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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
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慣れ合い

「起きろ」

「ふがっ!?」

 気持よく寝ていたら、腹を踏まれて叩き起こされた。情けない声を上げ、腹を抑えながら体を起こす。痛かったわけじゃないが、気分のいい目覚めではないので、不快な目覚めをプレゼントしてくれた友人に抗議の目を向ける。

「こんなところで寝てると、アンジーに食い殺されるぞ」

「ああ、それは怖いな」

 この前も目玉を食われたし。これ以上食われたら本気で困るので、立ち上がって伸びをして、体をほぐす。目の痛みは大分治まったし、めまいもしない。体の調子は悪くない。

「ちょっと、私をなんだと思ってるの。わざわざ友人を殺して食べようなんて思わないわよ」

「じゃあ、この前俺の目玉を食ったのは?」

「いいじゃない。どうせ使いものにならなかったんだし、体から切り離した後だったでしょ」

 確かに一理ある。訳がない。そういう問題じゃない。こっちの気分の問題だ。どういった理屈をこねても、俺が納得出来ないなら、俺の気分で是非を決める。目玉については納得出来ないし、気分も悪いからゆるさない。使い物にならないなら食う? だったら俺が弱ったら食うのかと。そういう考えだって起こる。

「もし食おうとしてみろ。その時は返り討ちにしてやるからな」

 格闘はできない。こいつの格闘戦能力の高さは知ってるし、何より今は片目だ。両目揃ってたら百に一は勝ち目があったかもしれないが、今じゃほぼゼロだ。だが、片目あれば銃は撃てる。銃なら弾一発あれば人を殺せる。なんて心強い。

「だからやらないって言ってるでしょ。喧嘩撃ってるの?」

「やめてくれ。俺と本気で喧嘩して勝てるわけ無いだろ」

「どっちが」

「俺が」

 重ねて言うが、今の状態で格闘はできない。片目だと間合いがわからないから攻撃を避けられないし、当たらないしで一方的にボコボコにされるのがオチだ。間合いが命の格闘戦で、間合いがわからないなんて致命的すぎる。

「仲がいいのですね」

 今度は、俺たちのやりとりを見ていたエーヴィヒが口を開いた。

「そこそこ長い付き合いだからな」

 ガキの頃から、というわけではないが。スカベンジャーに入って、すぐに知り合ったのは覚えてる。ご近所ということで一応挨拶に行ったら、いきなり人肉を食わされそうになったのは衝撃的だった。

「最初にあった時の話だけど、クロードったらいきなり告白してきたのよ。信じられる?」

「……少し、信じがたいですね。そういうことをするような方には見えませんが」

「信じなくていいぞ。嘘だからな」

「ちょっと、ネタばらしはやめて」

「黙れ。質の悪いデマを振りまくんじゃない」

 俺は人肉も嫌いだが、もう一つ嫌いものがある。質の悪いデマだ。どちらがより嫌いかと言われれば、後者。前者は健康以外に害はないが、後者はそれ以外、下手をすれば形を持った害を被る事になりかねない。そうなるのを恐れて、デマが収まるまで羽で活動しようと思っていたら、こうなったわけだし。まあ、噂があってもなくても、今は変わっていないだろうが。コロニー襲撃と、帰還中のスカベンジャー襲撃事件の原因は、また別にあったんだし。

 だがそれでも、噂を最初に流してくれた奴にはお礼をしないとけない。一体誰があの噂を流してくれたのか、帰ったら調べてやろう。それから一発殴ってやる。

 まあ、殴る以前にもう死んでるかもしれないが。

「それはともかく。今回は珍しく生きて戻ってきたな、エーヴィヒ」

 いつも死んでばかりだから、今回も死ぬだろうかと思っていたが、今回はなんとか生き残れたらしい。

「はい。なんとか」

 返事は、相変わらず無表情かつ、抑揚のない声。しかし本当に珍しいこともあるものだ。死ぬなと言っても死ぬのに、どうして何も言ってない時には無傷で帰ってくるのか……理由はわかってるが。

「今回は相手が弱かったからな」

 今回に限っては、今までの奴らよりも弱かったからだ。動きで言えば、量産機でも前の連中の方がずっと良かった。エーヴィヒと同じように、機体性能を活かしきれていない。そう感じた。訓練期間は短く、実戦経験はゼロか一か。きっとそんな感じだろう。

 俺は片目が無くて、左からの奇襲に見事ひっかかって、しかも機体の片腕を失った。敵からすれば、絶好の獲物だったろう。なのにむざむざ撤退を許すなんて、実力不足の証拠に他ならない。

 そしてそんな奴らにすら負けた俺は、もっと雑魚。仕方ないとはいえ、少し悲しい。帰ったら本当に引退したい。

「ところで、ババアはどうした。キッチリ殺してきたか」

「もちろんだ。俺の機体の足を見ればわかる」

 ぎょろりと片目を動かして、トーマスの機体を見る。装甲は煤で汚れ、弾丸を弾いた跡か、線状の傷がいくつも走っている。視線を下に動かす。両足とも土で汚れているが、片足だけ赤黒く汚れている。血と、土が混ざり合った色。

「宣言通り踏み潰してきた。命乞いしなかったのが残念だが、これで一応仇は取れたわけだ」

「おつかれさん」

「あと、お前の言ってた空気清浄機と、ついでに投げ捨ててた盾も拾ってきた」

「それは助か……る?」

「どうして疑問形なんだ」

 どうして、と言われても。前線から引くことばかり考えているのに、武器が戻ってきて喜ぶというのはなにか違うような気がするからだ。

「ねえクロード。戦ったらお腹減ったから、エーヴィヒちゃん食べてもいい?」

「知るか。本人に聞け」

「嫌です」

 即座に当たり前の返事があった。それはそうだ、俺だって体の一部を食われて、こいつの気分の一片を味わった。最悪な気分だ。それがわかってて、食っていいかと聞かれて、はいと答える奴なんて居ないだろう。

「馬鹿なこと言ってないで、さっさとコロニーに帰るぞ。居住車両に移れ」

「……そうだな。早く帰ろうぜ」

 こんな馬鹿なやり取りにも疲れた。早く帰って、頭に今後の方針を聞いて、ご主人様に壊れたアースを返して。そうすればしばらくは平和に過ごせるだろう。

 引退なんて贅沢は言わないから、せめて何日か休みがほしい。この頃少し、働き過ぎだ。

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