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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
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第67話

ついにサブタイが思いつかなくなってしまった

 第67話


一回寝て、腹が減ったから起きて。左目を一度手で撫でて、そこにあるべきものが無いことを認識する。というのも、寝る前の記憶が夢であって欲しかったからだ。残念ながら現実は残酷で、夢でも何でも無く、俺の左目はアンジーの腹の中。無くしたものを悲しんでもしかたがないので、とりあえず合成食料で空腹を満たす。目の痛みと、脳天を突き抜ける不味さに意識が完全に覚醒する。味は最悪だが、この不味さが目覚ましには丁度いい。

「おはよう。よく寝てたわね」

「おはようアンジー。どのくらい寝てた」

 車体が大きいから、こっちの方がトラックより走りは安定してる。揺れが小さくて、乗り心地も良い。だからよく寝れたんだろう。長旅の疲れも大分抜けた。あとはシャワーがあれば完璧なんだが。

「どのくらい寝てた」

「12時間位」

「コロニーまではあとどの位だ?」

「3日か4日ってところじゃないかしら。運転手に聞いたほうが正確な時間がわかると思うわよ」

「いや。いい」

 別に正確な時間が知りたくて聞いたわけじゃないし……ふと、両手の指を見る。ちゃんと十本揃ってる。寝てる間に齧られてないかと思ったが、流石にそんな事はしないか。

さて、それより半日も寝てたならトーマスも情報を聞き出して、お楽しみも終わってる頃だろう。

「コロニーへの報告ならあなたが寝てる間に終わらせたわ」

「おう、ご苦労さん。トーマスと話は?」

「それはまだ」

「わかった」

 それじゃあ、トーマスから話を聞いて。抜き出した情報を頭に伝えて。今後の方針を決めてもらって。それからコロニーに帰ったら、足に戻ろう。片目が潰れてちゃもう危険な仕事はできん。本当は引退して本でも読みながら暮らしたいところだが、コロニーじゃ働かない奴に居場所はない。

 戦前には労災保険だとか、戦傷者への支援制度だとかあったらしいが、この時代にそんなものは存在しない。働かざるものは死ね。女は働かないなら子供を産め。それが嫌なら死ね。弱者にとことん優しくない世界だ。

 そしてそんな弱者の仲間入りしてしまったことで、懸念が一つ。エーヴィヒだ。あいつは俺を殺せないから殺そうとしないと言っていたが、片目が潰れて戦力の落ちている状態なら、あいつにも勝機はある。殺せるとわかれば殺しにくるかもしれない。コロニーに着くまでに時間はあるし、対策を考える時間はある。


 ドアを開いて整備車両に移る。視界内に人の姿はなし。見えない左側を向くと、裸にされてだらしなく四肢を投げ出した女と、スッキリした顔で寝ているトーマスが居た。二人共よく寝ていて、俺が入ってきたことに気付いてない。

「トーマス。起きろ」

 足でつついて起こそうとするが、なかなか起きない。しかたがないので、露出されたままの股間の汚物を踏みつける。ブーツ越しに極めて不快な、柔らかいが芯のある感触が伝わってくる。少しずつ力を込めて、潰そうとすると、顔を青くして飛び起きた。

「……」

 無言で睨まれる。

「潰す気か!」

「汚いものを出したまま寢る方が悪いんだよ。寝起きから見たくもないもん見せやがって」

 おかげで気分は最悪だ。どうしてくれる。

「それで、尋問の成果は」

「あ、忘れてた。すまん」

「おいおい、仕事はきっちりやってくれないと困る。あんた一応上司だろう」

 もう壊滅状態とはいえ、一応はスカベンジャーの一部門のリーダーだろうに。そんなに不まじめでいいのか……気持はわからんでもないが。上司がだらしないからと、反抗したり、離れていく部下も、もう居ないし。

「一応は、コロニーの今後に関わってくる問題だ。頼むぞほんと」

「お前がそれほど仕事熱心だとは思わなかったよ。そんなにあのゴミ溜めが好きか」

「いや、そりゃない」

 コロニーが無いと生きていけないから大事にして。コロニーの今後に関わること、ひいては自分の命に関わることだから、真面目になってるだけで。あんな汚い場所を、一体だれが好きになるものか。

「でもな、俺達は適応種じゃないんだ。もう少し真剣に考えたほうがいいと思うぞ」

「……まさか友人に説教されるとはなぁ」

「言われたくないなら言われる前にやってくれ。俺も上司兼友人に説教なんてしたくない」

「言いたくないなら言わなきゃいいのに」

「言わせんな」

 馬鹿馬鹿しくなるやり取りの後、女に目を向ける。体に力は入っていないが、胸はちゃんと上下に動いている。生きているのは間違いない。近寄って、何か白い汚れがこびりついている女の顔を軽く叩く。本当は触りたくないが、トーマスにやる気が無いようだから仕方ない。

 一度叩いても起きないから、二度、三度と徐々に力を強くしながら叩いてやる。軽く音が出る位の力加減になると、まぶたが動いたので少し下がり、目が開くのを待つ。

「おはよう。気分はどうだクズ」

「……クズはどっちよ」

 犯された後だってのに、まだこんな態度を取れるとは。こいつもアンジーと同じ、強い女か。多分聞き出すにも一筋縄ではいかないだろうな。

「これからいくつか質問をする。痛い目見たくなけりゃ大人しく答えろ」

「フン、もう散々見たのに今更そんな脅しが効くと思うのね。おめでたい頭だわ」

 こうなるから、お楽しみの前に聞き出せといったのに。

「それじゃコロニーに着いてもひどい扱いはしないから、質問に答えてくれ」

「嘘ね」

「……まあ嘘だ」

 ため息を吐く。こうなったら、どうやって口を割らせたものか。目が痛まなくなったら俺も楽しみたいから、あまり痛みに頼った尋問はしたくないし。快楽で口を割らせるにも、それほどの技術もないし。そんなに都合よく薬があるわけもないし。でも情報を引き出すのは早いほうがいいし。

 困ったな。結局は、暴力に頼るしか無いと。女はコロニーに帰るまで我慢しようか。

「前と同じやり方しか無いな」

「そうだなあ……折角の上玉の顔を潰すのは勿体無いが、情報には変えられん」

「何。殴るの」

「その通り。早めに口を割った方が楽だぞ」

 近くに置いてあるアースのバックパックから手袋を取って、トーマスに投げ渡す。素手で殴ったら手が痛む。

「最低ね」

「汚染地帯に生身で放り出すのと、どっちがマシだろうな。じゃあ、今度はしっかりやれよトーマス」

「おう、任せろ」

 しかし、聞き出した情報を頭に報告したとして、今後どうなることやら。コロニーに残ってるスカベンジャーのほとんどは、足か腹か、怪我をした羽かだ。外に出ていける羽が居なければ他コロニーへの報復行動は取れない。報復するために足から人員を引き抜けば、今度は治安を維持できなくなる。ゴミや働き蜂から引き上げるにも、教育期間がある程度は必要だろう。そして腹はコロニーの復興中で手が離せない。

 ただ何も考えずに殺すべき相手を殺してればいい、という訳にも行かなくなってきた。自分が自分の生活を守るために何が出来るかを考えて、行動しなければ。

 面倒くさいことになってきた。全くどうしてこんな事になったのか。事の始まりを思い出せば、あの適応種のガキを拾ったところからだ。あれからどんどん面倒事に巻き込まれるようになった……というのは、ただの八つ当たりだな。これとそれとは、何の関係もないことだ。

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