表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
53/116

出勤

例によって適当なサブタイでごめんなさい

 朝、眼が覚めてから少し経った程度の時間帯。朝食を取り、顔を洗ってから少しの間エーヴィヒと他愛ないやり取りをした後。整備してもらった後の点検のため、地下のガレージに降りていく。

 扉を開いて、すぐ横にあるスイッチを押して電気をつけると、真っ暗だった地下室を電灯の薄橙色が薄暗く照らし出し、修理後の様子が気になる借り物の機体がライトアップされた。


「……」


 返す時のことを考えると、思わず顔を覆ってしまうほどの悲惨な状態が目に映る。傷一つなく、表面を黒く塗装され、曲面の美しい装甲を持っていたアース。壊さずに返してくれと言われ、善処すると約束して譲り受けた……じゃない。借りてきたその機体の美しさは過去の物。

 今目の前にあるのは、塗装が剥げて、ズタボロになった装甲にブサイクな鉄板が貼り付けられ、コロニー内で生産するアースの方がまだ格好が付くというレベルのスクラップだ。

 生身ならともかく、アースでさえ直撃すれば跡形も残らないような大砲の至近弾を受けて原型を保ち、なおかつ中身もこうして五体満足で動く。それを幸運と言わずして何と言えばいいのか。

 しかし、それとこれとは話が別だ。このアースは借り物で、本来できるかぎり傷を付けずに返すべきもの。それをこんなにもボロボロにしてしまっては、さすがに他人に責任を感じる。その原因が例え、コロニーを守るために行った、仕方のないことだとしても。


「よく生きてましたね」


 後ろから聞き慣れた、聞き慣れてしまった声がする。


「いっそ死んでたほうが、面倒なことを考えずに済んだから良かったかもな」


 振り向かずに、今の胸中を述べる。幸か不幸か生き残ってしまったせいで、この先起こるであろう面倒なことを考えてしまっている。


「ではここで殺して差し上げましょうか」

「やめてくれ。せっかく拾った命をわざわざ捨てるつもりにはならん」


 軽い冗談だろうと流し、再びどう言い訳をするかの思案に耽る。


「そうですか。ところで、先ほどあなたの上司から電話がありましたよ」

「勝手に人の家の電話に出るなよ。教えてくれたのは助かるが」

「ごもっともです」


 そう思うのならなぜ電話に出たのか。追求は後でもできる。それよりも今聞くべきは、電話の中身だ。もしも火急の用事だったら、後回しにするのは良くない。


「……まあいい。それで、内容は」

「体育館にアースを持ってこいと」

「それだけ?」

「付け加えるのなら、いますぐに。と」


 頭も朝一番から面倒くさいことを頼んでくれる……それにしてもこのタイミングで、この命令。お客様からアースを返せとでも言われたんだろう。借り物をこれほどボロボロにしてしまって、どう謝ればいいのやら。

 謝罪は行ってから考えればいいか。動かすのも動作チェックのついでと考えれば面倒でもない。かつての格好良さは見る影もないオンボロに近寄り、近くに置いてあるガスマスクを付ける。


「わかった」


 機体の脇に手を突っ込んでつまみを捻り、装甲を開いて機体に乗り込む。修理はうまくいっただろうかと、ほんの僅かに不安を抱きながら袖を通すと、正面のディスプレイに光が灯り、内装が生き返ったことを教えてくれた。


「システムチェック……異常なし」


 いい仕事をしてくれる。これで見た目ももう少し取り繕ってくれていれば完璧だったのだが、たったあれだけの報酬で、問題なく動くようにしてくれただけも。これ以上を望むのは贅沢を通り越して、傲慢というものだ。

 息を一つ吐いて、右足を出し、一歩前へ。ほんの僅かな違和感。体の動きを機械が追って動き出すまでの一瞬タイムラグ……ふと、懐かさが湧いてくる。これに乗り換える前の機体も、これと同じくらいのラグがあった。

 感傷に浸りながら、左足も動かし。それから右左と順に足を動かして、ガレージのシャッターを操作して開く。スモッグ越しの朝日が差し込み、薄暗い地下室に明るさをもたらした。


「いつも通り、だな」


 モニター越しに見える風景。スピーカーから聞こえる音。太陽はスモッグに隠れ。風の音は工場の騒音にかき消され。コロニーはよく見た日常風景に戻っていた。


「行くぞエーヴィヒ。どうせお前も来るんだろう」

「……」


 声をかけたはいいものの、返事がない。サブカメラで機体後部の様子を見てみる。


「一言声をかけてから開ければよかったな」


 モニターには地面に膝をつき、喉を抑え、目を剥いて、清浄な空気を求めて開かれた口から唾を垂らし。苦しそうに喘ぐ彼女が映しだされた。それを見て別段慌てることもなくシャッターを降ろし、一旦機体から降りて予備のガスマスクを渡す。すると彼女は勢い良く俺の手からマスクを剥ぎ取り、何度も息を吸っては吐いてを繰り返し始める。


「手間をっ……おかけ、しました」

「付いて来るならさっさとしろ。そうでないなら寝てろ。遅れると頭にどやされる」


 今すぐに、と言われたからにはすぐに行く。頭の性格からして、言われた直後に到着してもあれこれ言われるだろうが、それでも急いだほうがいいのは確かだ。こいつの相手をして、無駄な時間を過ごせばそれだけ文句が長引くことになる。俺は面倒が嫌いなのだ、これ以上面倒ごとを増やさないでほしい。


「ゲホッ、行きますよ……それが仕事ですから」

「そうか」


 仕事仕事と、恐ろしく職務に忠実な奴だ。それ以外にやることは無いんだろうか。俺よりもずっと長く生きている癖して、何も無いのなら。それはとても、寂しい事だろう。ただ長い年月を仕事のみに生きる。俺にはとても考えられない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ