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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
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招集命令

今回は非常に短め

 結末。あえて振り返るほどの事もない。平穏かつ公平な話し合いの末に、武器をおろしたアースを元の持ち主に返却することになり、何か改めて揉めることもなく、極めてスムーズに引き渡しは完了した。

 それから一日。何の前触れもなく出された招集命令に従い、今日もまた殺し屋を引き連れて体育館で頭からの号令を待つ。最近は嫌な予感がすると必ずと言っていいほど的中するが、今日はその嫌な予感はしないのできっと悪いことではないのだろう。だが希望的観測と盲撃ちした銃弾ほど当たらないものもない。一応は気を引き締めて待つ。


 そして沈黙を守ったまま、待つことしばらく。自分が到着してからしばらくは、スカベンジャーの仲間たちが続々と入ってきていたが、徐々にその数も減り、最終的に誰も入ってこなくなってしまう。それでもまだまだ多くの人間を収容できるほどの空きがある。確か襲撃を受ける以前は体育館に収まりきらないか、入ったとしてもかなりキツイと思っていたが。以前の朝礼に集合した人員を見て、減ったなとは思っていたが、思った以上に減っていたらしい。

 今この場所に集まっている人員、これがスカベンジャーの無事な人間の総員だとすれば、このコロニーの受けた被害は施設や道路だけでなく、人員にまで大きな被害が出ている。ここに来ていない人間の全てが死んだわけではないだろうが、ここに来れないのならそれほどの深手を負っているということだ。動かなくなった歯車は機械から外され、ゴミ箱へと捨てられる。身近に重傷者の世話をしてくれる親切な人間が居ない限り、先は長くないだろう。

 犠牲者の大半は付き合いも何もない、名前や役職すら知らない奴らだとしても、わずかに哀悼の意を表したくなる。


『これで全員か』


 マイクで増幅された声が、沈黙が支配する体育館に響く。実に重苦しい、胸の底から絞り出したような苦々しい声。さすがに頭も被害の全容を掴んで頭を抱えてるようだ。


『んん……っ。じゃ、早速ここに集まらせた目的を公表させてもらう』


 勿体なぶることもなく、いきなり本題に入るらしい。そこはいつもの頭と何ら変わりない。


『ゲートの応急修理が終わって、コロニーの外部に出られるようになった。つーわけで、アースを動かせる人間は弾薬と装備を補給して、一ヶ月分の合成食料を冷凍保存して、遠征の準備だ。舐めた真似をしてくれたクソどもの面を一発ぶん殴ってこい。負傷や機体の故障で出られない奴は、コロニー内の巡回警備をしろ』

「……」

 

 頭の言葉に対するメンバーの反応はいまいち。そりゃそうだ、ついこの前命をかけて戦って、多くの犠牲者が出たばかり。頭はただ偉そうにふんぞり返って命令するだけで、血を流すのは俺達だけ。何の対価も見せられずにただ行って来いと

われて、行きたくなるはずがない。

 もっと士気を上げるような何かを提示しなければ、誰も乗り気にはならない。強制しても部下がそれを拒否すればお終いだ。ここらが、頭の腕の見せどころだろう。


『クロードとトーマスが拷問で吐かせた情報によると、敵さんのコロニーには美味い食い物と美女がたっぷりだそうだ。敵戦力は、前回の襲撃で壊滅させた分がほぼ全てらしい、蹂躙してこい』


 いや……そんな事は捕虜を傷めつけても一言も喋らなかったし。これほど明らかに嘘とわかるちょろい嘘で、一体誰が乗るのか。いやいや、誰も乗るわけがない。そう思って、頭の馬鹿さ加減に頭を抱える。


「うおおおお!!」


 そんな馬鹿に釣られる更なる馬鹿が居ることにも、また頭を抱える。考えたら有り得ない事くらいわかるだろうに。


『遠征班には明日にまた朝礼をかける。それまでに補給とメンテナンスを済ませておけ。以上、解散!』


 意外と短く終わった。話が短く済むのは実に結構なことだが、こうも短いとわざわざスカベンジャーの総員を集めてまで話すことだったのだろうかとも思ってしまう。

 だが、まあ。自分が火の中へ飛び込まずに済むことと、相変わらず勘は冴えているということで良しとしよう。


「帰るぞエーヴィヒ」


 解散を合図に崩れ始める列の中、小さな殺し屋の姿を見つけて声をかける。傍から見れば、歳のやや離れた妹を案じる兄に見えるかもしれないが、これはあくまでも自分の身の安全のため置いて帰ったらどんな仕返があるかわかったものじゃない。

 ただでさえ怪我をしているのに、そこであえて身の危険を増やすこともないだろう。

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