出撃
更新が遅くなってすみません
遅くなった理由は特に無いです
あのクソガキを研究所に売り渡して、一晩経った。売る前にちょっと殴って情報を吐かせてみたが、やはりガキはガキ。大した情報なんて持ってなかった。傷がついたせいで売価も落ちたし、結局殴った分だけ損だった。
「おはよう警備員君」
「おう、早いな。それで誰だ?」
どうもこいつはいつもの警備員とは違うらしい。いつものなら、顔パスならぬ声パスで通れるのに。身分証を提示して、改めて所属を明らかにする。
「足の三十二番。クロードだ」
「ちょっと待て、確認する」
ポケットから端末を取り出し、画面に触れて入力していく警備員。
「いつもの奴はどうした?」
「ああ、どうにも軽く体調を崩したらしくてな。家で薬飲んで寝てるよ。それで俺が代わりに出ろと言われて立ってる。警備隊長が軽微な体調不良、どうだ。面白いか?」
「ああ、面白いな。お前の脳みそは」
まさか殺し合いに行く前に、これほどつまらない冗談を聞かされるとは思わなかったな。
「褒めてくれてんのか?」
「いや、貶してる。通っていいか?」
「ああ、いいぜ」
入り口を塞ぐように立っていた警備員が横へ退く。その横を通る際、労うように肩を軽く叩いて中へと入っていく。
一枚目の扉をくぐり、汚れた防護服とマスクを脱いで、もう一枚の扉を潜り、中へと入る。そこには既に昨日居たメンバーと、アンジーも揃っていて、遅いと言わんばかりの目線が突き刺さってきた。
「朝に来いとは言われたが、何時に来いとは言われてないぞ。これでも早く来たほうだ」
堂々と視線の中へ飛び込んでいき、ご主人様の前に進む。
「出撃しよう。早く連中をぶち殺したい」
心からの本音を吐き出し、正面から睨みつけるように目を見る。すると薄気味悪い笑みを浮かべて受け流されて、俺の横を歩いて通り抜けた。
「やる気はあるようだね。大変結構。では行こう、裏に装甲車を止めてある」
その後ろをついて行こうとする。
「待て」
すると頭からの一声がかかり、一旦足を止める。
「生きて帰れ。これ以上部下を失うと、スカベンジャーも体制を維持できなくなる」
「アイサー」
ミュータントの集落には、どうせ大した戦力はないんだろう。とタカをくくるつもりはない。骨董品の性能に関しては、実際に乗っていた自分が一番良く知っている。競技用と同程度、一部の性能はそれすら上回る。そんな機体が複数。それだけで十分脅威だ。もしかすると他所のコロニーの戦力をかくまっていないとも限らないから、当然警戒はしておく。
防護服とガスマスクを着用しなおし、ご主人様を追って外に出て、体育館の裏手に移動する。装甲車が停めてあったので、開いているハッチから乗り込むと、中には四機のアースが並んでいた。フレームは同じで、武装だけが異なる。
「昨日、無断ではあるが貴様らの機体を家に持って帰って、武装とデータを取らせてもらった。個別に調整してあるから、前の機体と同じように動かせるはずだ。性能はもちろんこちらのほうが上だがな」
……しまった。結局壊れたアースは装甲車に載せたままだった。データを取ったということは、多分切り札の事も知られてしまっただろう。
「しかし、光学兵器がまだ残っていたことには驚いた。こんなに煤で汚れた世界では使いものにならないから、消えたものとばかり思っていたよ」
「そうかい」
ああ、最悪だ。やっぱり知られてた。知られてない方が、また敵対することになった時やりやすいのに。
「なかなか懐かしいものを見せてもらった。爆弾を抱えていなければ、観賞用に飾って置いても良かったのだが。処分させてもらった」
「勝手に人の物を……」
命がけで仕事をして手に入れた貴重品を勝手に処分するなんて。いくら何でもひどすぎやしないか……いや。酷いのは元からだな。いきなり殺そうとしてきたり、人の家に殺し屋を送ってきて住まわせたり。嫌がらせのレベルならアンジーの人肉料理にも勝る。
「なんだ。あのまま出撃すれば、自分が死ぬことになっていたのだぞ?」
「アレのお陰で何度も生き残れたし、てめえには何度も命を取られかけてる。仮にお前のいうことが本当だとして、一度命を助けた程度で処分したのを帳消しにできるかアホ。もしそう思ってるなら脳みそ入れ替えてこい」
「犬が主人に噛み付くか。どっちが上か、教育して欲しいのか?」
「待ちなさいよ。これから殺し合いに行くのに、身内同士で殺しあってどうするのよ」
一触即発のにらみ合いが起き、その間にアンジーが割って入って、喧嘩が始まる一歩手前の、にらみ合いがしばらく続く。
「お前との話は帰ってからだ」
「帰ってこなくていいぞ」
「フン、五体満足で帰ってきてやる。せいぜい怯えて待ってろクソ野郎」
男じゃなくて女だから、クソ野郎じゃなくてクソアマか。どっちもあまり変わらないな。
「威勢だけはいいな。期待せずに待っておく。じゃあ、行って来い」
相変わらず偉そうな態度で装甲車から降りていくご主人様の背中を、帰る途中でゴミ化働き蜂に襲われて食われたらいいのに、と思いながら見送る。見えなくなったところでハッチを閉じ、運転席に車を出すようにと、声を出す。すぐにエンジンが始動して、車が少しずつ動き出し、コロニーの外へ続く道を進み始める。
「あまりご主人様を怒らせないでください。帰ってから折檻されるのは私なんですから」
「知るか」
こいつがどれだけ苦労しようと、俺に関わらなければ興味ない。興味の持ちようもない




