表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
81/116

日常

なんでもない日常なのにこうも筆が進む

もう日常だけ書いていたい

 一週間分の備蓄。今の価格でこれを買おうと思ったら、一度の戦闘で使う弾薬が買えてしまう。果たして食い物が高いのか、弾薬が安いのか。

 それはともかく、得をしたことは確かなので少々気分がいい。ちっぽけな幸福だが、なかなか有ることでもないので噛みしめておく。

「クロードさん」

 ……もう少し余韻に浸っていたかったのに、嫌いな奴に声をかけられてはそれも台無し。

「なんだ」

 不機嫌さを隠すこと無く声に出す。なんの用もないのに話しかけたのなら、一発くらいは殴らせてもらう。

 声を聞いた彼女の表情、様子はいつもと変わらず。この仮面のような顔の下で、一体何を考えているのやら。

「かなりの量がありますが、どうやって片付けるんです?」

「食料は冷蔵庫。衣料品、医薬品はそれぞれ棚がある。弾薬はガレージに。迷うことはないだろ」

 食料と医薬品は、時間経過で劣化、腐敗する事があるから、古い物を引っ張りだして、新しい物を奥に詰めていく必要がある。そうすれば古い物を先に使うことになるから、腐った合成食料を食う事故も無くなる。健康に気を使っている俺には、そういった事故は許容できることではないので、二度目が無いようそうしているのだ。

「量にしても、詰めれば入る」

 食料の入ったかごを冷蔵庫の前に置き、扉を開く。中身は水以外空っぽ。一番上の棚だけは水のために空けておいて、その下に次々と食料を並べていく。慣れた作業、数分とかからずに全て放り込めた。ただ、二人分の食料はやはり多いのか、少々キツイ。これではしっかり冷えないだろう。冷蔵庫を、もう一周り大きなものに買い換えようか。

 しかし、エーヴィヒがいつまで居候するかわからない。すぐにいなくなるのに買い換えては全く意味のない出費になってしまう。

「ところでお前、一体いつまでうちにいるつもりだ」

「いつまででしょうか。あなたの寿命が尽きるまでかもしれません」

 今まで何度か聞いたが、つまらん冗談だ。冗談でないとすれば尚更つまらん。とりあえずすぐに居なくなるわけではないのだし、交換も考えておこう。いつ買いに行くか。もうすぐ新しいお客様も来ることだし、そうなれば忙しくなる。早いほうがいいが、今日はこの後の整理がある。終わる頃には外も暗くなる。明日に使用。

「どうしてそんなことを聞くんですか?」

「二人分となると冷蔵庫がパンパンでな。もう少し大きなのを買おうかと」

 幸い我が家は置き場に困ることはない。運搬にはアースを使えばいい。修理屋にもらったアースの試運転だ。

 そこまで考えて、ふと思った。

「お前のために一体いくら金を使わなきゃならんのだろうな」

「使わなくてもいいんですよ。餓死しても次が来ますから」

「死人がウロウロしてたら気持ち悪いだろ」

 それに、同居人がやせ細っていくのに自分だけ飯を食うというのも、元々まずい飯がさらにまずくなる。これは良心が痛むからという理由じゃなく、単純に不快だから。

 せめて何か対価を持ってきてくれれば、もう少し快く受け入れてやってもいいのだが、それすらもない。戦力として見ても、そこまでの価値はないし。投資にしては割にあわない。かといって情婦にする気にもならないし。さて、どうしたものか。

「とりあえず手伝え。飯と宿の対価だ」

「わかりました」

「医薬品はそっちの引き出しに入れろ。同じ品で揃えてな。衣類は俺とお前のを分けて適当に突っ込んどけ」

 軽いものは任せて、自分は重量のある弾薬を地下に運ぶ。壁についた穴、ダストシュートを改造した、簡単なエレベータ……のようなものに弾薬を台車ごと押し込み、傍にぶら下がっているチェーンを一度引いて、放す。これでストッパーが外れて、弾薬を載せた箱が重力にしたがって落ちていく。下の階には分厚い衝撃吸収材が敷かれているが、耳をふさぐ。ガシャン、と手のひら越しに衝突音が耳を貫く。

「ひゃっ!?」

 同時に後ろで小さな悲鳴と、ビンの割れる音。どうせ音に驚いて落としたんだろう。雑巾、箒、ちりとりの掃除三点セットを壁から取り、エーヴィヒの方へ投げて渡す。

「すみません」

「気にすんな。どうせタダだ。さっさと片付けたら寝てもいいぞ」

 そのために安物だがマットレスを一個買ってやったのだ。いつまでも床で寝させるのが哀れになったわけではない。先日二度の戦闘の報酬だ。彼女はスカベンジャーではないから、いくら戦おうと給料は出ない。タダ働きだ。コロニーの外敵を排除するのに一役買ったのだから、少し位金を出してやればいいものを、ケチなハゲ頭は何も出してやらなかった。

 それが不憫に思えたから、今日の買い物で浮いた予算を少しだけ回してやったのだ。家電と違って、寝具ならこいつが使わなければ俺が使うし。すぐ居なくなっても損にはならない。


「そっちを手伝わなくてもいいんでしょうか」

「その細い腕で弾を持ち上げられるか? 邪魔になるだけだ、言うこと聞け」

「そう仰るのなら、従います」

「結構。じゃあ任せた」

 扉を開いて、階段を降りていく。弾の整理は少々面倒だが、面倒だからこそ後回しにせず早く終わらせておくべき。後回しにすれば余計に面倒にあんって、結局放置してしまいがち。どうせ来週までにはヤラないといけないことではあるが、いつ予定が入るともわからない。なら今日やっておいたが方がいいだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ