真相
第68話
トーマスが整備車両で尋問を始めて少し。割りと短い時間で、悲鳴が聞こえなくなった。あれほど強気な態度を取っていたのに、もう口を割ったのか。もう少しかかるものだと思っていたのだが。まあ、時間がかからないのは悪いことじゃない。耳障りな悲鳴を聞き続けるのは気分が悪いし、それを聞かずに済むのはありがたい事だ。
重い腰を上げて、車両を移動する。
「トーマス、そいつは口を割ったか?」
まだ元の顔の形が分かる程度に青く膨らみ、口から赤い血を流してうなだれる女を見て話す。生きてはいるようだが。
「おう。もう少し楽しませてくれるかと思ったんだがな」
「情報は早い方がいい。で、どうだ」
「まずはいい話からしよう。敵の勢力規模はわかった。コロニーの位置も。あとお前が前に乗ってた骨董品と似た機体の入手経路も」
「いいねぇ。しかしその言い方だと悪い話もあるみたいだが?」
「悪い話ももちろんある。問題はその入手経路だ。この女が言ったままの事を、そのまま伝える。老婆のミュータントから、俺達の移動ルートの情報と一緒に受け取ったそうだ」
「老婆……の、ミュータント」
また頭痛の種が増えた。苦痛から逃れ帯がために吐いた嘘にしては随分と具体的かつピンポイントな情報。老婆、などと表されるほどの人間、あるいはミュータントはこの世界にはほとんど居ない。当人を知らなければ、危うく嘘だと笑い飛ばす所だった。笑い飛ばせれば、まだよかった。
「面倒というか。ややこしいことになったな」
守るべき、歓迎スべきお客様が招かれざるお客様を呼び込んでいた。信じたくないが、あのババアにはコロニーに害を持ち込む動機もある。息子を支配階級に殺されて、その復讐をしてくれと頼まれたのは、よく憶えている。そして、死都の探索で今まで一度も他コロニーの勢力と出会ったことも無かったと、アンジーに言われたのに、行ってみれば敵と遭遇。命からがら逃げ帰ったら、今度は俺たちのコロニーにまで敵がついてきたのをよく憶えている。
嘘と笑い捨てるには、あまりに判断材料が揃いすぎている。これでどうしてあのババアが白だと言えようか。
「あのババア……」
絶対に考えを行動に移すなと、わざわざ釘を刺しておいたというのに。さて、警告を無視された上に、甚大な被害まで出してくれたあのババア。一体どうしてくれようか……心情的には許せることではないが、だからと言って殺してしまうのは賢いやり方ではない。
コロニーの物的・人的被害は極めて大きく、その中から人手を狩りだして遠征組を作り、今現在はこの有り様。ここでミュータント狩りなんてすれば、一体誰が遺産を発掘してくるのか。支配階級の影響下からの脱出。マスク無しで生きられるコロニーの実現。その願いを一体誰が叶えるのか。
「辛気くさい顔すんなよ」
そうやって考えていると、背中を強く叩かれる。予想外の不意打ちに、思わずよろけてしまう。
「何を難しいこと考えてんだかは知らんが、それはお前の仕事じゃない。俺達はただ言われるままに働いて、その邪魔になるものを叩き潰して進めばいいんだ」
なんという脳筋。
「そんな単純な脳みそで、よく羽のリーダーになれたな」
「それが出来る腕があるからな。つっても、今回は少しやばかったが。まあお前だって腕はいいんだ。俺と同じように、ただ言われたままに動け。そんで目の前に障害ができたらぶっ壊せ。それでいいじゃねえか」
……まあ、こいつの言うことも一理ある。俺は羽で、頭じゃない。羽に考える機能なんてない、ただ羽ばたくだけ。なぜ羽に考える機能が無いのか、それはきっと必要ないからだ。今までだって、そうだった。考えずに、言われるがまま行動して、敵を殺して。そうやって生き残ってきた。なら、これからもそれでいいじゃないか。
そうしよう。難しく考えなくても、どうせ第一線からは外されるだろうし。考えるのは命の危険が目の前に迫ってからでいいだろう。
「ところで、この女はどうする?」
「女は貴重だ。生かして連れて帰って、人口増加のために働いてもらう」
「いいねぇ」
「減った分だけ増やしてもらう、てのはさすがにムリだろうが……」
キッチリ管理して産ませたとしても、この歳なら二人か三人……最高でも四人産んだ時点でくたばるか。
「ツケは払ってもらわないとな」
まだ目が痛むのと、女の顔が晴れてるせいで、下の欲求はいまいち湧いてこないが。痛みが収まって、彼女の腫れが収まったら。一度位はやらせてもらおう。こいつ一人の残りの人生は全てツケの清算に当てさせる。
それでも仲間の死と、目の代償にはあまりに安い。
一応伏線は張ってありました
気付くかどうかはともかく




