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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
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野犬

冒頭、シモネタ注意

 アースの入ったコンテナを載せたトラックが、生存不能地帯の中をひたすら走る。開かない窓から見えるのは木の一本も生えていない荒野。変化があるのは、隣に座っている真っ白な少女の胸のように、ほんの僅かにだけあるささやかな起伏。

 ああ、そういえばこいつの下には毛が生えてるんだろうか。それともこの荒野のように、一本すら生えていない不毛地帯なのだろうか。などと、いつまでも変わらない景色に飽きて極めて馬鹿らしい考えが浮かんで、眼を閉じて、視界と一緒にその思考をシャットダウンする。暇つぶしのためにと図書館から本をいくらか持ってきたのはいいが、それを読むのは出かけて初日で諦めた。車が走るようにはできていない道を走るなら、当然車は大きく揺れる。そんな中で本を読もうと思ったのがそもそもの間違いだった。

「……」

「……」

 コロニーから出て二日目の車内には、タイヤの回る音と、エンジンの音だけが響いている。会話の類は一切ない。話のネタは初日で使い果たした。

 退屈だ。景色の変化も、環境の変化もない。この退屈をあと一日は味わわなければならないのがまた辛い。この考えが頭を過るのも、一体何度目になるだろう。一々数えたりはしてないので覚えていないが、少なくとも十は越えてるだろう。

「へい、お客さんよ」

 漫然と外の景色を眺めていると、ぽん、と肩を叩かれた。何の用事だろう。退屈が凌げるような内容ならいいんだが。

「仕事だ」

「何が相手だ?」

「野犬の群れだ。進路上に陣取ってるから、ちょいちょいと蹴散らしてきてくれ」

「犬か。その位ならひき殺せよ」

 あいつらは嫌いだ。すばしっこいし、小さいし、弾は避けるしであまり好きじゃない。アースの質量で殴るなり蹴るなりすれば一発で死ぬ位脆いんだが、だからこそ面倒くさい。

「轢き殺して、死体がタイヤに巻き込まれて。万が一ここで動けなくなったらどうする」

「ああ……そりゃもっと面倒くさいな。わかった、行こう」

「私も行きましょうか?」

「いい。犬くらいなら一人で十分だ」

 立ち上がり、固まった関節を伸ばすように体を動かす。

「すぐに戻る。そのガキには手を出すなよ」

 交渉の現場に支配階級の駒を座らせておいて、その一部始終を見せ、その内容を支配階級に伝えさせる。という目的もあるが、もう一つ役割がある。最悪の場合を想定して、それへの備えとして連れて来た。腕は悪くとも機体の性能は良い、コロニーに残る怪我人に比べれば戦力は大きい。それを傷付けられると、少し困る。

 死都撤退戦の時のような事にならないかを警戒して、釘を差しておく。

「心配すんな。俺はお前と違ってロリコンじゃないし、人の女に手を出す趣味はない」

「私達はそのような関係ではありませんよ」

「そうだ。そんな関係じゃないって、何度言えばわかってくれるんだ」

「俺達が飽きるまで。ま、手は出さないから安心していってこい」

「……あいよ」

 面倒だが、試運転といこう。車内の壁にかけたガスマスクを被り、機体の入ったコンテナに乗り込む。


 ……そして、お終い。総重量が1tを超える鉄の鎧を着込んでおいて、たかが野犬の群れを相手に何か問題が起きるはずもなく。鉄の塊を餌と勘違いして食いついてきた野犬を一匹ずつブレードとシールドで殴り殺すだけの簡単な作業だった。

 そんな野犬共だが、何の役に立たなかったというわけではない。尊い犠牲のお陰で機体の設定に問題があることがわかったのだ。

 問題と言ってもそこまで大きなものではなく、極小さなものだが。

 ブレードを振り回している最中、やけに機体の動作が大きいと思って設定を覗くと、体の動きをどれだけ機体に反映するかの値が通常100のところ、125に設定されていた。この値が大きければ、体を小さく動かしても機体は大きく動く。小さければ、大きく動かしても機体は少ししか動かない。コロニー産アースはデフォルトで100に設定されているが、この数値の差は……成人男性と少女の身長差だろう。修正。

「モーショントレース反映値を100に変更」

『設定変更。保存しますか?』

「YES」

 もしあのまま実戦に使うことになってたら、違和感に引きずられてそのまま死ぬことになっていたかもしれない。試運転しておいてよかった。

コンテナに機体を入れて、内側からコンテナのドアを閉じ、機体から降りる。バッテリーの消耗は無いに等しいが、なんとなくバッテリーは常に満タンでないと落ち着かないので、充電ケーブルをつなげておく。

「お見事でした」

 コンテナからトラックに移ると、珍しくエーヴィヒに褒められた。悪い気はしないが、やはり落ち着かない。まだ裏があるのではと、無意識下で疑っている。

「まともな機体さえありゃ、犬なんかにやられやしない」

 熊ならちゃんとした装備がないとやばいが。今回はたかが犬だ。負ける要素がどこにもない。

 待機場所から少し踏み込み、運転席に顔を覗かせる。

「運転手。出してくれ」

「ん、もう少しゆっくりしてくれても良かったんだが」

 シートを倒しハンドルに足をかけてくつろぐ運転手に声をかける。

「早く行けばその分早く帰れる。休みたい気持はわかるが、急いでくれ。遠征隊のことが気がかりだ」

「まだ短距離通信の範囲内に入らないのか?」

「まだだ。どうして中距離用の通信機積んでないんだよ」

「ただの積み忘れだ。普通コロニーの中でしか運転しないからな。ま、あいつらの事だ。どうにかできるとは思えんよ」

「……だといいんだがな」

 頭から話を聞いた時にどうも嫌な予感がした。最近の嫌な予感は本当に、嫌というほどよく当たる。重武装のアースの出番が、これ以降ないことを祈りたいが。

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