩いただけなのに埃まみれだ、これではいくら洗っても仕方がない。ほうきで軽く叩き落としたら掃除機で吸い取り、あとは放っておいて冷蔵庫へ向かう。少し長話をして喉が渇いてしまった。ひんやりとした空気を顔に浴びながら、蒸留水を取り出して、ふたを開けて飲む。良く冷えた水が喉を下り胃に落ちていく

「ふぅ」

 ため息を一つ。それから、彼女に顔を向ける。

「お客様を見て、何か気付いたことはないか」

 以前はそうでもなかったが、利害が一致している今は積極的に情報を交換しておいて損はない。彼女なら、何か別の視点からの意見を持っていないかと。

「何も。考えが全く読めませんね」

 期待外れだ。ああ、いや。最初から期待してないから、期待外れもくそもないか。コイツも俺たちと同じく、連中の考えを読めないでいるだけ。

 ああ、それにしても完全にお手上げだ。大人しすぎて困ってしまう。俺たちを油断させるための態度なのか。本気で何もするつもりがないのを態度で示しているのか……後者とは思い難い。私の偏狭な常識が、その答えを否定している。

「どうでしょうね。案外、本当に何もしないのかも」

 そんな馬鹿なことがあるはずないと、鼻で笑う。根拠は、私の常識。コロニーの中という、狭い世界で育てられた常識という木。極めて限定的なものだが、その常識に従って行動すれば今まで間違いなかったのだ。今回も間違いないだろう。

「まあ、今日の仕事はおしまいだ。夜までは時間があるし、それまで暇になる……」

「それで?」

「図書館へ行こうかと思う。一緒に来るか?」

「デートのお誘いでしょうか」

 また馬鹿なことを。一人で家にいるのも退屈だろうと思って提案してやっただけだというのに。

「行くのか、行かないのか」

「行きますよ。退屈なのは嫌ですし」

「結構。じゃあ準備をしろすぐに出る」

「私も出るだけです。早く行きましょう」

 腰に二本ほど水筒をぶら下げて、外套とガスマスクをしっかり装備し、エーヴィヒと一緒に外に出ていく。すっかり隣に居るのが自然になってしまったが、俺とコイツの関係は、果たしてこれでいいんだろうか。

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