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鋼鉄の夢  -Iron Dream-  作者: からす
第二章 明日への逃避
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仕事 前編

あけましておめでとうございます。本年も頑張って更新していくので、よろしくお願い致します。


 墓参りを済ませて、腹の連中が集まる詰め所へとやって来た。二重になった入り口で上着とガスマスクを外して、カメラを中に持って入ると、入り口近くに座っていた何人かが、作業の手を止めて視線をこちらへ向け、すぐに自分の作業に戻った。それから数秒ほど棒立ちして、誰かから声をかけられないかと待つが、誰も彼も自分の仕事に集中してこちらを見ようともしない。

 待っていてもしかたがないのなら、自分から行くしか無いだろう。一番遅くまでこちらを向いていた男の方へと歩み寄っていく。俺が近寄って行くと、それに気付いた彼は勘弁してくれとでも言いたそうな顔をして、またこちらを向いた。仕事が増えるのは面倒臭い。それは痛いほどよくわかるが、それでも仕事は仕事。俺だって自分の仕事はキッチリやっているんだから、こいつらにも自分の仕事をやってもらわねば。


「区画の被害状況を撮影してきた」


 何枚ものディスクが散らばっているデスクの上に、カメラを優しく置いて、仕事をねぎらうように微笑みかけ、言葉をかける。本心は、自分の仕事は済ませたから後はよろしく、という感じで。


「仕事を増やしてくれて、どうもありがとう」

「大したことじゃない。気にするな」


 嫌そうな顔から発せられたその言葉に込められた感情が、感謝であるはずがないのはわかっている。だがあえて、それを言葉通りに受け取って煽ってやる。俺の仕事は終わったし、壁にかけられた時計を見たら、もう夕方。これから帰れば日も落ちて休むにはちょうどいい時間になる。


「じゃあ、そんなお前さんにお礼をしよう」

「いらん」


 即答する。碌でもないものへの礼なんて、どうせ同じく碌でもないものに違いないし。この後は家に帰って休みたいと思っていたところだし、出来る限り予定は変えたくない。どうしても受けなきゃならんのなら話は変わるが。


「遠慮するなって。今日の夜にお客様が来るそうだから、出迎えの仕事を頼む」

「……一応聞いとくが、招かれざる客じゃあないよな」


 お客様とは。この前おもてなししたばかりの客ならまたアースを出さないといかんし、そうでなくても足が出なければならない。どっちにしても疲れるのは間違いない。


「もちろん。ちゃんとアポを取って会いに来るお客様だ。ま、どっちの客にせよ足の仕事の範疇だろう」


 なるほど、それなら安心だ。死ぬ危険がないなら、仕事の中でもまだいい方だろう。少なくとも、この前の大仕事に比べれば遥かに楽。しかし面倒臭い。


「まあ、たしかにそうだが。他に人は居ないのか?」


 ダメ元で聞いてみる。が、多分駄目だろう。クソッタレなお客様共をぶっ殺す時に、ゴミ共だけじゃなくスカベンジャーにも多くの被害が出たことは俺も知ってる。さらに被害からの復旧に人出を割かれてるせいで、浮いた人員は無いに等しい。しかもその浮いた人員のない中で、その内の何人か。少なくとも十人以上は食事会の会場に居る。その状況で、これから暇になる奴を見逃すはずはない、か。


「お食事会に参加してない奴らは、ほとんどコロニーの被害確認かゲートの修復、工場の監視に当たってる。それに、お前この前お客様の集落に遊びに行ったんだろう? 適任じゃないかと思うが」

「一理ある。けどなぁ……」


 チラリ、と後ろを見るが、やはりそこには小さな殺し屋が立っている。あいつの思想は支配階級のそれに従う。支配階級の連中は、お客様のことを理由は知らないが毛嫌いしている。それこそ見かけたら即殺処分するほどに。こいつもおそらく同じようにするだろう。


「ちょっと耳貸せ」

「なんだ」


 耳元に口を寄せ、後ろのやつには聞こえないように小さな声で喋る。


「あいつ、支配階級の殺し屋なんだが。お客様を見たら多分殺しにかかるぞ。いいのか?」

「こっちこっちで忙しい。他に回せる人員も居ないんだ。お前のお友達ならお前がなんとかしろ」

「友達なんかよりもっと厄介で、物騒な仲だ……で、どうしても無理か」

「無理だ」

「……わかった。なんとかしよう」


 結論、どうしても無理。仕方がないから、エーヴィヒをどうにかして抑えるか、それともどうにかして他のやつに押し付けるか。悩むところだが、そうしなければお客様との関係が悪くなる。俺の機体も借り物だし、お客様とはできるだけ良い関係を保っておきたい。もし機嫌を損ねて「いい加減に貸してる機体を返せ」なんて言われても困る。まだ新しい機体も用意できてないのに返してしまっては、身を守る殻が無くなってしまう。そうなれば、性能の劣る量産機に乗り換えざるを得ない。そうなったら、果たして俺は彼女に殺されずに済むだろうか。


「何の話をしていたのですか?」

「仕事の話だ」

「できれば、内容を教えてもらっても構いませんか。お客さんがどうとか……ミュータントの事、ではありませんよね」


 珍しく表情が変わり、探るような視線と声色でこちらに問いかけてくる。それだけ、彼女にとって気になることか、それとも重要な事なのか。

 そうだ。良いことを考えた。あえてこいつをお客様にけしかけて、それを止めて恩を売るのはどうだろうか……駄目だな。失敗した時のリスクが高い。やめておこう。


「お客様はお客様だ。それ以外の事は知らん」


 考えていた時間は一秒未満。その後すぐに返事をして、適当にはぐらかしておく。どうせこいつもわかっているだろうが、一応ミュータントと知って積極的に協力しているわけではないということをアピールしておく。無駄かもしれないが、やらないよりはマシだろう。


「ミュータントかそうでないかもわからない、と?」

「俺が聞いたのはお客様が来るってことだけだ」

「そうですか」

「もしミュータントならどうする」

「見つけ次第殺処分するようにと言われております。が、居たとしても武器がありませんしどうしようもありませんのでご安心ください」


 安心しろと言われても、こいつの言葉は信用できないと何度も言っているだろうに。


「そうかい」


 さて。どう対策をしたものか。来るなと言っても付いて来るだろうし、ボディチェックをして武器がないかを確認しても、ひょっとすると武器を体の中に隠し持っているかもしれない。銃は無理でも小さな毒とかなら簡単に隠せるだろうし。

 しっかりと注意して見ていれば大丈夫かもしれないが、それでもまだ不安はある。しかし、俺以外にやる奴も居ないし。やるしかないんだろう。


「話は済んだか?」

「ああ。済んだ。で、俺はどこに行けばいい? いつも通りか?」

「いつも通りだ。これからゲートに向かえば、ちょうどいい時間に着くだろう。行って来い」

「了解。仕方ないから、行ってくるよ」


 他にやる奴が居ないなら仕方がない。気合入れて、もう一働きしてこようか。

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