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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
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帰還

お待たせしました

 第69話


 拷問で情報を搾れるだけ搾って、三日が経ち。俺達はようやくコロニーに帰還することができた。さて、往復一週間かかった今回の旅だが、正直二度としたくない。片目は潰れるし、仲間は死ぬし、敵は殺したし。実に散々だ。可能ならば残る人生を全てコロニーで引きこもって過ごしたい気分。

 そんな気分で、頭の前に立つ。トーマスと、俺と、二人だけ。アンジーはコロニーに戻ったら真っ先にアースに乗り換えて、自分の家にシャワーを浴びに帰っていった。

 そして、トーマスが珍しく真剣な表情で、頭の前に出る。

「今回の遠征の報告をします。今回の遠征の参加者の内、自分と、アンジー、運転手以外のメンバーは全て死亡。クロードが片目を失う重傷。アース、装甲車の損害は、クロードの機体が小破、お嬢さんの機体が全損。遡行者は内装が汚れた程度。以上が被害報告になります」

「戦闘要員、何人だったか。覚えちゃいねえが、それで帰ってきたのが三人だけか……歴史に残る大敗だな」

 改めて聞くと、これ以上無くひどい状態だ。

「だが、まあよく帰ってきてくれた。装甲車も無事だしな。で、成果は」

「襲ってきた敵を、女ひとり残して皆殺し。相手の装甲車から使えそうな部品をありったけぶんどってきた。アースも損傷の少ないのを、積み込めるだけ積み込んできた。どれも貴重な電子機器ばかりだ、多分、今までの遠征の中で一番の成果だと思う」

「一番の被害を受けて、一番の成果か。随分と皮肉だな」

 全くだ、と口には出さずに同意する。しかし、こんな被害が出るならいっそ遠征などしないほうが良かったのではないか、とも思う。だがそれは間違いだと、すぐに撤回する。遠征に出なければ、あの連中は今度はコロニーに直接押しかけてきていただろう。ババアのことだ、コロニーの位置だって教えてるに違いない。そうすると被害はもっと拡大していたはずだ。

「で、その敵を全滅させたのが、クロードとあのメスガキ二人って話だったな」

 急に名前を呼ばれ、顔をあげる。

「……何か褒美をやらなきゃならんな。だが、俺が他人に渡せるもんなんてこの椅子くらいしかねえしなぁ」

「いらん」

 引退したいのに、どうしてそんな気苦労の多そうなイスに座りたくなるものか。なるわけがない。

「そんなものより、引退しても死ぬまで楽して暮らせるだけの金をくれ。見ての通り、もう戦える体じゃない」

「あん? 馬鹿野郎。たかが片目が潰れただけじゃねえか。手足があるなら戦えるだろう。まだまだ働いてもらうからな」

 予想はしていた。だが、こうなってまで働けと言われるとやはり辛い。できれば楽をして暮らしたいというのに。

「先の戦争で手足がぶっ飛んだ奴も大勢いる。目玉一つが何だってんだ」

『他人は他人だろ。知ったことじゃねえ』

 なんて言えればどれだけ楽か。このコロニーにはもうまともな戦力は殆ど残ってない。前回の戦争で大勢死んで、今回の遠征でもまた沢山死んだ。ここで俺一人が脱落しようがすまいが、次は耐えられないだろうが。それでもあるに越したことはない。

 頭の言うとおり、目玉一つ潰れていても、アースを動かすのは手足があればできる。つまりは、戦えるということだ。戦わなければコロニーの明日はない。コロニーがなくなれば、待っているのは死だ。死にたくないなら、戦うしか無いわけだ。

「わかってる」

 だから、そう返事をする。

「すまんな」

「頭が謝ることじゃない。悪いのは、元凶は、ミュータントのクソババアだ」

 全ての元凶。あれをどうするのか。まさかとは思うが、タダで済ますつもりではあるまい。流石にそれは頭でも許さない。

「ケジメはつけさせる。今回の件は俺も腹に据えかねてる。いくらお客様でも被害が利益を上回ったら、もう見限るしかない」

 その言葉を待っていた。

「だから今まで散々言ってきただろう。奴らは我らの敵だと。今更になって気がついたのか? 全く貴様は昔と変わらないな。救いようのない愚かさだ」

 後ろから、聞いた覚えのない女の声がしたので、振り返る。建物の入口からエーヴィヒを連れた黒髪の女が入ってきていた。そしてそのまま真っすぐ頭の方へと進んでいく。

 トーマスが拳銃を向ける。俺も釣られて、拳銃を抜いて、女の方に向ける。

「……ご主人様じゃねえか。よくこんな汚い場所にいらっしゃったな。トーマス、クロード、銃を下ろせ」

「了解」

 言われたとおり、セーフティをかけてから腰のホルスターに銃を仕舞う。ご主人様、と言ってたが。俺が前に見たのは太った男だった。エーヴィヒと違って、男女の体のスペアでも用意してあるのか。

「久しぶりだな。その姿を見るのは何年ぶりだ?」

「6か、7年ぶりくらいじゃないか。ともかく、こうなったのは貴様が欲を出してあの薄汚い連中と取引を続けてたからだ。奴らは30年前も裏切ったというのに」

「そんなに昔の話は覚えちゃいねえな」

「貴様が足を失った事件だろう、忘れているはずがない」

 どうやら頭とご主人様は、俺が生まれる前からの付き合いらしい。そして、生まれるより前に何かミュータントと衝突があったようだ。まあ、俺の知ったことじゃない。昔話なんてどうでもいいから、さっさと命令を出してくれないだろうか。殺せというなら殺してくるし、捕まえて拷問しろというならそうしてくる。興味のない話を延々と聞かされるほど辛いものはない。

「クロードさん」

「あ?」

 いつの間にか横に立っていたエーヴィヒに目を向ける。

「よく帰ってこれましたね」

 相変わらずの無表情かつ、平坦な声。どういう意図の質問かが全くわからない。生還したことを喜んでいるのか、悔しがっているのか。

「運が良かった」

「それだけで生き残れるほど、現実は甘くないでしょう」

「なんだ。お前のおかげだ、とでも言って欲しいのか?」

「半分はそうではないですか?」

「……まあ、そのとおりだ。感謝はしてる」

 俺が言ってもそうは見えないかもしれないが、今度ばかりは本当に感謝している。こいつの手助けが無ければ、俺はきっと死んでいた。それは認める。

「ではお礼の言葉をください。それで満足しますから」

「安上がりだな……ありがとう、これで満足か?」

「はい。満足です」

 それにしても、まさかこいつに礼を言う日が来るとは思わなかった。最初は殺されかけて、殺し返して。関係の始まりとしてはこれ以上ないほど最悪だったのに、いつの間にこれほど仲が進展したのだろう。気が緩みすぎだな。

「ところで、その包帯の下はどうなってるんですか?」

 左目に巻かれた包帯に注目され、そう聞かれた。

「破片が刺さって、使い物にならなくなった。殺すなら今だぞ」

 挑発。これで乗ってくるなら、関係は振り出しに戻る、だ。

「殺す理由がありません。私はご主人様に言われ、ミュータントを処分する。それを邪魔する者も排除する。あなたはこのどちらかに当てはまりますか?」

「……今日に限って言えば、NOだ」

 頭もケジメをつけると言っている。何もしないということはないだろう。なら、協力できる。

「つまり協力できるということです。もしよければスペアを一つ潰して、目を提供してもいいですよ。移植手術も、ご主人様に頼んでもいいです」

「赤い目なんて気持ち悪い。遠慮しとく」

「そうですか」

 視界が戻る、たとえ可能性の話であっても魅力的だが、それは相手にとって利益がない。競技用のアースを寄越したのもそうだ、いったい何が目的でよこしたのか。

「よしわかった。こいつらの指揮はご主人様に任せよう。俺はもうコロニーの復興で疲れた」

 どうやら、頭の方も話がついたらしい。これで方針は決定した。

「石頭にしては良い判断だ、評価する。では諸君、ゴミ掃除といこうか」

 支配階級様に命令されて動くのは癪だが、それでも結構。仲間の仇討ちというわけではないが、それでもやったことの責任はとってもらう。

「先に言っておくが、物理的な報酬はない。君らが今までやった事を見逃し、私の鎧として今後も働かせてやる事が報酬だ。明日の朝まで休憩して、万全の状態にしておけ。ゴミといっても、タダで殺されはすまい。では、私はまた明日、君たち三人分の機体を用意してここに来る」

「では、私もこれで失礼します。さようなら、また明日」

 エーヴィヒと支配階級の二人が建物から出て行くのを見送ったら、頭の方を見る。

「解散」

 気の抜けたその言葉に、こっちまで力が抜けてきた。

「あいさー」

 心の伴わない敬礼をし、回れ右をして体育館から出て行く。今日は言われたとおり、まずは一週間ぶりの我が家を堪能しよう。復讐は明日。そのために、今日はしっかりと牙を研ごう。

 そして明日は、その牙で……

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