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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
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買い物

サブタイは使いまわす

 買い込んだ資材が明らかに目減りしてきたのを見て、久々に平和な買い物にでも出かけようと決め。エーヴィヒを連れて、いつものショッピングモールへとやってきた。

 建物の中は、マスク無しでも呼吸ができる程度には空気が綺麗だ。それでも、灰やガスの香りは強く鼻を刺激するが。

 本日のお目当ての品である、マスクのフィルターや、合成食料。石鹸などを売っている日用品のコーナーへ立ち寄ると、なんとどれも品薄……どころか、品切れさえ目立つ始末。おまけに値段も普段の倍近くまで上昇している。

「……参ったな」

「前よりも高くなってますね」

 買いだめする程の品が、店にない。しかもその少ない商品の値段さえ非常に高額。弾薬補給もしようと思っていたのに、これでは予算を大幅に越えてしまう。しかし、買わなければ今後生きていけないのだから、買うしか無い。素晴らしい商売だな畜生。

「非常事態だからな。コロニーの復旧に手を取られて工場の生産量も落ちてるし、買い込む連中も増えるしで、値段も上がるさ」

 聞き慣れた声に振り向くと、蛍光灯の光が直接目に入るような眩しさに目がくらむ。

「まぶしっ」

 つい、口に出た。そして硬い拳で頭を叩かれた。痛い。

「痛えっ!」

「誰がハゲだ。殴られてえのか」

「先に殴ってんじゃねえよ馬鹿野郎。英雄様に何しやがる!」

 自分で言うのも何だが、俺の上げた戦果はスカベンジャーで一番でかいと思う。それをこんなにひどい扱いするなんて信じられない。どうかしてる。

「お前の戦果は俺の整備有ってのことだろうが。つまり、真の英雄は俺様ってことだ。もう少し敬え」

「……いや、お前に整備してもらった機体はほとんど使ってないぞ。ご主人様に貸してもらったのしか使ってない」

 大物を潰したのも、結局生身だったし。こいつの整備が役に立った事は、今までで何度あった。エーヴィヒとの最初の殺し合い位だろう。高い金を払って、それに見合う成果を上げたことは、ほとんど無い。

 命の対価として高い金を払っていたからこそ、生き残れたとも考えられるが。否、そう考えなければ割にあわない。

「使えよ馬鹿野郎」

「仕方ないだろ。ブサイクで下手くそな女と、上手い美女と。二人居たら後者を選ぶに決まってる。お前だってそうだろ」

「それでも、俺の整備した機体を使ってもらいたい」

「俺が聞いてるのは、お前がわざわざブスを選ぶかどうかだ。話を逸らすな」

「そりゃ美女に決まってんだろ。誰だって死ぬのは御免だ」

 そのくせ、他人には性能の劣ったのを使えと。ひどいやつだ。しかし、下手に他人に対し思いやりを持った人間よりは、こういった自分の利益を追求する利己的な人間のほうが、裏を隠していない分、気を使う必要がなくていい。相手の言動一つ一つを注視して、考えて、相手の思考を読もうとするなんてエネルギーの無駄遣いでしか無い。そんなことに体力を使うなら、今後起きてほしくない実戦のためのリハビリと訓練をした方が何倍か有意義だ。

「それで、お前は何をしに来たんだ」

「損な買い物をするお客様に、オトクな情報を届けに来た」

 目的を考えると、簡単に察することが出来た。つまり、こいつの店で買物をしろということだな。

「スカベンジャー用の商品は、ほぼ俺が買い占めた」

「……道理で高いし品薄なわけだ」

「ちなみに、定価の五割増し」

「死ねよ」

 ぼったくりな値段に、思わず。嫌、思った言葉がそのまま飛び出てきた。殴りたくなるほどじゃないが、腹が立つ。しかし商機を逃さない商売人としての行動は正しい。利益を求めて行動するのは、正直でいいことだ。

 エーヴィヒや、ご主人様に比べれば、まだわかりやすい。

「まだ死なねえよ。もっと金をためてからだ」

「そんなに金ためてどうするんだよ。地獄に金は持っていけねえぞ」

 それほど金を持っていて、一体何に使うのか。生活の質を向上させるにも限度があるだろう。

「いい女を買う」

「なるほど」

 一度買うという意味ではなく、一生を買うという意味での発言。それならば、求める容姿のレベルにも寄るが結構な額が必要だろう。買った後も養うことを考えれば、いくらあっても足りない。

「できれば、アンジー並の女がいい」

「へぇ……ならアンジーを口説く方法教えてやろうか」

 これはチャンスだ。もしこいつがアンジーに気があるのなら、止めはしない。むしろ喜んで応援する。上手くすればあいつの押し付けてくる人肉料理から逃れる事ができるし、こいつからも感謝されて、今後の整備を多少割引させられるかもしれない。一射二殺。かなりお得だ。

「本当か? ぜひ教えてくれ!」

 突然態度を変えて、俺に懇願する修理屋。この情報は使えるな、と想い、少し吹っかけてみることにした。使える物は使わないと勿体無い。

「教えてもいいが、一度買い物をタダにしろ。情報の対価だ」

「……タダ? そりゃさすがに無理だ」

 まあ、そうなるだろうとは思った。一度の買い物とは言ったが、量までは指定してない。店の商品を全部買い占めて、これをタダにしろとも要求できるしな。YESと言えばそうするつもりだった。

「じゃあ、この情報にいくら出す」

 こいつにとって、この情報が価値あるものなら、それに釣り合うだけの額を出すだろう。あまり安いようなら、それだけの価値しか無いってことで、教えなくてもいいし。

「……わかったよ。合成食料とフィルター一週間分。タダで持っていけ。ただし弾薬は単価が高いからダメだ」

「二人分か?」

「畜生わかったよ! 持っていけよ! せっかく一儲けできると思ったのに……」

「いいじゃねえか。いつも俺から金巻き上げてばかりなんだからよ」

「あれは適正価格だ」

 よく言う。他にまともな整備屋が居ないからこその商売だろうに……まあいい。買ってくれるってことだしな。

「じゃあ、情報を寄越せ」

「おう。アンジーを釣りたいなら肉だ。人肉」

「マジか……」

「マジだ。人肉を用意して持っていけば、すぐに食いつくと思うぞ」

 美味いのかどうかは知らないし、知りたくもないが、あいつは人肉が好きだ。いつもどこからか調達してきた肉を料理して食っている。

「……まあ、わかった。約束は約束だ。後でうちの店に来い」

「おかげで得したぜ。ありがとよ」

「畜生。大損だ」

 おかげでこっちは得をした。持つべき友はやはり美人の方がいいな。他のやつに情報を渡せば、少ないが儲けが出る。

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