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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
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休憩

 車内に戻って少しの時間が経ち、やがて銃声がやんだ。こっちの勝ちで決着がついたのだろうと思い、居住車両で一人のんびり仲間の帰りを待つ。格納車両のハッチが開き、中へアースが入ってくる足音が聞こえる。それからさらに少し待つと、生身の足音がこちらに入ってきた。

「おつかれさん。早かったな」

 足音から誰かを判別できるほど耳は良くないが、状況からして敵ということはまずないので、ねぎらいの言葉をかけておく。

「いや、これから弾補給して第二ラウンドだ。まだまだ暴れるぜ」

 足音の主はトーマスだったようだ。

「そうか」

 俺もまだ暴れ足りないが、ここは一応生存不能地帯。生身じゃ活動できないし、アースが無事だったとしても目が痛むからあまり動きたくない。我慢できるかと思っていたが、一度意識しだすとなかなか気になって仕方がない。こんな状態で出撃しても、多分横から不意打ちされても気付かずにそのまま死んでしまうだけだろう。おとなしく引きこもっているのが懸命だ。

「ああそうだ。良い事教えてやる。中央のでかい建物の裏に、ババアの家がある。そこに良い空気清浄機があるから取ってくるといい。金になるぞ」

「そりゃいいこと聞いた。じゃあついでに貰ってこよう」

「俺はゆっくり待たせてもらう。機体も体もボロボロだしな」

 仇討ちに参加できないのは残念だが、結果が同じなら文句はない。にくいクソどもが絶滅したという結果さえあれば、参加できなくとも満足できる。

「まあ、その前にトイレだ」

「言わんでいい」

 トーマスが横を通ってトイレに入ったら、冷蔵庫から合成食料を取り出して、蓋を開けて口にふくむ。相変わらず、吐き気を催すほどマズイ。それを我慢して飲み込む。片目が潰れても味覚は変わらない。当たり前のことだ。これでまずくても、体に良ければ文句はないのだが、ただの栄養食品というのがなんとも。食事が人生の楽しみとまで言われていた昔の人間が心底うらやましい。

「ああ、スッキリした」

 ほんの数十秒程度で出てきたのを見るに、小さい方だったか。

「じゃ、もう一回行ってくる」

「不意打ちには気をつけろよ」

「大丈夫だ、問題ない」

 無性に心配になる言葉を残して、格納車両へ移っていくトーマス。それを見送ったら、またイスに座り直す。

「しばらく暇になるな」

「じゃ、俺と話でもしようぜ」

 運転手が前の車両から顔を覗かせる。それはいいと思い、一度頷いて返事とする。

「あの白い子の具合はどうなんだ? やっぱ小さいから締りもいいのか?」

 何を話すのかと思えば、いきなりストレートな下ネタ。そういえば、この前死都に行った時の運転手もこいつだったな。こいつの頭の中にはそれしかないのか。

「そもそもヤってない」

「……もしかしてインポかお前」

 冗談にしては聞き捨てならない。腰のナイフを抜いて、黒く塗った刀身を見せつけながら、運転席に詰め寄っていく。

「待て待て! 落ち着けって。図星だからって怒んなよ」

「撤回するなら今の内だぞ」

 運転席に到着して、空いた方の手で肩をつかむ。軽く微笑みながらナイフの腹を頬にぺたぺた当てて遊んでやると、相手も笑い出す。

「へへ、冗談だ冗談。しかし、あのガキとアンジーと、両方いい女なのにその両方に手を出さないのはなんでだ。まともな男なら我慢できんと思うが」

「エーヴィヒは殺し屋。アンジーはカニバリスト。これで手を出す気になる奴は死ぬ直前だろうさ。まともな状態なら、あいつらに手を出すくらいなら多少ブスで高くてもそこらの女を買う」

 性欲と命。秤に乗せたらどっちに傾くか。明日死ぬってことでもなければ、まず命のほうが重い。この判断には何もおかしい所はないはずだ。

「俺は美女を抱いて死ねるなら満足だがなぁ」

「待て。お前に死なれちゃ困る。数少ない装甲車の運転手なのに」

 装甲車の運転ができる人間は、アースの操縦者よりずっと数が少ない。こいつらが死んだら一切外に出られなくなるから、ある意味では頭より重要で、守るべき対象だ。それに、今日ここでミュータントを皆殺しにするのだから、これから外地探索の幅も広げなければならない。運転手の重要度はより一層増してくる。

「運転なんて簡単なもんだぞ。アースで殺しあうほうが余程難しい」

「いやいや。こんなでかいものを思うように動かす方が難しいだろ」

 アースで殺しあうのは簡単だ、基本的に体を動かすのと変わりない。生身より少しだけできる事は多いが、生身の喧嘩とそう変わらないはずだ。

「俺は喧嘩が苦手なんだ」

「……それでどうしてスカベンジャーに入れた」

 確か、足と羽には軽くだが格闘訓練という名目の殴り合いが定期的にあったはずだが。それである程度鍛えられてるはずじゃないのか。

「ガキの頃、リフトに乗って暴れたらスカウトされた」

「よく殺されなかったな」

「親がスカベンジャーだったからな。殺される寸前で止められたんだよ」

 スカベンジャーなら、子が殺されるのを止める事もできると。なんてマトモな親だろうか。

のんびりと会話していると、外からまた銃声が聞こえ始めた。アースがさっきので全部なら、今から行われるのはただの虐殺。きっと地獄のような光景が出来上がるに違いない。ああ、参加できないのが残念でならない。

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